第11話 メグ 6
「何やってるんだよ、ダン!お前も手伝え!」
エドの怒鳴り声がする。
エドも、ネルケも、それぞれ縁に立って、登ってこようとするゴブリンに、上から石を投げたり、手に持った武器で叩いたりしている。
残ったゴブリンは6匹だ。それも、すでにどのゴブリンも手傷を負っている。
「悪い!」
ダンがそう言って、這い上がってこようとしているゴブリンの元に向かう。その間に、レオンハルトは最後の矢を放ち、もう1匹ゴブリンを倒した。
後5匹だ。
「これなら何とかなりそうだ!!」
ダンはみんなを励ます。正直、ここまでゴブリンを倒せるとは思っていなかった。
時間も稼げている。上手くすれば、あと30分ほどで誰かが助けに来てくれるかも知れない。
ダンはゴブリンの持っていた木の棒で、エドは木剣、ネルケはシャベル、レオンハルトは大切な弓でゴブリンを叩く。
集めておいていた石も、次々投げつける。
当たり所が悪かったゴブリンが1匹、2匹と地面に倒れる。
「倒せるんじゃねーか?!」
エドが興奮した様子で叫ぶ。
「うわああああ~~!もうやだ~~~!」
ドワーフの女性は戦闘に向いた体のため、冒険者になる者が多いが、ネルケは怯えている。怯えているが、殴る力は一番強い。
だが、そのまま事は運ばなかった。
ガシャガシャと音を立てながら、岬の方から、新たなゴブリンの集団が現れたのだ。ゴブリンたちは、窪地の上のダンたちに気付くと、すぐに我先にと一本道を走ってやって来た。
「うそだろ?!」
エドが呻く。
「もう、いやあ!」
ネルケが叫ぶ。
出現したゴブリンの数は10以上。しかも今度は、石を持って投げつける構えを見せている。
「レオン!ダメだ!」
ダンは、レオンハルトが下に降りて矢を拾いに行こうとしたのを見逃さずに、動き始める前に止めた。
「みんな!逃げるぞ!!」
ダンの合図に、今度はネルケも粘らずにすぐに決められた退路に向かう。
「レオン、先導して!」
レオンハルトは頷くと、先頭を走る。続けてダン、ネルケ。エドは、退路に置いておいた木の盾を持って、最後尾に付く。
「ネルケ!しっかりエドに合図して知らせてね!」
ダンがネルケに言う。
退路の茂みは切り開かれて、道が出来上がっていた。
ただし、その道には至る所に罠が仕掛けられている。
ロープなどを使って、雑に仕掛けられた素人の罠だが、数が多い。
その罠の位置を、先頭を行くレオンハルトが発見して、後続するダンに知らせていた。ダンはネルケに知らせる。エドは最後尾で、ゴブリンの攻撃からみんなを庇いながら進む為、しっかりサポートして罠を回避させてやらなければならない。
道を切り開いたのも、罠を仕掛けているのもリオだった。
リオはドラゴニュートで、竜と人間を合体させた種族である。
太古の神と魔神の戦争の時に、魔神の兵士として作られたのだが、残念ながら魔神が期待した種族にはならなかった。
遅い足に、飛べない翼で、炎も吐けない。力も持久力も人間と大して変わらなかった上に、性格が温厚で、とても戦闘には向かない種族となった。
しかし、その爪と牙は紛れもない竜種の物である。
その気になれば、木を切断したりする事は容易いし、力さえあれば、爪で岩を砕く事も出来る堅さと鋭さを持っている。
だからリオには戦闘では無く、退路を作って貰う為に先行させていた。
罠は時間稼ぎして、逃げ切れる為のものだった。
ダンは、無理だと思ったら、迷わず逃げるつもりだった。逃げ切る為には罠は雑でも多い方が良い。
「リオ、がんばったな」
前を行くレオンハルトが感心したように言う。
ダンも頷く。
思ったよりも長く道を切り開いているし、罠も多い。
足を引っ掛ける物や、木の枝が弾かれて打ち付ける物、ちょっとした落とし穴などだ。
道も、木々があるので一直線ではないので、罠をカモフラージュして仕掛けやすい。
ただ、レオンハルトにはすぐに見破られてしまうし、ダンでも気を付けていれば回避出来るレベルだ。
それでもゴブリン程度なら充分だろう。
「それと、ダン。やっぱり君はすごい」
レオンハルトが言う。
「道を切り開けば、ゴブリンは迷わずにこの道をたどる。罠の道を必ず通る。それを狙ったんだろう?」
それはその通りだった。ゴブリンの知能は幼児並みで、欲望に忠実だ。危険かもと想像して、迂回して獲物を見失う事などしない。
少し走ると、後ろの方で「ギャア、ギャア」とゴブリンたちが叫んだり、文句を言っているような怒声が響いてきた。
切り開かれた一本道を、何の疑いも無く追いかけて来て、罠に掛かっているようだ。
距離も開き、もう石も飛んでこなくなったので、エドは盾を放り捨てて、逃げるのに専念し出す。
木々の密集した地帯を抜ける手前で、リオに追いついた。
「リオ!逃げるよ!」
ダンが叫ぶと、罠を仕掛ける作業をしていたリオが、驚いて飛び上がる。
見ると、口からは血が出ているし、僧衣も破れて、腕のうろこが所々めくれ上がり、傷を負っている。
かなり無理をして、木を切ったり、罠を仕掛けていたのだろう。
「無理させちゃったな」
ダンがリオをねぎらう。
「い、いえ。戦えなくてごめんなさい」
リオはそう言いながら、ダンたちと一緒に走り出す。
すぐに松林に続く道に出た。
背後から追ってくるはずのゴブリンの叫び声は遠い。
罠が効果を発揮しているのだろう。
「これ以上は子どもの手には負えない。街に逃げよう!!」
ダンの言葉に、みんな頷いて、街に向かって走る。
だが、ダンとリオは、すぐに体力の限界が来てしまう。
『ごめん。先に逃げて』
その言葉も言えない有様だった。
「何も言うな。とにかく少し休むぞ」
エドがダンとリオを気遣う。ネルケが水筒を渡してくれて、二人は喉を潤した。
レオンハルトとエドが、後方を警戒してくれる。
ダンたちの呼吸が整う前に、来た道の方から、「ギャア、ギャア」と、やかましいゴブリンの声が響いてくる。
「まずい!もう来た!?」
ネルケが顔を青くする。
「い、行こう!」
ダンは立ち上がる。ネルケがそれを支える。リオはエドとレオンハルトに支えられて立つ。




