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22 もう一人の来客

 コン、コンと控えめなノック音。

 

 ――え、また来客? 今度は誰よ。

 

 しばらく待ったけれど、扉が開く気配はない。

 

 誰かがノックだけして、立ち去ったとか?

 もしかしてイタズラ?


 いや、まさかね……そんなことってある?

 だって部屋の外にはマティアとクラリッサが控えているはず。あの2人がそんなイタズラを許すとは思えない。


 だけど、いっこうに扉が開く雰囲気はない。

 思わずカイルと顔を見合わせたその時。


「やっほー!」


 いきなりドアが開き、ひらひらとピンク色の髪を揺らす女が現れた。

 絹のような淡いドレスをまとい、慈愛に満ちた表情でにっこりと微笑む女性。バカな男たちならコロリと騙されてホイホイと付いていきそうだけど、私には腹の立つタレ目の女にしか見えない。


 なぜなら、私はこの女の本性を知っているからだ。それでも、このムカつく女を拒否できなかった。


「ちっ……エル=ナウル」


 思わず、その名前が口から零れる。虹色の光輪は背負っていなかったけれど、この顔とぽわぽわした声は間違いない。


 それにしても、なんでこのタイミングで来るんだと思う。

 せっかくいい気分でカイルと話をしていたのに水を差された気分だった。


 ピンク色の髪の女――自称神ことエル=ナウルが、ふふと笑いながら立っていた。

 そんなクソ女にカイルは律儀に礼をする。

 

 あんな奴に礼なんていらないというのに。

 どうせ、エル=ナウルは礼儀なんて意にも介さない自由奔放な存在だから。


 と思っていたけれど……。

 エル=ナウルは、ふわりと優雅にスカートの裾をつまみ、淑女としての礼を完璧にこなした。

 

 一切の隙のない、お手本のようなカーテシー。私ですら目を奪われるような美しい所作。今日の彼女は立派な貴族令嬢にしか見えなかった。


 それがまた私の神経を逆なでして、妙に苛立ってくる。

 ……男には媚びていい顔しようってところが特に。


 本当、どうやっても私とは相容れない存在みたいね。


「失礼致します。今日は、愛しのセレナティアちゃんに、お話があって参りましたの」


 ニコニコと笑みを浮かべているけれど。

 どうせ……私に死の宣告を告げに来たんでしょ?

 

「い、愛しのセレナティアちゃん……?」


 親密すぎるその言葉に、カイルは目を丸めて戸惑いの表情を浮かべて私を振り返った。


「セレナ……? あの方はいったい」


 私は内に渦巻く不機嫌さをなんとか押さえて、努めて冷静に小さく頷く。


「大丈夫よ……カイル。あのクソ、失礼間違えたわ……あの人は私の知人なの。少しだけ、席を外してもらえるかしら?」


「すみませぇ~ん、ラザフォード団長。すぐに済みますので」


 カイルは戸惑っている様子ながらも、私の雰囲気を察してか静かにうなずいた。


「わかりました。では、私は外で待ちましょう」


 そういってエル=ナウルに一礼すると、カイルは部屋を出ていく。

 重く響く扉の閉まる音がした時、エル=ナウルは、楽しそうにくすっと笑った。


「ふふっ、騎士団長さんといい感じに仲良くなってるじゃない? やっぱり元カレは特別なのかしら?」


 からかうような口調。でも私はいちいち相手にしない。

 聞こえなかったかのように無視を決め込み、私は小さくため息をついた。


「……元カレじゃないわ」


 くだらない揶揄は無視して、私は本題を促す。

 用事はだいたい分かっているけれど、話が進まない気がするから。


「……それで。何の用なの? どうせ、死の宣告にきたのよね」


 するとエル=ナウルは、ムカつくタレ目で私を見つめる。

 男はああいう蕩けたような顔が好きなのだろうけど、私は嫌いだ。

 

「あらあら……そんなに怖い顔してどうしたの。もしかして、カイルちゃんを取られると思って妬いちゃったの?」


「はあ!? 私が嫉妬するわけないでしょ?」


 何いってんの、この女。

 見当違いな言葉をいわれたからか、おもわず言葉に怒気が入ってしまう。


「心配しなくても大丈夫。人間で興味あるのはセレナティアちゃん、あなただけよ」


「あっそう、残念ね。私は女とイチャつく趣味はないの。悪いけど他を当たってくれる?」


「ええ~。女同士も楽しいんだけだどな~」


 エル=ナウルはわざとらしく肩をすくめたかと思うと、急に表情を変える。

 さっきまでの人をからかうようなものから、どこか感心したような色合いになっていた。

 

「でも、セレナティアちゃんすごいわね。ほんとうに頑張ってて、正直見直しちゃったわ~」


「はあ?」


 ミッションをクリアできないことを、遠回しにバカにしてるわけ?

 ……静かに、空気が凍りつく。

 

「いやぁん、怖~い」


 私の眉がピクリと跳ね上がるのを、エル=ナウルは気にした様子もなく、嬉しそうに両手を合わせた。


「いや、あんたがキレさせてるんでしょ?」

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