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第1話  ダンの隣人 1

 ここは一つの惑星に、一つの大陸のみが存在した世界。

 人々は、この惑星の事、そして、この大陸の事を「エレス」と呼んでいた。


 そんな大陸「エレス」の中の一国に、「アインザーク」と言う国がある。

 エレスの中でもグラーダ国に次いで1、2を争う大国である。

 

 エレス大陸は、一度そのグラーダ国の現国王によって征服され、その後再分配された。その際に、50年間の「他国との戦争を禁じる」など、様々な条約が取り決められたおかげで、それ以後の約30年、戦争の無い平和な時代が続いている。


 アインザークは、豊かな恵みを与えてくれる「アール海」に面しており、海沿いの低地は、年中温暖な気候だが、西に向かうにつれ、標高が高くなり、国の半分は、標高2000メートルほどの「グラス高原」で、気温もグッと下がる。


 アインザークの王都は「ガイウス」。城塞都市である。

 

 ダンの住んでいるのは、この王都ガイウスであるが、南に下った、いきなり田舎の風情がある港街である。

 ガイウスの中のヘルネ市、造船所前広場のパン屋が家である。


挿絵(By みてみん)


 ヘルネ市は、海から急峻な坂が続いて、山を切り崩したような形で、家々がビッシリ建っている街だ。当然、坂も多ければ階段も多い。曲がりくねった道も多いので、人々は、皆、自然と足腰が鍛えられている。

 坂の下には市場や店が多く建ち並び、坂の上の高台には、庶民を見下ろすかのような高級住宅街がある。

 赤茶色の瓦葺きにオレンジがかった土壁で統一された建物により、とても美しい街並みである。

 

 ヘルネ市は、湾を抱えるような形で、商船や漁船が多く出入りしていて、街は賑わっている。


 ダンのパン屋は、坂の一番下で、ヘルネ市で最も長い直線の坂(多少蛇行しているが)、グレンベルン坂と、リンド川に挟まれている。

 目の前の広場は、ヘルネ市の「表通り」と「ジムリート坂」、「川沿い」とだけ呼ばる細い道に、「中通り」とが合流する五叉路で、「造船所前広場」になっている。

 ただ、名前が長いので、みんな「ゾウ広場」と呼んでいた。


挿絵(By みてみん)


 そのゾウ広場の中央には、大きな噴水が有り、五叉路を行く馬車は、左回りで噴水の周りを回って、目的の道に入らなければならない。

 さらに、造船所の横には、馬車を止めておくスペースまで用意されている。

 貴族の方々は、ここに馬車を止めて、港へ行ったり、ショッピングを楽しむ事が出来る。


 ダンのパン屋は、最高の立地条件にあると言えた。

 だから、ダンの家はいつも忙しく、猫の手も借りたいところだったのに、ダンは、そんな両親の手伝いをせずに、仲間たちと、グレンベルン坂の一番上にいた。



「さあ、行くぞ!!」

 ダンは、壊れた鍋を頭にかぶって、おかしな荷車に乗っていた。

 荷車と行っても、板に、木の車輪が四つ付いていて、板に寝そべるように座っているだけである。

 前の車輪は、足で左右に向きを変えられるようになっていて、両手で握りしめている棒を引く事で、後輪に木がこすれる細工がされている。それがブレーキである。

 坂の斜度は、最大32度。徐々に緩やかになるが、途中で再び急角度となる。

 グレンベルン坂はそんな直線が、約300メートル続く。


「や、やめた方がいいよ~~」

 最年少のアンナマリーが、ダンの肩を掴む。

「そうですよ。やめましょう」

 気の弱いブリュックも止める。

「いや!今度こそ成功する!」

 ダンはムキになって言う。

「どうせ、また途中でコケたり、ずっとブレーキを掛けて、普通に駆け下りるより遅くなるオチだ。てめぇに出来る分けねぇだろ」

 完全にダンの事を馬鹿にしたように笑うのは、同じ年のエド。ブリュックの兄である。

「言ったな!?」

 エドの言葉に、ダンが更にムキになる。

「押してくれ、ネルケ!!」

 言われて、赤髪の少女が、呆れたように肩を竦める。

 年齢は9歳で、ダンより3つも年下なのだが、ドワーフ族の女だけあって、発育が良く、背もダンより少し高いし、大人びて見える。

「知らないよ~~」

 そう言って、ネルケはダンの乗る奇妙な車を坂の下に向かって押し出す。


「っっっっ!!」

 ネルケはドワーフ族だけあって力が強い。

 ダンの車は勢いよく斜面を走り出した。

 

 ヘルネの街は石畳である。グラーダ国のように整った石畳では無く、凸凹している。

 車は激しく振動する。

 おまけに人通りも少なくなく、馬車や荷物を沢山持った人も歩いている。

 ダンは、揺れる車を、足で操作しながら坂を走り抜けていく。

「うわっ!!」

「危ねぇ~ぞ、コラ!!」

 坂を行き来する人たちからは、怒鳴り声が上がる。

 だが、ダンには、それに返事する余裕など無い。ブレーキの棒を、思いっきり引きたくなるのを我慢して、必死に車を操作する。

 最初の難関、右に緩やかに曲がるポイントだ。

 以前は、ここを曲がりきれず、人の家の壁に激突してしまった。

 

「うわあっ!!」

 坂の先には、荷馬車が歩いていた。

 ダンは体を精一杯倒して、荷馬車の下を通り抜け、馬の後ろ足ぎりぎりを通過する。

 そこを切り抜けると、次の難関だ。

 坂が緩やかになり、また、一気に下るポイントになる。

 しかも、その緩やかになる道は、それなりに通行量のある道と交差する所でもある。


 ダンに出来るのは、叫ぶ事だ。

「うおおおおおおおっ!!!」

 声に驚いて、通りを行く人たちは、ダンの乗る奇妙な車が、猛スピードで迫ってくるのに気付いて、慌てて道の端に逃げる。

 交差点で左右から来る人たちとぶつかるかどうかは、最早運任せだ。


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