第12話 襲来 2
翌日から嵐になった。
ダンの家は、ある程度対策をしていたので、ネルケの家に応援に行く。
だが、ネルケの家も、かなり準備が終わっていたので、ネルケと一緒にパインの家に行く。
「パイン?」
ダンが声を掛けると、シャカシャカと音を立てて、ギイにぶら下げられたパインが奥の居住スペースから出て来た。
「今日は店じまいだ」
パインの言葉に、ダンは肩をすくめる。
「分かってるよ。学校だって今日は休みなんだから」
「それより、嵐が来るけど、パインはちゃんと対策してるの?」
ネルケが言う。見た感じでは、何も対策をしていない様だ。窓に木の板を張り付けたり、床に置いている物を机の上に上げたりする事は、当たり前にやらなければならない。
だが、パインは無表情のまま首を振る。
「必要ない」
「何で?」
ダンの質問に、ようやく床に降りてきてパインが笑う。
「嵐は私の隷属だ。私を傷つける事は出来ない」
言っている事の意味は分からないが、確かにアイとギイがいれば、パインは無敵なのだろう。
「パインが無事でも、家は壊れるよ」
一応伝えておくが、やはり淡泊な答えが返ってきた。
「問題ない。壊れたら作れば良い」
壊れた物がそのまま素材となって、パインの額の目から復元されて出てくる所を想像する。
「なるほど」
納得せざるを得なかった。
「それより、収穫祭用の花火を作っておいたぞ」
パインの言葉に、左肩のアイが、上手に両手を使って、大きな筒を4つ持ってショルダーアーマーから出てくる。
あのショルダーアーマーの中に、どれだけの物が収納出来るのか、いつもながらダンは不思議に思う。
アイが綺麗に机に並べて置く。作業しているアイの真剣な表情が可愛い。上手に置き終えたアイののどを、ネルケが撫でてねぎらう。
夏祭りでの花火が好評だったので、今度は、収穫祭で5発打ち上げる事がヘルネ市で正式に決まった。
これはパインの正式な仕事となった。
報酬は2万ペルナー。魔法道具としては安いのだろうが、仕事としては中々良い値段である。金額を設定したのはダンである。
だから、花火の管理もダンの仕事と言う事になる。収穫祭の前日までは、この前の残りの1発と一緒に、パインに預かって貰う事は決まっているので、見せてもらった筒を、またアイが丁寧に両手で挟んで持って、ショルダーアーマーに沈んでいく。
しまい終わった後、頭の先だけを出して、目をキョロキョロさせてダンたちを見ている。ネルケと遊びたいのだろう。ショルダーアーマーの中からゴロゴロとのどを鳴らす音が聞こえる。
ダンはキョロキョロと店の中を見回す。
「うーん。やっぱり心配だし、今夜は一緒にこの家に泊まろうか?」
ダンの提案に、パインが眉をしかめる。
「私は大人だ」
すでに自分の事を子どもだと分かっているのに、パインは時々子ども扱いされると、反射的にこう言う。
「大人でも、子どもでも関係ないよ。女の子が1人で嵐の夜を過ごすのが心配なの!」
ダンの口調がいつもよりキツい。メグを死なせてしまった事で、パインを心配する気持ちが強くなったのだろう。
「うううううう~~~」
キツく言われて、パインが呻る。
「ちょっと!!あたしも一緒に泊まるよ!!それならみんなで遊べるから良いよね!!遊びたいよね!!アイも、ギイもさ!!」
ネルケが慌てて大きな声で提案する。
「む?むう。・・・・・・それならば構わんな」
パインが納得する。
『ごめん。ありがとう、ネルケ』
ダンはネルケに耳打ちした。ネルケが気を回してくれたと思ったのだ。ネルケは別の思惑があったので、それに対して「う、うん」と曖昧な返事を、バツが悪そうにする事しか出来なかった。
ガタガタガタと、窓が軋む。風がいよいよ強くなってきた。「思ったよりも早く酷くなりそうだ。取り敢えず布団を持って来るね!」
ダンとネルケは急いで家に帰り、両親に事情を説明して許可を取ってから、布団や、必要な物を持ってパインの家に行った。
午後になると、嵐は本格化した。
吹き付ける風が窓を、壁をギシギシ鳴らし、雨が屋根を激しく叩く。
「でも、意外と家の中って静かだよね」
ネルケの言う通り、自分の家に比べれば、パインの家にいると静かな気がする。
3人は2階のパインの寝室にいる。
ベッドが一つだけだった室内には、棚や机、椅子が置かれ、売り物として店に置いていた、よく分からない木の人形も飾られている。ネルケががんばっているようだった。
今は3人で2階の窓から海の方を見ている。
すごい速さで、黒っぽい灰色の、分厚い雲と、ちぎれたような雲が動いている。
波が白いしぶきを大量に飛ばして、湾内だというのに荒れ狂っている。
停泊している商船も、激しく揺れている。
湾の南からは、湾の半分までの長大な堤防があるが、それでも、やはり波は高い。
湾の北端にある灯台の岬には、かなり高い波がぶつかっているのが見える。
「夜の内には嵐も収まりそうだね」
「でも、今日はお泊まりだね」
ネルケが嬉しそうに笑う。
ゴブリンの襲来事件以降、こうして3人でゆっくり顔を合わせる機会などほとんど無かった。
「カードゲームしようよ!」
ネルケが持ってきたカードゲームを取り出す。
「むむ・・・・・・」
パインが困惑顔になるが、ネルケは構わずに話しを押し通す。
「ルールならあたしが教えるから」
こうして、そのまま夜まで、3人は遊んで過ごした。
そして、夜には3人で布団を寄せ合って床で寝た。
それは突然の事だった。
ガガガガーーーン!!!
激しい破壊音がゾウ広場に響く。




