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断罪された悪女に聖女になれとか正気かしら?  作者: ちくわ食べます


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30 あまりにもお気の毒

「それはどういうこと?」


 私の誘導を受け、情報通のゼネリアが言葉を継ぐ。


「なんでも、新しい奥様とその連れ子の方々が、それはもう贅沢三昧で……クレフィーヌ家の財政、傾いているんじゃないかしら、ともっぱらの噂ですわ。ミレイナ嬢、肩身が狭い思いをされているとか」



 なるほど。

 これはマティアが集めた情報通りね。


 マティアから貰った情報によると……。

『――クレフィーヌ子爵、現当主はアルバン。先妻との間に娘一人、それがミレイナ様。先妻様であるレイナ様がご病死。その後、後妻としてアマンダ様を迎え、アマンダ様には連れ子の令嬢がお二人。現在、子爵家の財政はあまり芳しくない』

 と……いうことだったわね。


 マティアの報告は簡潔だったけど、必要な最低限の情報は含まれていたわけね。


 と、そこでルルディアが眉をひそめて口を挟んだ。


「後妻とその娘たちのせいでしょう? 衣装代も全部横取りされてるって聞いたわ。可哀想に。彼女、ドレスも取り上げられてしまって、一着も持っていないって噂ですわ」


 ルルディアの話は、ドレスや夜会に比重が置かれているけれど……いい感じに話が膨らみ始めている。


 ふふ、いいわね。

 もっと、もっと聞かせて。


 私は内心の喜びを隠し、心配そうな表情を作ってみせる。


「まあ、それはお可哀想……。私たちのような令嬢にとって、ドレスや夜会は大切ですのに」


 ドレスがない。

 夜会に招待されていながらも出席できない……。


 それは新しい情報だった。


 ミレイナ、新しい家族に虐げられているとはついてない女ね。

 

 まったく同情はしないけれど。


「まるで物語の灰かぶり姫ですわね。まさか使用人部屋で着古した服でも与えられてるわけじゃないでわよね?」

 

 アリシェは面白そうに口角を吊り上げながら口を挟んだ。

 彼女はおっとりした顔なのに、時折吐き出す言葉に毒が光る。

 

 でも、そのおかげで自然に話が広がっていく。


「まあ……それが本当だとしたら大変なことよ」


 さあ……どうなのゼネリア?

 私は目線でゼネリアに真偽を問う。


 すると、ゼネリアは少し伏し目がちに口を開いた。


「それが……アリシェの仰る通り、ミレイナ嬢は大変お辛い状況にあるようですわ。わたくしのところに聞こえてくる話では……新しい奥様やお義姉様からは、かなり冷遇されていらっしゃるとか。お屋敷の奥に追いやられ、ろくに新しいドレスも誂えてもらえないと……」


 ミレイナは冷遇されている?

 これは好都合だわ。ここに付け入る隙がある。


「では今回の建国記念の夜会も、参加されないでしょうね……。だって、着ていくドレスもないというお話ですし。どうにかならないものでしょうか」


 ルルディアの頭の中は、やっぱりドレスと夜会が中心。

 さすが舞踏会マスターだわ。

 ブレないところが彼女らしい。

 

 ゼネリアを見ると、本当に同情しているかのように眉を寄せている。彼女のこういう人の良さが、情報を集める上で役立っているのかもしれないわね。


 私は、ここで芝居がかったため息をついてみせる。


「それは……あまりにもお気の毒ですわ。もしドレスがないという理由で、あのような華やかな夜会に参加できないのだとしたら……同じ貴族の娘として、見過ごせませんわね」


 3人が、私の言葉に少し驚いたように顔を上げた。いつもの私なら、他家の事情にここまで立ち入ることはないから。


「そうだわ!」と、私はわざとらしく手を打つ。


「私、もう着ないけれど、まだほとんど新品同様のドレスがいくつかあるの。もしよろしければ、ミレイナ様にお譲りするのはどうかしら? もちろん、お気に召すかは分からないけれど……一度、我が家にお招きして、お話しする機会を設けてみたいわね」


 私の優しい提案に、ルルディアは「まあ、セレナティア様ったら、お優しいのね!」と感嘆し、アリシェは「あら、珍しいこともあるものですわね」と面白そうに目を細め、ゼネリアは「ミレイナ嬢も、きっとお喜びになりますわ」と心から安堵したような表情を見せた。


 ふふ……ここまではおもしろいくらいに計画通りね。


 マティアから得た「クレフィーヌ子爵家の財政難」と「ミレイナが先妻の娘である」という情報。


 そして友人たちから得た「後妻とその連れ子によるミレイナへの冷遇」「ドレスがなく夜会に参加出来ない」という情報。


 これで、ミレイナ・クレフィーヌがどんな状況に置かれているか、手に取るように分かった。


 不幸な令嬢――リュシオンが好みそうな、庇護欲をそそる完璧な女だったわけね。


 本来、この時点で2人は出会うタイミングじゃないのよね。少し早いけど、優しい私が2人を引き合わせてあげましょう。


 あとは、この『可哀想なミレイナ』を、私がどう『救い出してあげる』か……。


 その後もお茶会は和やかに続き、私は友人たちとの会話を楽しみながらも、頭の中では次の算段を組み立てていた。


 ああ……この3人をお茶会に誘って正解だったわ。

 

 適度に毒を吐くアリシェ。

 夜会が大好きなルルディア。

 噂と情報に長けたゼネリア。


 この3人の化学反応が……私の欲しい情報を余すところなく引き出してくれた。

 

 さあ次は、ミレイナをヴァルムレーテ公爵家へ招待してあげましょう。

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