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57 浄化の儀式

 大神殿の地下にある、浄化の間と呼ばれる空間。

 ここは、代々の国王と大神殿の最高位の者しか入室を許されない。


 最も神聖にして、最も秘匿すべき儀式の間。

 この部屋が最後に使われたのは、およそ三百年前。


 今回の「浄化の儀」の立会人は、王太子であるリュシオン、アルバ枢機卿の2人だけ。後は枢機卿が選んだ数名の神官が地下への入り口を見張るのみ。


 聖女が生贄となるこの儀式のおぞましい真実を、知る者を増やすわけにはいかないからだ。


 祭壇に安置された聖杯フェイト・ルクスを前に、アルバ枢機卿が、震える声でリュシオンに最後の問いを投げかけた。


「殿下……今一度、お考え直しを。本当に……このような犠牲が必要なのですか? 他の方法はないのでしょうか?」


 その顔には、儀式の遂行者と1人の人間して良心の呵責に苛まれているのが見えた。だが王命に逆らえぬ苦悩が、深く刻まれている。

 

 だが、リュシオンは、そんなアルバ枢機卿を冷ややかに一瞥しただけだった。


「枢機卿。感傷に浸っている場合か? 外では民が苦しみ、救いを求めているのだ。聖女の務めとは、その声に応えることだろう?」


 リュシオンは、聖女の崇高な使命を説くような口調で、しかし氷のように冷たい声で続けた。


「それに、これは犠牲ではない。名誉なのだ。彼女はその身をもって国を救った伝説となるのだからな。……さあ、枢機卿。そろそろ始めるんだ」


 その有無を言わさぬ言葉に、枢機卿は諦めたように目を伏せ、儀式の開始を告げた。


 ◆


 私は神官さんたちに導かれるまま、祭壇の中央にある台座の前へと進み出ました。


 そこには、すっかり元の黒に戻ってしまった杯……聖杯フェイト・ルクスが安置されています。

 リュシオン殿下は、この儀式が済めば、私が探している人たちに会わせてくださると、そう約束してくださいました。


 それに私は聖女なのです。

 だから、私は……聖女の務めを果たさなければなりません。


 私は、聖杯にそっと両手をかざします。

 そして枢機卿様に教えられた通りに、体内の魔力と聖なる力を聖杯へと注ぎ込み始めました。


 私の力は穏やかに注ぎ込まれていきます。

 けれど、数秒もしないうちにその流れは……まるで荒れ狂う濁流のような勢いに変わってしまいました。


 体の中からごっそりと、ありえないほどの勢いで力が抜けていきます。

 魔力が、生命力が、私の中から吸い上げられていくのです。


 い息が、できな……い。

 

 あっという間に魔力が底を尽き、視界が急速にかすみ始めました。もう立っているのがやっとで、膝から崩れ落ちそうになりました。

 

 それなのに……どういうわけか力を吸い取られる感覚は止まりません。


 苦しい。

 体中が痛い。

 寒気がする。


 

 ですが、その「苦しい」という感覚ですらも、だんだんと曖昧になっていくのです。

 全ての感覚が麻痺していき、自分の身体がまるで自分のものではないかのように感じられます。

 

 もうとっくに倒れそうなのです。

 ですが、聖杯から伸びる見えない力のせいなのでしょうか。私の身体は無理やり立たされたままでどんどん力を吸い上げられていきます。


 

 ああ……本当に、もう、だめ……かも。

 わずかに残された意識すらも、闇に飲まれて消えそうになった、まさにその時でした。


 ピコン!


 目の前に、半透明の光るウィンドウが現れました。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 《生命の危機を察知しました》

 《これよりスキルを分解し、損傷した魂の補完を開始します》

――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 次の瞬間、ウィンドウの文字が、凄まじい速さで流れ始めました。


《スキル『包丁』を分解、魂を補完します》

《スキル『板金』を分解、魂を補完します》

《スキル『味付け師』を分解、魂を補完します》

《スキル『皮むき達人』を分解、魂を補完します》

《スキル『火加減』を分解、魂を補完します》

《スキル『高速タイピング』を分解、魂を補完します》

《スキル『野菜ソムリエ』を分解、魂を補完します》

《スキル『溶接』を分解、魂を補完します》

《スキル『プログラミング』を分解、魂を補完します》

《スキル『電気工事士』を分解、魂を補完します》


 見てもさっぱり意味の分からない内容でしたが、文字が流れるごとに私の中から光が溢れてくるのです。


 1度は失われていたはずの感覚たちが少しずつですが、戻ってくるのを感じます!

 私の勘違いではありません。さっきまで暗くなりかけていた視界も徐々に明るくなってきます。意識もはっきりと、鮮明になっていくのを感じます。

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