第10話 夏祭り 5
夕方になり、ゾウ広場には、若い男女が続々と集まってきていた。
広場中央の噴水の周りには、音楽隊が楽器を鳴らし、頃合いを待っている。
噴水の周囲に、人々が集まっているのは、すでにペアを組んで、音楽が始まるのを待っている人、相手を探している人、取り敢えず飲んでいる人など、様々だ。
日が落ちてきて、空が赤くなると、広場のあちこちに飾られたカンテラに灯りが灯される。
音楽隊の近くには、篝火も焚かれ、その明かりに集まる虫のように、広場にはさらに人が集まってきた。
「始まっちゃうよ!」
ネルケがパインとダンを急かす。
パインは、今日もネルケの家で着付けをされて、化粧をされている。相変わらず無理がある厚化粧だが、見慣れたのか、ダンはちょっと「可愛いな」と思えるようになってきた。
またしても緊張しているのか、目つきがすごく悪い。
「大丈夫だよ。僕は運動は苦手だけど、ダンスならリードしてあげられる自信はあるよ」
ダンが手を取ってお辞儀をして見せたので、パインはようやく少し安心したような表情になる。
「あたしもリードしてよね!」
ネルケが言うので、ダンはにっこり笑って、2人の少女に恭しくお辞儀をした。
そんな事を話していると、広場から音楽が鳴り始め、集まった人々の歓声や、口笛、指笛が鳴り響く。
明るく陽気な音楽に、人々の踊る足音、手拍子、しゃべる声が混じり、祭りが盛り上がる。
「よし、行こう!」
ダンは2人の手を引いてネルケの家を出た。
「すごい人だね。はぐれないようにしないとだよ」
ネルケの言葉に、ダンが笑う。
「はぐれたら、パインのお店に行けばいいさ。パイン、わかった?」
「う、うむ」
パインが硬い表情のまま頷く。
最初にダンは、ネルケと踊った。
「ネルケ。僕と一緒に踊って下さい」
「喜んで」
2人でお辞儀を交わすと、ダンがネルケの横で、腕を胸の前に当てながらステップを踏む。
ネルケもダンの横で、左右にチョンチョンと跳ぶようなステップを踏む。
それから、手を繋いで、次に腕を組んで踊った。
少しすると、それを見ていたパインの所に戻り、パートナーチェンジする。
「パイン。僕と一緒に踊って下さい」
「む、む。よ、喜んで・・・・・・」
パインも見よう見まねでお辞儀をする。
そして、同じステップから手を繋ぎ、腕を組んで踊る。
パインはぎこちない動きだが、必死について行こうと、足を動かす。
「上手いぞ、パイン!その調子だ!」
ダンが励ますので、パインも少しだけ笑顔になる。
再びのパートナーチェンジ。
同じ音楽の内に、もう一度ずつ踊った。
パインも2回目は、少し楽しそうに踊る。余裕が出て来たのか、踊りながらダンとおしゃべりも出来た。
曲が変わったので、少し休憩して、次の曲では3人一緒に踊った。
「一回パインの店に引き返そうか」
ダンがそう言った。そろそろあの曲になるはずだ。
そう思ったが、行動に移す前に、曲が始まった。
「あっ」
と言った間に、ダンたちは周囲の人たちに手を繋がれ、大きな輪になる。
輪は噴水を中心に、何重にもなっている。誰彼構わず手を繋いでいるので、ダンも、ネルケも、パインも、すっかりはぐれてしまった。
「あっちゃ~。始まっちゃった」
ダンは呟いたが、何てことは無いフォークダンスだ。
輪になって、次々前後の人とパートナーチェンジをしながら一曲踊るだけだ。
「はぐれたらパインの店に行けば良いだけだから、まあ、大丈夫だろう」
若干パインの事が心配になったが、踊るだけだから問題は起こらないはずだし、パインは踊りを覚えるのも早かったから、楽しんでくれるだろう。
ダンは、フォークダンスの間、次々とパートナーチェンジをして行く。女の人と踊る場合もあったが、男の人と踊る事もある。
街の人だけではなく、観光客も一緒になって踊っている。だから、踊りが全く分からない人も当然いた。それでも、みんな楽しそうに踊っている。
結局、踊りなんて、楽しければ良いのだから、メチャクチャでもいっこうに構わないのだ。
曲の最後は、ちょうどパートナーチェンジのタイミングだ。その後は少しゆっくりした曲になるので、その新しいパートナーとの出会いを次の曲で楽しむ様になっている。
「あら、ダン」
穏やかで、柔らかな声に、ダンがドキリとする。
最後のパートナーはレオンハルトの姉、テレーゼだった。
「テ、テレーゼ!?」
瞬時に顔が熱くなり、鼓動が早くなる。喘息は治ったのに、呼吸が速くなる。




