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第10話  夏祭り 3

「レオン、リオ!緑地区の山車も見に行こうよ!」

 アンナマリーが2人の手を引く。

「そうだね」

 レオンハルトが言って、ダンたちに手を振る。

「ぼ、僕は神殿だから、どこの地区でも無いんだけど」

 リオの意見は、完全に小さいアンナマリーに無視される。


「ウチは店に戻るな~。お母ちゃん1人じゃ大変やし、ウチ、看板娘やから~」

 メグは短い足で、ヨチヨチ、長いしっぽをフリフリダンのパン屋に戻っていった。

 ちなみにダンの父親は、かなりの早朝から起きて、パンを仕込んでから、今日は囃子として山車について回っている。

 パンの仕込みは、ダンも一緒にやっているので、今日はお役御免である。


「よし!ダン!俺たちも祭りを見て回ろうぜ!」

「そうだね!」

 エドの言葉に、ダンは頷く。

「あ~~っ!いや!兄さん!今日は兄さん、僕たちと祭りを見て回るって約束してたじゃないか。兄弟たちだけでって!」

 ブリュックが慌てて言う。だが、エドは首を傾げる。

「え?そんな約束したっけ?」

「忘れっぽいな~。確か10日前にご飯の時に言ってたよ。な、ジンジャーも聞いているだろ?」

 ブリュックに言われて、ジンジャーは適当な感じで頷く。

「うん」

「そうか。いや、そうだったな!覚えているぜ。兄ちゃんが祭りを案内してやるから、任せとけ!」

 エドはあっさりと張り切る。

「そんな訳で、悪いな、ダン!」

「ああ。いいよ。僕はネルケと一緒に祭りを見て回るよ。2人だけになっちゃったけど、いいよね、ネルケ?」

 ダンの質問にはネルケはすごく嫌そうな顔をする。

「え~~~~。うん。まあ、仕方ないよね~~~」

 本心はともかく、状況的にそうなってしまったという感じを出している。

「ごめんごめん。アメを奢るからさ」

「うん。ありがとう!」

 こうして、ダンたちはエドたち兄弟と別れて祭りを見て回った。




 ネルケは終始ゴキゲンだった。

 奢って貰ったアメをぺろぺろなめながら、沢山の人がいるからはぐれないようにと、ダンから繋いで貰った手を意識しながら歩く。

 街の外から来た観光客から、祭り衣装を着ている2人の子どもに「可愛いね」などと声が掛かる。

 その度に、ネルケはダンに作って貰った頭巾が誇らしくなった。 

 しかし、ある事に気付いて、急に表情が曇った。

「ねえ、ダン。パインにも祭り衣装を作ったんだよね?」

「うん。作ったよ」

 だったら、何でだろう。ダンの性格から、今二人きりになっている理由が分からない。

「パインの事は誘わなかったの?」

 本来なら、今はダンとネルケと、当然パインもいるはずだった。

 言われて、ダンが悲しそうな苦笑を浮かべる。

「誘ったよ。でも、パインは昼間に人前に出るのが怖いんだって。嫌われているから、怖がらせるからって」

 ネルケの胸に、針が刺さったような気がした。

 すっかり浮かれて、今までパインの事を忘れていた自分が情けなかった。つい嫉妬してしまう自分が浅ましかった。

「でもさ。明日の夕方には、一緒に祭りを楽しもうって言ってるんだ。だから、ネルケも協力してよ」

 明日の昼間は、ダンも店の手伝いをする事になっている。メグが祭りを楽しむ番だからだ。メグの案内は、アンナマリーが引き受けてくれた。

「・・・・・・そっか。じゃあ、いっぱいがんばろうね!」

「ありがとう」



 

 翌日の祭りも盛り上がっていた。

 この日は、広場ごとに演劇が催されていた。

 昼の部と、夜の部の2回講演で、時間が同時なので、どこか一つの劇団の演劇しか見る事が出来ない。

 

 夕方に、パン屋が閉店してからダンは、パインを連れてネルケの家にやって来た。

「ネルケ。パインが服の着方が分からないんだって」

 家に来るなり、ダンはそう言った。

 パインは無表情で、両手にダンに作って貰った祭り装束を持っている。流石にアイとギイは置いて来ている。



「うん。ちょっと化粧してみようかしら」

 ネルケの母親がパインの着替えをネルケと一緒に手伝う。

 パインは、まるで置物の様にコチコチに固まっている。

「あたしもして!」

 ネルケも化粧と聞いて、母親にねだる。

 ネルケの母親は、ドワーフの女性だけあって、身長が187センチもあり、見事なプロポーションで若々しい美女だ。いずれネルケも母親のようなグラマラスな美女に育つ事は間違いない。

「じゃあ、2人してそこに座んな」

 パインとネルケは椅子を並べて座る。

「しかし、近くで見ると、あんた思ったより小さいんだね。本当に子どもだったんだね」

 ネルケの母親が言っても、パインは硬直して返事もしない。ただ、目つきがどんどん悪くなる。機嫌が悪いのではなく、怯えさせたくないとがんばっているらしい。それでどんどん表情が険しくなるのだから、大概不器用だ。

「頭巾被るから、額の目は隠れちゃうんだから、みんな怖がったりしないよ」

 ネルケが緊張を和らげようと、パインの手を握って声を掛ける。

 すると、ようやく少しだけ表情が柔らかくなった。

「さ。2人の『彼氏』が待っているんだから、ちゃっちゃとやっちゃおう!」

「お母さん!!?」

 母親の発言に、パインが叫ぶ。



 少し待っていたら、ネルケとパインが、ネルケの母親に連れられて、奥の部屋からやって来た。

「お待たせぇ~・・・・・・」

 ネルケの母親は、どこかぎこちない笑顔をダンに向ける。「どうかな?」

 ネルケが昨日と同じ衣装ではあるが、敢えて化粧した顔を近付けてアピールする。

「ああ!化粧してるんだね!?大人っぽくて綺麗だよ、ネルケ!」

 あっさりとそんな事を言うダンに、ネルケの方が驚いて、真っ赤になって母親の後ろに隠れる。

「うん。まずは合格ね」

 母親はニンマリと笑う。


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