第10話 夏祭り 1
ダンの提案に、大人たちは一瞬不安そうな顔を見せる。
「それは安全なのかい?祭りの日は沢山の人たちが来ている。また火事になったら大事だよ?」
それに対して、ダンは自分の案を話す。
「火事になったのは、ちゃんとした使い方をしなかったからです。それに、今度の打ち上げは、海の上で、マーメイドに手伝って貰ってやります」
そう言われると、本音ではマイネーの火柱よりも派手な物なら見てみたいのだ。大人たちは顔を寄せ合って相談を始める。
少しして結論が出る。
「まあ、こっそりやっちまおう。ただし、赤地区の連中にはいつやるのか教えて見逃さないようにしてやることにする」
「やるのは3日目の夜。ゾウ広場で踊り明かす日だな。夜の20時ピッタリにしよう」
「炎の柱が祭りの最中に上がれば、俺たち赤地区の山車が注目される形で最終日を迎えられるからな。優勝を充分狙える」
話し合いが終わって、ようやくダンは倉庫を後にして家に変える事になった。
その前に、足の豆亭の主人や、エリザ、従業員のおじさんに礼を言って、ルッツやマッシュの店に顔を出し、完成の報告を言う。エドの家や、ネルケの家にも行って、親に礼を言う。
それから、パインの店に向かった。
「パイン。アイとギイをありがとう。本当に助かったよ」
少し名残惜しくはあったが、パインにショルダーアーマーを返す。
「うむ。何もしてやれなくてすまなかった」
パインが淋しそうに呟く。
客の来ない店で、する事も無くパインは悶々と考え込んでいた。
その考えはあまり複雑では無く、ひたすら繰り返す。それ故に出口が無く、苦しかった。
「とんでもないよ。もう充分以上に助けて貰ったよ。おかげで、祭りの日まで、一日半も時間が出来たんだ。これで、充分パインにお礼が出来ると思うんだ」
ダンが疲れた顔で、笑顔を見せる。服も体も赤かったり、糊が乾いて白いパリパリした物がくっつきまくっている。
「礼?そんな事をされる理由が無い。それにダンは疲れているんだから、まずは休め」
「疲れているのはギイだよ。だから、今日のパンは、一番にギイに選ばせてあげてね」
それから、ようやくダンは家に帰った。
風呂に入り、着替えをすませると、少しだけ眠った。
5月の17日。週の途中だが、今日は祝日だ。これから4日間の夏祭りが始まる。
街は色とりどりの布や旗で飾られ、大きな通りや広場には、屋台が軒を連ねている。
街の人もいるが、それ以上に観光客の姿が多い。
街の人たちは大抵がこの地域の夏祭り用の装束に身を包んでいる。
赤と青の刺繍や、帯。コインを模した金属を連ねたネックレス。
女性は花の形の装飾が縫い付けられた膝丈のスカート。頭には、刺繍がされた、赤地の頭巾。
男性は、黒い膝上丈のズボンに、前後に長い変わった形の帽子。
靴下は、各地区の色の物を身につけている。
「ネルケ。約束通り、作ったよ」
朝、ダンはネルケの家に行き、約束していた物を渡す。
「ええ?!いつ作ったの?」
ネルケは、渡された赤い頭巾を見て驚く。
「みんなのおかげで、山車が早く完成したからね」
そう言いながら、ダンは明らかに寝不足と疲労が顔に出ている。
そんなダンの様子に、ネルケは嬉しそうに微笑みながら、貰った頭巾を広げてみる。
鮮やかな赤い布に、紫色の花の装飾が縫い付けられている。花も布で作っており、ネルケの名前の由来である、ナデシコの花の形で、それが二輪咲いている。
銀糸の刺繍で、ネルケの名前も入れられていた。
色とりどりの刺繍の入ったリボンが、頭巾の縁に縫い付けられていて、とても可愛い。
「ありがとう!すっごく嬉しい!早速着けるね!!」
ネルケは飛び上がらんばかりに喜んだ。
「どういたしまして。所で、今日はお祭り、どこ見るの?」
ダンが聞いてきたので、ネルケは同じ質問で返す。
「ダンはどうするの?」
「僕は、やっぱり山車を見ないと。無事に動く所を見たら、他の地区の山車も見に行くつもりだよ」
山車がちゃんと動くまで、自分の責任を果たせたとは思えない。
山車は一度動けば、必ずどこか壊れていく物だ。だから、動かし始めたら、後は引き手の腕に掛かっていると言える。
「じゃあ、あたしも一緒に行くよ!あたしも作ったんだもん!」
ネルケの言葉に、ダンは笑う。
「そうだね。一緒に行こう」
機嫌が良かったネルケは、早速むくれている。
「なんか、いっぱいいる・・・・・・」
祭りが始まり、赤地区の山車が出発する足の豆亭に行くと、エド、ジンジャー、メグ、レオンハルト、リオ、アンナマリーがいた。そして、ネルケに申し訳なさそうにしているブリュックも・・・・・・。
「あと、ダン!」
「え?!はい?」
ネルケが剣呑な態度で、ダンに指を突き立てる。急に不機嫌になったネルケに、ダンはキョトンとしつつ、その迫力に後ずさりする。
ネルケは、去年から使っていて、少し小さくなった祭り衣装に、ダンから貰った頭巾を被っていて、とても可愛らしい。
「似合ってるよ」
ダンが誉めた時は、かなり機嫌が良かったはずだ。それが一転して、もの凄く不機嫌な表情でダンを睨んでいる。
「メグの祭り衣装も作ったの?!」
メグは、上下、装飾品、全てマーメイド特注の祭り衣装だ。デザインも凝っていて、海を連想させる装飾品や模様が入っている。
頭巾には、本物の貝殻を縫い付けている。
「だって、メグに祭り衣装が無いんじゃ、可愛そうだろ?台車も借りちゃったし、そのくらいしないと・・・・・・」
「んぐっ!!」
あっさり認めて、なおキョトンとしているダンに、ネルケは何も言えなくなった。
『それにしても、メグには全部作っておいて、あたしには頭巾だけってどうなのよ!!』
悶々とした怒りは募る。




