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37 本物の悪女

 ミレイナを家に呼んだ後、私は直ぐに行動を開始していた。『民の苦しみを見過ごせない。不正の噂がある家を正すのも、未来の王妃としての務め』とリュシオンを言いくるめて、監査官派遣の許可を取り付けていたのだ。


 彼は私の『正しい聖女活動』には協力的だから、こういう時はとっても便利よね。


 アマンダと義姉は、もはや言葉も出ない様子で顔面蒼白になっている。ミレイナは、何が起きているのか分からず、ただ呆然と私と継母たちを交互に見ている。


 その時だった――。

 一人の近衛騎士が足早に近づいてきて、私の傍らで恭しく片膝をついた。


「セレナティア様にご報告申し上げます。王太子殿下からのご指示により、クレフィーヌ子爵家の家宅捜索、並びに帳簿の監査が完了いたしました」


 私は貴族特有の芝居がかった優雅さで頷く。


「そうですか。ご苦労さまです……それで、結果はどうでしたか?」

 

「……残念ながら、アマンダ様主導による、長期にわたる帳簿改竄、及び大規模な脱税の明確なる証拠が発見されました。これより、アマンダ様並びにご息女、そして関与が疑われる使用人の身柄を、王命により拘束いたします」


 私はゆっくりとアマンダに向き直った。

 やだ、顔面蒼白を通り越して土気色になってる!

 

「だそうよ……アマンダ様? いえ『国家への反逆者アマンダ』とでもいいましょうか」


「そ、そんな……嘘よ……なにかの間違いですわ!」


 アマンダがその場にへたり込みそうになるのを、後から入ってきた他の騎士たちが両脇から力強く支えた。


 ――いや違う。あれは捕らえたんだわ。仕事が早いわね。


 義姉たちも「いやあああ! 助けてえ!!」と甲高い悲鳴を上げて逃げようとしている。

 

 はあっ……なんて無様。もう最高だわっ!

 もっと、もっとよ。無様に悪あがきして!

 必死に足掻いて見せてちょうだい!!

 

「法を犯せばどうなるか、お分かりのはずですわよね? ミレイナを虐げ、子爵家の財産を私物化し、あまつさえ国家を欺くとは……万死に値しますわ。……この者たちを拘束して下さい!」


 私の凛とした声が談話室に響き渡ると、騎士たちは直ぐに行動を開始した。


 騎士たちに引きずられるように連行されていくアマンダと義姉たち。

 彼女たちはこの期に及んでも、必死に無罪を主張しながら抵抗を続けているようだった。


 アマンダたちの抵抗も虚しく、助けを求めるわめき声が、どんどん遠ざかっていく。


 さようなら……性根の腐った御三方。


 あなた達の敗因は本物の悪女を甘く見て、敵に回してしまったことよ。

 大方、私が聖女のようだとでも噂を聞いて、少しくらいなら許してもらえるとでも思ったのでしょう。

 

 とても愚かでしたわね……。

 もう二度と、この世で会うことはないでしょう。


 ああ……なんて素晴らしい見世物だったのかしら。


 彼女たちが完全に姿を消すと、談話室にはミレイナと私、そして数人の騎士だけが残されていた。


 ミレイナは、目の前で起きた劇的な出来事に言葉を失い、ただ震えながら私を見上げている。その瞳には、恐怖と、信じられないという驚きと、そして……ほんの僅かな、救済への期待が入り混じっていたと思う。


「……ミレイナ」

 

 私は優しく呼びかけてから、彼女の前に屈み込む。

 

「これで、貴女を不当に苦しめる者はいなくなったわ。……夜会には、わたくしが贈った水色のドレスを着て、胸を張って参加なさい。それが、今の貴女がすべきことよ」


「お姉様……いえ、セ、セレナティア様……わ、わたくしのために……? どうして……」


「……困っている妹を助けるのは、姉として当然のことでしょう?」


 困惑するミレイナに私は悪戯っぽく微笑んでみせた。


「お姉様っ……!!」


 ミレイナの瞳から、ぽろぽろと大粒の涙がこぼれ落ちる。

 私はミレイナに寄り添い震える肩を抱き寄せると、背中にそっと手を回して優しくさすってあげた。


「うっ、う……お姉様ぁ……!」


「ほら、もう大丈夫よ……今まで辛かったわね」


 あらら。……これでミレイナは完全に私のものね。最高の駒を手に入れたわ。

 大きな感謝と尊敬。そして少しの畏怖で、もう私には逆らえないでしょう。


 それにしても……あの性悪女たちの悲鳴、なかなか気分が良かったわ。

 命を燃やしているかの様な必死さ。まるで断末魔の叫びね。


 なぜかわからないけど、あの人達に苛ついていたから本当にスカッとしたわ。

 

 押し寄せる満足感に、笑みが浮ぶのを止められなかった。


 私の婚約破棄計画、最高の形で滑り出したんじゃない?

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