第10話 夏祭り 4
そして、次に、ネルケ同様隠れているパインをダンの前に引きずり出す。
「ダ、ダン・・・・・・」
パインは思わずうつむいてしまう。両肩にアイとギイがいない事が心細い。
「うわあ!思った通りピッタリだし、似合っているよ!」
ダンがまたしても明るい声を出す。
パインの衣装は、赤地の頭巾に青い花を咥えた銀糸の竜の刺繍をあしらっている。
スカートは、プリーツのたくさん入った物で、黒地に刺繍リボンを縫い付けている。並んで配置された花は、同じく青。
上着にの左肩には、クロヒョウの形に切り抜いた布を縫ってビーズを付けて装飾している。
「そうか?!」
ダンの言葉に喜んだパインが顔を上げる。
「う、うん・・・・・・。可愛いよ・・・・・・」
答えたダンの表情が強ばる。以前に一度見ていて、ある程度耐性は出来ているはずだが、今度のお化粧は以前の物より更に濃い。ダンの言葉を詰まらせるのに充分だった。
「まあ、そうだろうね。とは言え、落第ね」
ネルケの母親が苦笑する。
パインの青白い顔色と、目の周りの隈取り、それと紫色の唇を、何とかカバーしようと奮戦したのだが、赤い口紅を塗っても、顔色を良くしようとしても、どうにも上手くいかず、演劇に出る人物のような過剰な化粧になってしまった。
さらに、目つきの悪さはカバー出来ない。
それでも、パインはダンの言葉に勇気づけられたようで、「さあ、行こう」と張り切る。
「ありがとう、お姉さん!」
ネルケの母親を「おばさん」と呼んだら、耳がちぎれるほど引っ張られる。
3人は、すぐ近くのゾウ広場ではなく、街を歩いて回って、出店で食べ物を買ったりしながら、祭りの装飾で賑やかな坂道をどんどん上っていき、一番高い位置にある「星空広場」に行った。
買い物では、ダンがパインにお金の使い方を教えようとするが、実践しながら説明しているのに、パインは困り顔で「うううううう~」と呻る。
買い物が終わると、「もうわかった」「大丈夫だ」と言うが、次の買い物でも、またお金の使い方を忘れている。
「パイン。魔具店でお客が買い物をしようとしたら、何か言う前に、僕の書いた張り紙を見せるんだよ」
『魔法道具をお求めの方は、店主ではなく、向かいのパン屋のダンにご相談ください』
そう書いた張り紙をいくつも店に貼っている。
ダンは諦めてそう言った。一応パインは頷いたが、分かっているのかどうかかなり怪しい。
途中で赤地区の山車に遭遇した。
まだ2日目なので、錬り子も舞子も元気が有り、激しい勢いで厳しいカーブを駆け抜けていった。
すれ違い様、山車を引く錬り子の1人がダンに気付いて声を掛けてきてくれた。
「坊主!お前の作った山車は、最高に引きやすいぜ!おかげで目立ってるぞ!!」
「三日後に死んでね!!」
ダンの激励に、錬り子の人が喜んで吠える。
「おうよ!三日後に死んでやる!!」
「死んで良いのか?」
パインの疑問は当然であるが、ダンもネルケも大笑いした。
その後、ダンたちは星空広場で演劇を楽しんだ。
時々厚化粧の子どもに、ギョッとする人はいたが、誰もそれがパインと気付かず、3人はその日の祭りを楽しんだ。
「ダン、ネルケ。楽しかった」
帰り道で、パインがぽつりと言う。
「良かったね!あたしも楽しかったよ!」
パインとネルケは手を繋いでダンの後ろを歩いている。
ダンが振り返って笑顔で言う。
「明日の夕方からは、ゾウ広場での踊り祭りだよ!2人ともよろしくね」
言われて、2人は顔を見合わせて神妙な顔で頷いた。
夏祭りの3日目。
この日もダンは、店の手伝いで忙しく過ごす。
メグと母親は店で商売。ダンと父親は、街中を巡って売って歩く。
仕事は昼過ぎまでで終わりとなったが、2人とも真夏の街を歩いて売っていたので、汗びっしょりになる。
特に父親は、2日間「囃子」として山車と行動を共にしているので、かなり疲労がたまっている。売り終わって店に帰るなり、居室に倒れ込む。
そして、少し休んだら、また囃子に戻るのだ。
午後からは仕事から解放されるので、メグとエドとで、パインの店に行った。
「任せとけって!やり方はばっちりだ!」
花火の打ち上げは、エドとメグとで行う。
エドはダンスの相手がいないので、意気揚々とこの役目を引き受けてくれた。
夜8時の鐘と同時に、湾内の船の上から花火を打ち上げる。
ボートはメグが押す。
2人を火花や、万が一サメが現れた場合に守ってくれる為に、エドがアイとギイのショルダーアーマーを装着する事になる。
ボートは、赤地区仲間の漁師が貸してくれた。
「ギイは賢いから、任せておけば問題ない」
パインの命令を受けているから、ギイは素直にエドにも従う。アイは頭の先を少しだけ出して、ただ時々眺めるだけだ。
「打ち上げられるのは1つだけになったけど、充分気を付けてよね」
ダンが火付け棒を手渡しながら念を押す。2つある花火のウチ、やはり安全面を考慮して、打ち上げられるのは1つだけになったのだ。
「少し改良してあるから大丈夫だ。ただし、一度火を点けたら、絶対に発射する」
「だから、大丈夫だっての!」
何度も言われて、エドは唇を尖らせる。
「それより、メグ!終わったら一緒に踊ろうぜ!」
エドが誘うと、メグがにっこり笑う。
「エドは好みやないけど、せっかくやから踊ってもええで~」
それを聞いてエドはガックリする。
「お前、小っさいのにキツいな~!」
「まあ、ええて、ええて。ウチ、マーメイドやさかい、ちゃんとリードせんとあかんで~。上手く出来たら見直したる~」
あくまでも強気発言のメグに、ダンもエドも笑った。




