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第12話  襲来 1

 ゴブリン事件から4週間が経った。

 ダンは、あれから冒険者ギルドの図書館を、頻繁に訪れるようになっていた。

 図書館では、戦史に関する本を読み漁った。

 「戦術」に関する興味が湧いたのだ。

 単なる好奇心ではない。

 自分が立てた作戦のせいで、メグを死なせてしまったと言う自責の念が、ダンを突き動かしていた。

 レオンハルトの「兵士になりたい」という告白も、ダンの考え方の方向に、一定以上の影響を与えていた。


「ダン。もう夕方だよ。帰ろう?」

 いつもの様にネルケがダンを向かえに来る。ネルケが来なければ、時間など忘れて本を読み続けている。

 ネルケは、雨用の上着を濡らしている。

「ネルケ。降ってきたの?」

 ダンは本から顔を上げて、ネルケを見る。

 かなりやつれている。ギルドの図書館は、灯りの魔法で、昼間のように照らされているため、ダンの青白い顔色は一目で分かる。

 ネルケは、預かってきたダンの雨用の上着を渡す。

「ありがとう」

 ダンは机に積まれた本を、元の場所に返しに行く。

 ネルケは、無言でダンを見つめる。見つめるのが辛い。それしか出来ない自分の無力さと幼さが恨めしかった。

 普通のドワーフ女子だったら、「ウジウジするなよ!」とイライラしそうな所だが、ネルケはどちらかというと人間の女子に近い感覚を持っていたのかも知れないし、そう言えないほど、ダンの事を思っていたのかも知れない。

 ドワーフの女性は、とても情熱的で、本気で好きになったら、相手に対してとことん尽くすし、嫌な所など気にもならなくなる、むしろ、嫌な所すらも愛してしまうのだ。


 外に出ると、風が強くなっている。

「もう嵐の時期だね」

 ダンがポツリと言う。

 9月も中旬を過ぎると、アインザークには嵐が頻繁に押し寄せてくる。

 アール海の中心で発生した台風は、南から大陸沿いを弧を描いて北上し、やがてドルトベイク方面に抜けていく。

 時に高潮になり、ゾウ広場が押し寄せる波で水没する事がある。だから、坂の下の建物はどれも階段を作り、ポーチを儲けて、床を高くしている。

「酷くならないと良いよね」

 ネルケが言う。ネルケの家は金物屋だから、海水が押し寄せてくると特に困る。

「何かあったら手伝うよ」

 ダンがフードの中からネルケに言う。

「そう言えば、ゲンさんも保存室、良い感じだって言ってたよ」

 魚屋のゲンさんにも、肉屋のルッツと同じ条件で鮮度保存の魔法道具を作ってあげていた。


「それで、パインは料理を覚えられたの?」

 ネルケはパインの料理の先生だった。だが、ネルケは苦笑して首を振る。

「それが、パインは味付けを全く覚えられないの。覚えられたのは塩だけ」

 ダンも呻る。

「どうもパインは、特定の概念が欠如しているみたいだな・・・・・・」

 ダンの言葉が難しくて、年下のネルケは首をひねる。

「つまり、何か決まった事だけ、どうしても覚える事が出来ないんだ。例えばお金。どれだけ教えて、一緒に使い方の練習をしても、結局覚えられずにいる。それと同じで、味はわかるけど、味付けに関しては覚える事が出来ないのかも知れないって事だよ。手順を教えても無理だろうね」

 ダンの説明で、ネルケも納得する。

「ああ~~。味付けを何度も説明すると、パイン泣くんだよね。すごく意外」

 街の人がそんな事で泣いているパインを見たらどう思うだろうかと考えると、ダンは思わずクスリと笑った。

 小さな笑みでも浮かべさせる事が出来たネルケは、嬉しい気分のまま、ダンと家の前で別れた。




 今のヘルネ市は、少し淋しい様相を呈している。

 それは夕方だと言う事や、雨が降っているからと言う訳では無い。嵐の時期になると、王都ガイウスから人が少なくなる。

 特に冒険者や陸路の商隊、観光客は減る。

 海路の商隊もやはり行き来は減るが、その分港に停泊しているので、船乗りの数は増える。

 アインザークから、アール海を横断してグレンネックに行く分には、潮の流れに乗って北回りで行けるので、嵐に遭遇する確率は減るが、グレンネックからアインザークに来る分には南回りになるので、台風の進行ルートと被ってしまう。だから、船で港が溢れかえる事は無いが、それでも普段より多い船が繋がれている。

 

 いなくなった冒険者や観光客は、今頃南の地に行っているのだろう。

 超大国にして、超先進国のグラーダ国に行っているのだろうと思うと、ダンは少し羨ましくなる。

 一応、アインザークとグレンネックは、かつては世界最大の大国だった。その後を追うカロン国を、僅か数日で攻め滅ぼしたグラーダ国のグラーダ三世。

 その後に世界を征服し、再分配した狂人の王。だが、その狂人の王が支配するグラーダ国の繁栄ぶりと、文化や文明のレベルが一気に上がった事。それが世界に波及し、様々な恩恵を授けている事に、ダンは非常に興味を引かれていた。

 あの国で勉強出来たらどんなに良いだろうか?

 グラーダ国には、世界に門戸を開いている「王立高等学院」、通称「アカデミー」がある。

 ダンが強く望めば、そこで学ぶ事も決して夢物語では無い。

 しかし、レオンハルトの告白は、ダンの胸に強烈な一撃を叩き込んでいた。


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