39 本当の目的
ミレイナとリュシオンを引き合わせることに成功した私は、ほっと一息をついた。
でもミレイナを見た時は少しだけ驚いた。だって、ヴァルムレーテ家に来た時に癒やしの魔法をかけてあげたというのに……あの変わりようだもの。
まったくどうどういうことよ。あの娘……。
せっかく肌も髪も最高の状態にしてあげたのに……見る影もなくやつれちゃってるんだもの。
多分、あの継母たちの仕業よね。まったく人の苦労を何だと思っているのかしら。
仕方ないからリュシオンに会わせる前に、ちょちょいと魔法で回復させてあげたわ。
今週のミッションの足しにしてあげただけよ?
深い意味はないんだから……。
もちろんドレスだってちゃんと取り返したし、クラリッサには完璧な着付けをやってもらったわ。
私にとってアマンダがドレスを隠すことなんて、はっきり言って想定内。知恵の浅い、性悪女が考えることなんてお見通しよね。当然のように先手を打っておいたの。
それでも……。
みすぼらしいドレスを着ているミレイナを見たときは、何故かイライラしてしまった。
あの痩せっぽちの小娘でも……本当に見違えるほど綺麗になるものね。
あれならリュシオンも、間違いなくミレイナに目を奪われるはず。
ここまでお膳立てしたら、後は惹かれ合う運命にある2人を見守るだけでいい。
恋仲になるのにそこまで時間は掛からないでしょう?
私はただ待っていればいいってわけ。
ああ……時が立つのが、こんなにも待ち遠しい。
早く結ばれるといいわね、お二人さん。
心から応援してるわ。私の幸せのために、どうかよろしくね。
計画が順調に進んでいることに気を良くした私は、足取りも軽くなっていた。
そして今宵の本当の目的のため――そう、カイルの姿を探し始めた。
「えーっと……どこにいるのかしら?」
これまでの経験から察するに……カイルは令嬢に囲まれて困っているのがパターンなのよね。
なるべく人を探していることを悟られないように、ゆっくりと移動を始める。
友人たちと挨拶を交わしながら淑女らしく、優雅に歩みを進めていく。
令嬢が群がっているところを探せば見つかると思っていたのだけれど、なかなか見つからなかった。
途中で舞踏会大好きっ子のルルディアがキレキレのダンスを披露していたり、情報通の人情家ゼネリア、人間観察が趣味の毒舌アリシェも見かけたけれど、カイルだけが見当たらない。
諦めそうになった時、柱の近くで数人の令嬢たちが誰かに熱心に話しかけている姿が目に入った。
令嬢たちの華やかなドレスの隙間から見えるのは、特徴的なさらりとした金髪。
それは騎士団の制服を着たカイルだった。
相変わらず整った顔。それに無駄なく鍛えられ、引き締まった身体。
騎士団の制服の上からでも隠しきれない色香が……フェロモンが滲み出している。
リュシオンが絵本から出てきたような王子様なら、カイルは全ての令嬢が思い描く理想の騎士様。
「あ、あの……カイル様は、今宵のダンスのお相手はお決まりでいらっしゃいますか?」
「ラザフォード様、もしよろしければ私と一緒に一曲……」
聞こえてくるのは甘く媚びを売るような声。きっとダンスにでも誘いたいのでしょうけど……彼、誘いなんて受けないのよね。
あれだけ女にモテるのに、一度も浮名を流したことがない鉄壁の男だもの。
私は気持ちを切り替えて姿勢を正し、王太子の婚約者としての凛とした雰囲気をまとわせて彼女たちの方へゆっくりと歩み寄る。
今の私は完璧な仮面つけている。
でも、内心はドキドキが止まらない。
久し振りに見るカイルに目を奪われてしまう自分がいる。
女性が群がるのも納得する華麗な見た目も気に入っているけれど、私は彼の誠実さに惹かれている。
優しくて、穏やかな……春の日差しのような包み込むような温かさ。
リュシオンとのお茶会で落ち込んでいた時に、どれほど彼に救われたことか。
早くカイルの声が聞きたい……。会えるのをずっと待ってた。
高鳴る気持ちを抑えてカイルに声を掛ける。
「ラザフォード団長。少しよろしいでしょうか?」
リュシオンからの伝令でも伝えるかのように、事務的な言い方を演出する。
これだけで周りの令嬢たちは空気を察して、勝手に道を開けてくれるのだ。
あら、次期王妃が騎士団長に用事……きっとお仕事ですのね?
と、勘違いしてくれる。今の立場は便利だわ。
「セレナティア様!? 如何しましたか?」
カイルの真摯な眼差しが、私をまっすぐに見つめてくる。
……うわぁ、緊張する。お願い私の心臓、落ち着いて。
私は一呼吸して、精一杯虚勢を張って続ける。
「ラザフォード団長……少々お耳をお借りしてよろしくて?」
「はい、もちろんです」
僅かに身をかがめて差し出されたカイルの耳元に、そっと言葉を送る。
他の誰にも聞こえないように……。
「お話したいことがありますの……中庭でお待ちしています」
私の言葉に一瞬目を開いたカイルだったけれど、すぐに冷静さを取り戻して凛々しい声が帰ってきた。
「はっ、 承りました!」
カイルは如何にも任務を任された騎士のように振る舞ってくれた。
……きっと彼は来てくれる。
「それでは、私はこれで失礼しますわね」
優雅に一礼してその場を後にする。
令嬢たちが「セレナティア様もお忙しいのですね」と感心したような声を漏らしていたが、私の心は月明かりでの密会に飛んでいた。




