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第4話  ダンとエド 4

 ヨモギの束からは、大量の煙が上がる。

 その煙に、巣の周りにいたスズメバチは大慌てで巣から離れていく。

 ダンはゆっくり巣に近づいていく。出来るだけ姿勢を低くしながら、スズメバチを警戒しながら・・・・・・。

 スズメバチの種類は小型のスズメバチである、ウスキコスズメバチなので、それほど攻撃性は強くない。だから、煙に驚いて逃げて行く。

 それでも、煙が薄まれば攻撃してくることだろう。


 ダンは煙を出すヨモギ束を左右に振る。

 そうして、巣のすぐ横までたどり着いた。

 煙の外側では、ブンブンとハチの飛び交う音が聞こえて、ダンは生きた心地がしない。

「ダン!煙が薄くなってきている!!」

 離れたところでエドが叫ぶ声が聞こえた。

 ダンは慌てて上着のポケットからもう一本のヨモギ束を出そうとしたが、ブカブカの革手袋のせいで、地面に落としてしまった。

「ああっ!!」

 落とした束は、斜面を転がっていく。

「しまった!!」

 こうなってはゆっくりとしてはいられない。

「エド!作戦変更だ!今すぐ逃げて!!」

 ダンは叫ぶと、スズメバチの巣に穴を開けて、煙を上げるヨモギ束をその穴に突っ込む。

 それから、もぎ取るように小さなスイカぐらいの大きさの巣を抱えながら、走って逃げる。

「ううっ!!?」

 背中と腕に、ビリビリッと衝撃が走る。

 それでも、ダンは走った。

 


 前を走るエドが、速度を緩めてダンが抱える巣を袋で受け止める。それから大急ぎで走りながら袋の口を閉じた。

 その頃にはヨモギ束からの煙も止まっていた。

「大丈夫だったか?!」

 エドが心配そうに言うが、ダンは頭からかぶっている網で表情を隠して「平気だよ」と言った。

「お前、すごい勇気あるな!見直したよ!」

 エドの賞賛も、今は素直に受けるだけの元気は無い。

「それよりも、急いで魔法道具屋に行こう」

「そうだな!」

 2人は斜面を駆け下りると、スズメバチが追ってこないのを確認して、少し休んだ。


 休んでいると、少しずつ腕と背中が痛くなってくる。

 本当はあまり激しく動かずに、すぐに傷を洗って安静にしないといけない。だけど、そうしていると夕方までには間に合わなくなってしまう。

 息が整うと、2人は歩き出した。

 ダンは網と帽子と手袋は取ったが、上着もズボンも穿いたままである。多分、腕は腫れてきているので、上着を脱ぐと激痛が走りそうだったからだし、ズボンを脱ぐ時に、背中が痛みそうだったからだ。


 ダンは体力が無いことを言い訳に、エドに荷物を全部持って貰った。

「任せとけ。それより、お前、すごい汗だけど、本当に大丈夫か?」

 エドは心配そうに何度もダンを振り返る。


 少し行くと、階段に出る。ここからは、舗装された坂道もある。

「こんな時に車があれば、こんな坂、あっという間に降りられるのになぁ~」 

 ダンが呟くと、エドが笑う。

「下に着く前に、壊れて大けがしちゃうぜ」

「ほっとけよ!」

 そう言いつつもダンも笑った。

 エドの言い方が、前のように嫌味な感じでは無かったから、冗談だとすぐに分かったからだ。




 直線距離的には短いのだが、階段を降りたり、道が曲がりくねったりしているので、2人は休み休み戻らなければならなかった。


「ダン。大丈夫か?お前、体、丈夫じゃ無いんだろ?」

 ダンが喘息持ちだった事を知って、エドはこれまでダンが度々疲れたり具合が悪くなって遊びに参加できなくなったことを、改めて考えさせられた。

 無理も無い。エドは、いつも体を動かす遊びばかりを好んだ。対するダンは、体を動かす遊びには消極的だった。それでも、エドが誘えば何とかついて行こうとして、結局足手まといになる。

 そして、エドの勘違い以来、一切遊びに誘う事はしなかった。

 逆にダンは、それでもエドに振り向いて貰おうと、あの手この手で無謀な挑戦をする様になった。それが疎ましかったのだが、今は、ダンの気持ちが、思いがわかった。

 全部エドの一方的な思い込みが招いた事だったのだ。

 

 今のダンも、エドに殴られた頬と眼の上が腫れ上がっている。唇も切れた傷が痛々しい。

「もう、喘息は治ったよ。グラーダの薬のおかげだよ。僕の体力が無いだけさ」

 ダンは強がった。

 しかし、喘息の後遺症で、激しい運動をすると息苦しくなるのは、まだ何年か続くとのことだ。

 それに、今はスズメバチに刺された傷がある。右腕と背中の2カ所だ。

 痛みがどんどん酷くなってきて、今は服がこすれるだけで激痛が走る。

「でも、エドが手伝ってくれたから、夕方までには間に合いそうだ・・・・・・」

 分担しなければ、1時間近く余計に掛かっただろう。だから、休みながら帰ることが出来ている。

 それでも、こうしている間にもジュリアが苦しんでいるのではと考えると、いても立ってもいられなくなる。

「うん。大丈夫だ。さあ、行こう」



 そうして、2人は17時になった事を知らせる鐘の音の直後に、パインパイン魔具店に到着した。


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