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断罪された悪女に聖女になれとか正気かしら?  作者: ちくわ食べます


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32 苦しい言い訳

 あら? なんかこの娘……手が荒れてないかしら?

 ミレイナの手は、とても若い女性のものとは思えないほどに乾燥してガサガサしていて、少しチクチクする。


 こんな手じゃ……リュシオンに気に入ってもらえないわよ?


 私が手に見入っていると、ミレイナが不思議そうな顔をする。


「あ、あのセレナティア様?」


 私は魔力を集中して、ミレイナの荒れた手に聖属性魔法を注ぎ込む。


「え……何これ?」


 初めて見る聖属性魔法に戸惑っているのかもしれない。

 一応、フォローしておきましょう。


「大丈夫、私に任せて……」


「はい……あ、暖かい、です」

 

 ガサガサに荒れた手が光りに包まれ、艷やかな……年頃の乙女本来のものへと戻っていく。


 私はそのまま魔力を操作して、光がミレイナの体を覆うように広げていく。

 

 せっかくだから色々と治してあげましょう。


 水分を失ったパサパサだった髪も、天使の輪が出来るほどツヤツヤに復活よ。


 身体にキズでもあったら、私のあげるドレスが台無しになってしまうじゃない?


 せっかくあげるんだから、それに見合う女性になってもらいたいわ。

 

「うん、こんなものかしらね……」

 

「セレナティア様 こ、これは?」


 ミレイナは目を丸くして、自分の身体を確認していた。


 手だけじゃなくて、全身を癒してあげたからね。

 そうすると身体が軽くなるみたいだし、きっと変化に驚いているのでしょう。


 ウィークリーミッションの足しになるから、サービスで癒してあげといたわ。


「聖属性魔法による癒やしの力よ。年頃の令嬢がそんな荒れた手じゃダメよ」


「聖属性魔法……まさか、セレナティア様は聖女様なのですか?」


「まだ違うわ。修行中ってところね」


 そう言って、私は優雅にティーカップを傾ける。 

 紅茶の香りが、安らぐわね。


「でもこの魔法すごいです……心も、身体も軽くなった気がします」


「そう? よかったですわ……」


「セレナティア様は、てっきり私が、お嫌いなのかと思っていました……」


 あら、鋭いわね! 当たってるわ。

 でも、まだバレるようなことはしてないはずよね?


「そう? そんなこと言った覚えはないのですけれど」


「あの……頂いたお手紙に……その」


 ミレイナは歯切れが悪そうに答える。


 手紙……?

 ああ……あの権力パワー全開の文面のことね。


 もしかして、それでビクビクしていたの?


「あの手紙ね? ああでも書かないと……ご家族の方が貴方を家に寄越さないと思ったの。私、どうしても貴方に会いたかったから」


「私のために……ですか??」


「そう。さっきも言ったけれど、私は貴方の力になりたいの。貴方の境遇は同じ令嬢として見過ごせないわ」


 さてと、この流れならドレスをプレゼントしても不自然じゃないわよね?


 と思っていたのに……。

 なぜかミレイナがポロポロと涙をこぼし始めた。


「ミ、ミレイナさん、大丈夫?」

 

 これにはさすがに驚いた。

 危うく「え?」っと言いそうになってしまったじゃないの。


 ……なんでこのタイミングで泣いているのよ。

 私もなぜか、反射的にミレイナにハンカチを渡してしまったけれど。


 ほら、あれよ。

 涙が床に落ちたら、汚れちゃうでしょ?

 そういうことだわ。他意はないの。


「ありがとうございます……セレナティア様。こんなに優しくされたの久しぶりで……。セレナティア様もお気づきの様に、私……家族と、うまくいっていないんです……」


 あら?

 なぜか分からないけど、急に口が軽くなったわね。

 これは情報入手のチャンスじゃない?


 もう少し押してみましょうか……。


「うん、辛かったわね。私でよければ何でも聞くわよ……?」


 ミレイナの手に重ねるようにして、優しくそっと手を置いた。するとミレイナは安心した様子で静かに自分の境遇を語り始めた。


 それは私が事前に入手した情報と相違ないものだった。


 継母と義姉たちから冷遇されていること。

 ドレスを取り上げられてしまったこと。

 使用人以下の扱いを受けていること。

 夜会への参加を認められないこと。

 子爵家の財政が傾いていること。


 でも彼女が話した内容で、最もショッキングなことはここからだった。


「継母はそれでも贅沢を辞められなくて……帳簿を改竄しているんです」


「帳簿を……つまり税を少なく納めていると?」


「そうです。それでも財政は傾く一方で……でもこのままでは、父上が罪に問われてしまいます。私、どうしたら……」


 ミレイナの緊張が伝わってくるようだった。

 彼女は俯いたまま、きつく握りしめた手を膝の上で震わせている。


 でも、いい情報持ってるじゃない。

 これは使えるわよ。


 お陰で見えてきたわよ。私がミレイナを助け出す道筋が……。


「大丈夫。私に任せて。少し時間がかかるかもしれないけど、必ず解決してあげるわ」


「セレナティア様……ありがとうございます。どうして、私に……ほとんどお会いしたこともない私に、そんなに優しくしてくださるのですか?」


 え……何で優しく?

 時々、鋭い質問が来るわね。


『私の駒として使いたいからよ』

 いや、だめね。


『私の恋のために、リュシオンを落として欲しいの』

 これなんかもっとだめよ!


 ああ……もう!!



「そうね……貴方を見ていると……なんていうのかしら。妹みたいな……感じがして……放っておけないのよ」


「妹……ですか」


 く、苦しい言い訳になってしまったわ。

 私、妹なんて居ないのに……。

 ひとりっ子なのに。


 素直に言えたら楽なのにね。

 最近、悪だくみも疲れちゃう。


 でも、もう少しの辛抱。

 さて、ここからが本題よ。


「ミレイナさん……少し場所を変えましょうか。ついてきて頂ける?」

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