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第11話  メグ 3

 ダンは息を飲む。

 ゴブリンと言えば、社会的な交流を持つ事が不可能で、地上人に害を成すモンスターである。

 身長は120センチ程度。大きくて150センチ。

 緑色の皮膚に、尖った耳と鼻。体毛は生えておらず、後ろに長細い、大きな頭を持っている。

 幼児並みの知恵を持っているが、非常に残虐で、地上人は殺して喰う物としてしか見ていない。

 力は弱いが、自分たちは奪う者だと信じて疑わず、非常に攻撃的である。

 「ゴブリンが湧く」と言われているように、どこからか突然纏まって出現する。そして、近隣の村や町を襲うのだ。

 ゴブリンは見境無く、腹が減れば仲間も平然と食べる、完全に地上人とは相容れない存在である。それ故に、「モンスター」と認定されている。


『こ、こんな街の近くにゴブリンなんて?!』

 ダンは恐怖する。モンスターが出現するのは、大体が小さな町や村の近くである。ヘルネ市はアインザークの王都ガイウスである。この辺りは田舎めいているが、これでも充分都市部である。

 少なくとも、このヘルネにモンスターが現れたと聞いた事は無い。

 奴等が食べているのはキツネかタヌキか?

 すぐにでも食べ終わってしまいそうだ。


 ダンが合図すると、レオンハルトも頷いて、静かに後退し始める。

 少し離れてから、2人で小声でのやり取りをする。

「奴等、きっと街に向かうね」

 街へ行くのは、ダンたちが通ってきたルート以外は、かなり坂が急で厳しい。恐らく、同じルートを来るはずだ。

「速く逃げなくちゃ行けないね」

 レオンハルトの言葉に、ダンは考える。

「いや。普通に逃げたんじゃ、きっと追いつかれる」

 メグは海に逃がせば良いけど、リオとアンナは足が遅い。ダンも体力面では不安がある。街に着く前に追いつかれてしまう。そうなったら、ただ殺されて食べられてしまう。

「どうするんだい?」

 レオンハルトの目は真剣だ。

「このままじゃ、きっと誰かは殺されるし、街にも被害が出る」

 ゴブリンは力は弱いが、体力は地上人よりあるし、走る速度も地上人と同じくらいだ。となると、子どもが走って逃げても、すぐに追いつかれてしまう以上、出来る事は少ない。

「レオンハルト。僕たちで迎え撃とう」

 ダンは決断する。

「無茶だ!」

 レオンハルトが目を剥いて言う。それに対して、ダンは必死に頭を働かせながらゆっくり答える。

 激しい恐怖を覚えているが、混乱はしていない。むしろかなり冷静だった。

「奴等をやっつける事は出来ない。でも、時間を稼ぐ事ならきっと出来る。その為には、今すぐに、ここで迎え撃つ準備をしないといけない」


 レオンハルトは、ダンの考えを聞いてから頷く。

「なるほど・・・・・・。厳しいけど、それなら時間だけは稼げるかも知れない。少なくともただ逃げるよりは生き残る可能性はあるかも・・・・・・」

 いつも穏やかなレオンハルトの目が、狩人の鋭い目になる。



 

 静かに、それでも最速で仲間の元に戻った2人は、すぐに秘密基地に引き返しながら、小声で状況を説明した。

「そんな事出来ない!!」

 アンナマリーが言う。恐怖と混乱で泣いている。

「静かに、アンナ。君がいた方が僕たち全員が危険なんだ。だから、急いで街に戻って、どうか助けを呼んできて欲しい」

 ダンがアンナマリーを説得する。そして、自分の腰の鉈をブリュックに手渡す。

「ブリュック。アンナを1人で行かせる訳にはいかない。だから、ブリュックが護衛だ。アンナを確実に街に帰してやって欲しい。それと、ブリュックは信用があるから、冒険者ギルドや兵隊にこの事を話して欲しい」

 ブリュックはアンナマリーの様に駄々をこねなかった。

「分かりました。無茶しないで下さいね!」

 そう言うと、鉈を受け取り、アンナマリーの手を引いて、すぐに街への道を走り出す。

「よし。じゃあ、急いで準備をするぞ!」

 2人を見送ってからダンが仲間たちに号令する。

「分かったぜ」

「了解した」

「や、やりましょう」

「あ~~~。もう、やだ~~~」

「ウチ、重要やな~~」

 それぞれに返事して、動き始めた。





 ゴブリンの到来は、それから20分もしない内だった。

 鬱蒼と茂った木々の間から姿を現し、大小の岩を足場に、背の高い崖から降りてきた。

 少し開けた岬に出ると、岬の突端に小さな子どもがいるのに、ゴブリンたちは気付いた。

 「こんな所に?」などゴブリンたちは思わない。さっきのキツネだけでは少しの腹の足しにもならない。目の前にごちそうがいるのだ。襲わないではいられない。

 しかも子どもだ。襲うに容易いし、肉も柔らかい。

 先頭のゴブリンは、後から来る仲間に何も告げずに、いきなり獲物目がけて走り出す。少しでも多く獲物を自分が食べたいのだ。

 それに気付いた他のゴブリンたちも、狂気の声を上げながら獲物目がけて殺到する。

 ゴブリンの持っているのは、棍棒と、先の尖った木の棒だけだが、充分殺傷能力がある。

 鉄製の武器を手にしていないのは、まだ地上人の住む村や家を襲っていないからだ。


 ゴブリンに気付いた子どもは、怯えたように岬の突端に向かう。

 ゴブリンたちは残虐な笑みを浮かべる。逃げ道は無い。確実に獲物を捕らえた。

 先頭を行くゴブリンが、腕を伸ばして獲物に飛びかかったとたん、ゴブリンを凄まじい衝撃が襲う。

 そのゴブリンは、何が起こったのかも分からないうちに、首だけが空を向いて吹き飛ぶ。

 仲間に起こった変化にも一切かまわずに、他のゴブリンも獲物に飛びかかっていったが、次の瞬間には、獲物は姿を消していた。

 飛びかかっていたゴブリンは、獲物が人間では無く、下半身が魚の形をしているのに気付いた。

 ゴブリンはマーメイドの存在など知らなかったので驚く。

 そして、そのマーメイドは消えたのでは無く、海に飛び込んでいったのだ。そこでゴブリンは気付いた。自らもすでに宙を飛んで海に向かって落ちて行っている事を。

「ぎゃあああああ!!」

 海に飛び込んでいくゴブリン2匹は、恐怖に叫ぶ。

 生きるも死ぬも怖がらず、ただ奪う者であり続けると信じ切っているゴブリンでも、唯一恐ろしいのが水だ。泳げない種族であり、本能的にか、深い水を極端に恐れるのだ。

「こっちにおいで~よ~」

 メグが手招きしながら、ゴブリン2匹を道連れに、海に落ちた。

 

 最初の1匹は、メグの強烈な尻尾の一撃で、完全に首の骨が折れて絶命していた。

 メグは海の一族で、海に生きる以上、生き物を自ら狩って生活をしている。だから、戦う心構えは出来ていた。


 メグに殺到していたゴブリンたちは、必至に踏みとどまり、海への落下を間逃れた。

 そして、距離を取りながらも、海に向かってギャーギャー吠えて文句を言う。

 海に落ちたゴブリンは、浮かんでくる事は無い。

 それから、首の骨が折れて死んでいるゴブリンをみると、1匹が何の躊躇も無く、腹にかじりつく。それを見た他のゴブリンも仲間の死体に群がっていった。せっかくありつけると思っていた獲物を逃した腹いせもある。


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