第12話 襲来 4
「行くぞ!」
「おおおおおおおっっ!!」
今にも坂を駆け下りて行きそうな大人たちを、ダンの周囲にいた大人たちが止める。
「待て!!!まだ行くな!!!」
戦いに向かいかけていた大人たちは機先を制されて、驚いたように、そして不満そうにダンたちの方を見る。
「何だよ?!」
そう言うのを、大人の1人がなだめる。
「行く前に、この子の話を聞いてくれ!」
そう言われてダンは、大人たちに自分の考えを説明した。
時間が無いから早口で簡潔に。
「子どもの言う事なんかまともに聞いてどうするんだ!?」
反論が無数に上がった。そんな中、数人の大人たちが先走る者を止める。
「俺は小僧を信じるぜ!」
言ったのはスプリガンのルッツだ。すでに肉切り包丁を持っている。
同様に、凄まじく切れ味が良さそうな「カタナ」を持ったアズマ人の魚屋ゲンさんも、ルッツの隣に進み出る。
他にも、近所の大人たちはみんなダンを支持する。
「この子は先日のゴブリン襲撃事件で、ゴブリンを撃退した子です」
テレーゼが静かに言うと、高台で興奮していた大人たちが静まりかえる。
その静けさを逃さずにエドが言う。
「よし!指揮官殿!俺たちは何をしたら良い?!」
海賊たちは20艘のボートで、合計300人ほどの人員を狭い砂浜に集結させていた。
「おい!揃ったか!?」
小さな怒鳴り声で確認する。
砂浜に引き上げられたボート20艘を確認するだけで、人数までは確認しない。
荒れた波の中、湾の外側を走ったのだ。何人かは海に落ちているだろう。だが、海賊にとっての命の重さは軽い。誰かが落ちたとしても、あまり気にしない。
それよりも、波のせいで、かなり時間を食ってしまった事の方が気掛かりだった。
予定時間を過ぎているので、上手くいっても帰れば上の方に叱られるに違いない。すでに憂鬱だったが、事のついでの略奪ぐらいは出来るだろうから、それを楽しみにして仕事に掛かろうと思い直す。
「よし、静かに移動するぞ!騒いだりしゃべったりするんじゃねーぞ!」
この場を指揮する海賊が、小さな声で怒鳴る。
海賊たちは、ゾロゾロと丘を登り、灯台の横を通り、街を見下ろしながら、坂道を下っていく。
周囲には民家も無く、草地を下りて、大街道であるリア街道(ヘレネ市民は表通りと呼んでいる)に出ると、いきなり市街地となる。
その為、ここまで人目に付かずに移動出来る。問題はここからだが、ここまで来れば、港は目と鼻の先と言える。このままリア街道を500メートルも走れば、市場広場に入り、そこが港の入り口になる。
多少の荒事があっても、商船にたどり着く事が出来る。
流石に街道には下りず、その近くの草原を進み、街の中に入る。
街の人間は、皆逃げたか、湾内での戦いに参加しているのだろう。誰もいない。
いや。道の脇から子どもが飛び出してきた。慌てた様子で街道に走り出た所で、海賊たちと出くわした。
エルフの少年だ。
少年は、驚いたように近くの建物に駆け込む。
海賊たちは子どもの事など放っておこうと思ったが、子どもが逃げ込んだ建物は無視出来なかった。
「おい!宝石店だ!!」
海賊たちの目の色が変わる。
本来の目的は、商船の拿捕だ。だが、その前に、少しだけお駄賃を頂いても良いのではないか?
海賊たちは、互いに目を見交わしてから、強欲な笑みを浮かべる。
「ようし!手早く仕事するぞ!!」
300人の海賊たちは、宝石店に向かって、一直線に突進していった。
その時、宝石店の2階の窓から、さっきの少年が顔を出す。
「構えーーーーーーっ!!放て!!!」
少年のかけ声と共に、前方、左右の建物の屋根から、2階の窓から、「ビョウ、ビョウ」と、凄まじい音が響く。
街道の上空を埋め尽くすほどの矢が一斉に放たれたのだ。
「うわああああああっっ!!」
海賊たちはパニックになる。
降り注ぐ矢の雨に、逃げ場は無い。
レオンハルトも矢を射る。レオンハルトの弓はパインが作った魔法道具である。
命中精度、射程距離はレオンハルトの腕によるが、威力や効果が様々である。
弓の握りの葉っぱのレリーフのようなボタンが付いている。それを親指で上下に移動させる事で、3つの効果を示す。
葉っぱを一番上まで上げると、放った矢は命中すると爆発する。
一番下にするとしびれる効果を示す。
真ん中では氷の属性を持った矢が放たれる。
葉っぱを回転させて横にすると通常の矢だ。
全て、矢をつがえる前に弓持つ親指で操作出来るようになっている。
弓使いの冒険者や兵士からするとのどから手が出るほど欲しい弓である。それ故に、これ程の効果を持つ魔法道具なら、金貨で100枚は下らないだろう。
それをパインは、釣ってきた魚の礼にと、いきなり作ったのだ。
素材はこれまでダンたちが集めた「薬」、「花火」、「食品の鮮度を保つ魔法道具」の余りで作ったのだ。
レオンハルトの放った矢は、海賊の剣に阻まれたが、そのとたん、海賊は弾いた矢ごと、その場で凍り付いてしまった。
レオンハルトはすぐさま次の矢をつがえる。
ダンたちがいた高台には、1000人近い人が避難していた。
その中で、戦える人間は50人ぐらいいた。だが、矢を射るだけなら出来る人は、200人になる。
そして、このヘルネ市には2万5千人の人たちが住んでいる。
街外れの射撃地点に来るまでにも、多くの人が一団に合流した。それ故に、射撃地点には、1000人の人たちが集まっていた。
弓矢チームは700人。
それだけの数の弓矢はどうしたのかというと、パインが街路樹を1本丸々額の目で吸い込んで、更に、石畳を十数枚吸い込んで、あっという間に大量に出現させたのだ。
それを見ていた人たちは大いに驚いた。
だが、パイン本人は不服そうだった。と言うのも、即席で作った弓矢の素材が木と石なので、何の魔法効果も無いし、取り敢えず放てれば良い程度の品だったのだ。鏃も鋼では無く石である。
その代わり、弓の側面に流麗なツタの葉模様が彫り込まれていた。
その700人が一斉に矢を放ったのだ。
街道の真ん中に飛び出した海賊300人はひとたまりも無い。
矢によって倒れる者が大半で、中には仲間の体を盾にして矢を防いだ海賊もいた。




