第7話 海の子 7
ネルケと母親は、料理について打ち合わせを始めたので、ダンはメグを母屋に案内する。
「ダン~。何か色々おおきにな~。めっちゃ助かるわ~」
少し安心したようにメグが笑う。その笑いが力ない様子だった。
「メグ。心配しなくて良いよ。きっと僕たちがメグを両親の元に帰してあげるから」
「・・・・・・うん」
メグは笑顔を絶やさないようにしているが、嵐に遭って、サメに襲われて、全く知らない陸上の世界に1人ぼっちになっているのだ。不安なはずがない。
「それでさ。陸上で過ごす分には、まず何か着る物が必要なんだよ。だから、ちょっと体を測らせて貰うよ」
「ええ?!」
メグが、何を言われたかも把握する前に、ダンはメジャーを取り出して、メグの体をあちこち測り始めた。
「ちょっ、ちょい、ちょい、ちょい!!??」
メグは真っ赤になって叫ぶ。
「ダン~~!あんた女の子にいきなり何すんのや~~!?」「え?服とか色々作るから」
ダンはキョトンとして答える。そして、メモした数値を見ながら、ブツブツ1人でしゃべり出す。
それから、ダンは作り物に夢中になり、メグは母親とネルケとの話し合いに参加し、店は父親1人で切り盛りしなければいけなくなった。
翌日は休日である。
いよいよ来週に夏祭りを迎える事になるので、町中の装飾が始まる。
山車の製作も山場を迎え、各地区が火花を散らしている。
他の町や、外国からの観光客の姿も見られるようになってき始めていた。
やるべき事は多々ある。
その前に、朝一番でダンは裏のリンド川に行く。
「メグ?いる?」
川沿いの遊歩道から声を掛けると、すぐに水中からメグが顔を出した。
「おはよ~。ダン」
青い髪が水をしたたらせて顔に張り付いている。
「上がってこれる?」
ダンが言うと、メグはニッコリ笑い、一度水中に姿を消す。
そして、次の瞬間、水中から飛び出したメグが、3メートルの高さの川縁を越えて遊歩道に着地した。
着地は尾の先でしてから、ゆっくりと短い足を地面に降ろす。
マーメイドはとにかく尾の力が強く丈夫である。
「はい、タオル」
水中で過ごしたメグは、ほとんど裸だから、直ぐにダンは大きめのタオルを羽織らせる。
「いらんて~・・・・・・」
メグにとっては、ほとんど裸の姿が普通なので、隠さなければいけない理由が分からない。
「それに、すぐに風呂借りるから、タオル貰ってもまたビチョビチョになるんやで~」
メグが苦笑する。
マーメイドは、陸上に上がると生臭い。
水中で皮膚を守るために、油分を分泌して膜を張るそうだ。それが陸上では生臭く感じる。
メグ曰く、「海の中では良い匂いなんやで!!」だそうだ。
ともあれ、陸上で匂うなら洗い落とす必要がある。
確かに、一度風呂で洗えば、メグの体臭はほとんどしなく、逆にどこか良い匂いがする。
「陸に来たら、恥ずかしい事ばっかやな~・・・・・・」
メグは顔を赤くする。
男の子に体中測られたり、普通の格好していたら、恥ずかしい扱いされるし、臭い言われるし・・・・・・。
だが、風呂から上がると、メグはとたんにご機嫌になった。
ダンが用意してくれた服はとても可愛らしかった。
上着は、可愛い水色の服で、リボンに貝の形のアクセサリーも付いていた。
腰には、ひらひらの緑色のスカートで、メグにはまるで海草の様に見えた。
「可愛いな~~~!!!これ、ダンが作ったん?!」
ダンは頬を掻く。
「僕、作るのは得意なんだ」
それだけではなく、尻尾で、地面にこすりそうな所を防御するための、革のガードも作ってあった。これは1人では身に着けられないので、ダンが手伝う。
「後は、これ」
ダンは裏庭にメグを連れて行く。
そこには、不思議な車が置いてあった。
側面に2つのレバーが付いている、三輪の台車である。車輪は前側面に2つ。台車の後方中央に1つ。
「なんや、これ?」
メグが首を傾げる。
「メグが乗るための物だよ」
そう言うと、メグに乗り方を説明する。
台車の上に、短い足を前に伸ばして座る形になる。レバーは、改良型の丈夫なブレーキである。
そして、最後に、一輪の小さな台車を尻尾の先端に装着する。
「尻尾を左右に振ると前進出来るはずだよ。多少の段差なら乗り越えられる、特別な車輪を使っていて、振動もほとんど無いはずだよ」
ダンが得意そうに言う。これを昨日考えて、夜遅くまで作っていたのである。同時に、服も全て作ったのだ。
「・・・・・・ほ、ほんまか?ちょっと、怖いな~~」
メグは不安そうにしながらも、尻尾を左右に揺らしてみた。すると、草地の裏庭なのに、メグを乗せた台車はスムーズに前進した。
「わっ!わっ!?どうなってるん?!」
メグが叫んだ。
「川沿いの遊歩道に行ってみよう!」
ダンがメグを誘う。
この辺りの建物は、道から入り口に行くまでは大抵階段がある。さすがに階段を台車で超えるのは無理だが、裏口には大抵スロープがある。
ダンはメグをスロープまで誘導して、遊歩道に出る。
「待って!待ってぇな!」
メグは必死になってダンについて行く。
が、気がつくと、メグは台車を上手く扱って進むことが出来るようになっていた。
「上手いぞ、メグ!」
ダンがメグを褒める。メグは嬉しくなって、尻尾を強く動かしてみる。すると、台車はグンッと進む。
「あは、あはははは!なんやこれ!メッチャおもろい!!」
メグは楽しそうに笑う。
「良かった!本当にこんなに上手くいくとは思ってなかったから!」
ダンが笑顔でそう言った瞬間、メグはブレーキを掛けてピタリと止まり、「なんやて?!」とダンを睨み付けたが、直ぐに吹き出す。
「あはははは!敵わんな~!」
メグは、台車にすっかり慣れて、バックまで出来るようになった。
そして、昼間はパン屋を手伝ってくれることとなった。




