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第7話  海の子 6

「あ、あの・・・・・・。いくらですか?」

 ダンがそう言うと、男の人は首をひねって言う。

「ああ。まあ、そう高くは無いけど、君たちに支払えるとは思えなくてねぇ。免除してやりたいのが心情なんだけど、なにぶん規則だからねぇ」

 そんな事を言った後、片手の指を広げる。

「500ペルナーだよ」

「ブホッッ!!!」

 エドがむせ込む。ダンも思わず背筋が伸びる。

 すごく高くは無いが、決して安くない。少なくとも、ダンたちにどうこう出来る金額では無かった。

 

 そこで、ダンは頭を働かせる。

「し、支払いは・・・・・・。市長がしてくれます」

ダンの言葉に、男の人は怪訝そうな顔をする。

「何で市長なのかね?」

「そ、それは、今回彼女を発見した経緯に、魔法道具屋が関わっているからです。多分市長にはそう言えば通じるはずです」

 これはダンの推測でしか無い。多分市長はマイネーや歌う旅団にでかい借りか、脅しのネタを握られているなりする。市長の父か祖父かもしれないが・・・・・・。

 だから、パインの名前を出せば何とかなるはずだ。

 

 そして、発見する経緯は魔法道具製作の素材集めの最中だったのだから、嘘にはならない。

 パインの名前を勝手に借りたことには申し訳ないが、多分これが一番丸く収まる。


「ふむ。では市長に問い合わせてみよう。それで、支払いは良いとして、あの子の保護は誰がするんだい?知っての通り、我々冒険者ギルドは預かり所では無いので、怪我もすっかり治っているので、すぐにでもお引き取り願いたいと思っているんだよ」

「・・・・・・」

 それもその通りだった。

「・・・・・・それは、僕が引き取ります」


「そうかい。それでは、こちらの書類にサインをしてもらおうか」

 男性はニコニコして書類を差し出した。

 「保護者は知っているのかい」なんて事は確認されなかった。

「さあ、メグ君。君の身元はこの少年が引き受けてくれるそうだ。この少年の家でお世話になりなさい」

 朗らかな笑顔で、男の人はメグに言う。

「は~い!」

 メグが手を上げて笑顔を浮かべる。一方で、ネルケがとても険しい顔をして「はい?!」と呻く。

「お、おい。大丈夫なのかよ?!」

 エドはダンの発言全てに驚いている。市長の名前を出した事もそうだし、ダンがメグを引き取ると発言した事にもである。

 それに対して、ダンは「あははは」と、乾いた笑いを返す。

「まあ、多少は何とかなるんじゃないかな?」

 それに対して、男の人は一度だけ真顔で忠告する。

「一応言っておくけど、市長が支払いを拒んだ場合、君の家に支払い請求をする事になるよ。それと、彼女が問題を起こしたりした場合の責任の一端も、君に向かう可能性もある。それと、出来れば彼女は海の一族の元に帰す努力をする事をおすすめするよ」

 ダンは頷いた。言われるまでも無く、その事は分かっていた。

 マーメイドは海の一族だ。陸の常識は通用しないし、生活するのにも陸上では不便の方が多い。一応世界共通の法律の大綱はマーメイドも守る義務はあるが、かなり特殊な種族なのは間違いない。

 問題行動を起こさない保証は無いのだ。

「出来るだけ早く彼女を海に戻す努力をします」

 ダンは答えた。





 以上の事柄を、ダンは両親に報告した。

「・・・・・・。あんた、なんて言うかねぇ」

 母親はポカンと口を開けて、それ以上何も言えなくなる。

「まあ・・・・・・。やった事としては立派だよ。褒めてやるべきなんじゃないのか?」

 父親は、軽く肩を竦めながらも、温かい笑顔をダンに向けた。

「勝手してごめん。父さん、母さん」

「えらい厄介掛けてもうて、すみません~」

 メグがペコリと頭を下げる。


 マーメイドは、腰の横から生えるヒレの様なものは、実は足である。下半身の魚体の大半は尻尾である。

 それ故に、ヨチヨチと陸上を歩くことが出来る。

 しかし、大人ならいざ知らず、子どものメグは、地面に尻尾がこすれると、鱗が傷つき、長く歩くと痛いそうだ。

 だから、今は冒険者ギルドで貰ったシーツを下半身に巻いて保護している。

 そもそも、シーツを巻かなければ、下半身は裸だし、上半身も、ダンが前日に着せた、ダボダボな上着を着ていなければ、胸を辛うじて隠すだけの下着のような物だけだ。

 歩きにくいこともあってか、ネルケがメグの尻尾の先を持ち上げて付いて来ていた。


「お、女の子だし、ウチで面倒見ようか?」

 ネルケが言う。それに対して、ダンと父親が同時に苦笑する。苦笑の意味合いは若干違うようだったが・・・・・・。

「大丈夫だよ、ネルケ。一応考えがあるから」

「ダンの考えは分からないけど、一度男が引き受けた以上は、しっかり仕事をしないといけないから、ダンに任せよう」

「・・・・・・うう」

 ネルケが肩を縮める。

「それはそうと、あんたの考えって?」

 母親が尋ねる。


「ああ。裏の川って、生活用水の全く流れていない、上流からの清水そのままなんだよ。それと、海が近いから汽水域でもあるんだ。だから、普段はメグは川で生活するといいんじゃないかと思うんだ」

 全員の目がメグに向かう。

「ああ。それならウチも楽やわ~」

 メグはニッコリ笑う。

「食事とかはどうする?何を食べたりするんだい?」

 父親が尋ねる。

「う~ん。食事は魚とか捕まえたりするけど、ちゃんと調理するで~。生魚、バリバリ頭から食べたりせんで~」

「そ、そうなんだ・・・・・・」

 陸上の地上人の多くは、そういったイメージでマーメイドを見ていたので、ダンは驚く。そもそも、マーメイドのことは謎だらけだ。

「人間族と同じ物を食べられるで~。意外とマーメイドの体の作りは人間族と近いのか、子どもも産めるんやで~」

「へ~~~。そうなんだ?」

「んな!!??」

 単純に感心するダンに対して、ネルケは目を剥く。

 ドワーフは、人間族とは子どもを作れない。


「そうすると、食事はウチでとる感じになるけど、大丈夫かなぁ?」

 ネルケの受けた衝撃を知らずに、ダンは両親に尋ねる。

「うん。それは大丈夫だよ」

 父親は安請け合いする。

「・・・・・・マーメイドの食べるものを作るなんて、あたしに出来るかねぇ~」

 実際に料理を作る母親は、やや不安そうに呟く。

「そ~っ!それなら、あたし手伝います!」

 ネルケが手を上げる。

「本当?ネルケにはパインの事までお願いしているのに?!」

 ダンは、驚きながら嬉しそうに言う。

「いいのかい、ネルケちゃん?」

 母親も嬉しそうに言う。父親はニヤニヤしている。

「いいです!いっそ、パインも手伝わせます!で、料理のイロハを覚えて貰います!」

 ネルケの言葉に、父親は呆れた顔でダンを見つめた。

『結構厄介な構図になってるんじゃないのか?』


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