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ホワイトウィッチトライアル  作者: 初芽 楽
第4巻 迷子の魂
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第1章 Fly Away Girl(2)

 エリザベスは霊体だ。


 エリザベスには、自分が霊体であるという自覚がある。振動数が低く、物質世界(この世)に縛られた霊体、俗に言う地縛霊だ。現在霊体としての自覚があるのは、霊媒に導かれたお陰であり、その前は他の地縛霊と同じで、死んだことが認識できずに物質世界を彷徨さまよっていた。


 エリザベスだけではない。メアリ、マーガレット、そしてマチルダも同じだ。フォルトナー四姉妹は全員同じ特性を持った霊体だ。


 エリザベス達は、死亡したと思われる時から長い間、ある場所に留まり続けていた。その期間はずっと、霊体としての自覚を全く持たずに過ごしていた。ある時、当時十八歳のフローラが現れ、エリザベス達を霊体として目覚めさせた。


 それからフローラはエリザベス達を霊界へ送ることはなく、エリザベス達も自ら霊界へ旅立つことがなく、エリザベス達はフローラの守護霊として物質世界で生活することになった。


 その後、フローラがヘルベルトと結婚し、エレンが生まれた。やがてエレンが魔術師として成長して、紆余曲折うよきょくせつがあったものの、エリザベス達がエレンに引き継がれた。エレンがエリザベス達を視るようになった当初は、エレンはエリザベス達を避けていた。しかしある出来事をきっかけにして、エリザベス達はエレンと仲良くなり、今ではその絆が強くなっている。


 それでもエレンがしばしば言うことがある。


「みんな、約束は絶対に果たすから。そうしたら、安心して霊界に旅立てるから」


 地縛霊のような低振動霊は、死亡している認識がないので物質世界に縛られているのであって、死亡していることが分かれば霊界に旅立つのが普通だ。物質世界に留まり続ける理由はないし、霊界の方が霊体にとって健やかな生活を送ることができる。


 しかしエリザベス達は死亡して霊体になった自覚が芽生えた現在でも、自分がどうして死亡したのかが分からないままでいるのだ。


 例えば、後ろから斧で頭を叩き割られて、即死してしまった人間がいる。その人間は自分が死亡したことに気付かないままに霊体になってしまう。ただし死因は明確であり、霊体もその死因をいつか認識するか、霊媒によってさとされることで、死亡したことに気付く。そして霊界に旅立つ。


 しかしエリザベス達に関してはそんな単純な問題ではない。何十年経っても、自分達が死亡した要因となる出来事を思い出すことができないのだ。そもそも、そのような出来事が本当に起こったことすら怪しい。死亡しないまま霊体になったとすら思える。矛盾した考えだが、エリザベスにはその方がしっくりと来る。


 エレンはエリザベス達の死因を知っているらしい。エリザベスを霊界へ旅立たせることを考えているのならば、その死因を教えるべきだ。しかしエレンはエリザベス達にそれを教えようとしない。エレンいわく、その死因を教えたところで、エリザベス達にとっては意味のないことだからだそうだ。


 エリザベスはそれでいいと思っている。妹達もそうだろう。エリザベス達にとって、重要なのは自分達の死因ではない。


 エリザベス達は自分達の肉体を探している。死亡してから何十年も経っているので、既に肉体は朽ち果てているだろうが、それでもいい。ただ、エリザベス達は帰るべき場所がほしいのだ。それさえ叶えば、エリザベス達は霊界に旅立つつもりだ。


 それが、エリザベス達が今もなお物質世界に留まる理由であり、エレンとの約束である。その約束が果たされるまでは、エレンと仲良くするし、エレンに協力することにしている。


「あなた達と空を飛びたい」


 エレンは自分の魔術、ミヨクのエーテル魔術、そしてエリザベス達を活用して、飛行魔術を実現させようとしている。おそらく霊体はエリザベス達でなければならないことはないだろうが、他の霊体では飛行魔術の難易度は段違いに上がるはずだ。エリザベス自身、自分達フォルトナー四姉妹がそこらの地縛霊よりも、霊媒にとって物理的心霊現象を引き起こすのに適した霊体だと認識している。飛行などという高度な動作を行うためならば尚更だろう。


 エリザベス達は、自分達の目的には必要ないものの、エレンと一緒に飛行魔術を完成させることに楽しさを感じている。そもそも、物質世界でエレン達と一緒に過ごしていること自体が楽しいのだ。第二の人生を謳歌していると言っても過言ではない。


 エリザベスとしては居心地が良すぎて、肉体が見つかってもしばらく霊界に旅立たなくてもいいのではないかと思ってしまう。


 とはいえ、エリザベスもそれではいけないと理解しているつもりだ。約束が果たされた後、エレンとお別れしなければならないことは覚悟しなければならない。


「今度フォルトナーの別荘に行ったときに、あなた達のことも何か分かるかもしれないわね」


 別荘に行くことが決まった時、エレンはそう話していた。


 エリザベスには予感があった。エレンは、今回の別荘への来訪で約束を果たすつもりなのだろう。何度も別荘を訪れたことがあるし、今まではエリザベス達の肉体の手掛かりを得ることができなかった。


 しかしオリバーを訪ねてくるエーテル欠乏症の患者、その人に、フォルトナーに関わる秘密が隠されている。そうでなければわざわざこんな田舎にいる医者を当てにしないだろう。そもそもオリバーが医者をしているのは、フォルトナー家の魔術の被害を受けた人を助けるためでもあるとエリザベスも聞いている。


 フォルトナー家の惨劇。


 フォルトナー家の魔術師の四姉妹が突如、謎の死を遂げた事件。その四姉妹というのがエリザベス達、フォルトナー四姉妹だ。原因は未だ不明で、魔術師の間で様々な議論が交わされている。その中で通説となっているのが、エーテル欠乏症である。


 エレンは言わないが、エリザベス達の死因はエーテル欠乏症であると考えているはずだ。エリザベスはそう思っている。


 しかし、たとえエリザベス達の死因がエーテル欠乏症であったとしても、どうしてエーテル欠乏症になったのかが分からない。ミヨクみたいに『白い魔女』の魔術を行使したからだとは考えにくい。


 エリザベス達は生前、エーテル属性の魔術師だった。とはいえ、魔法陣を展開しないままエーテル魔術を行使した経験は一度もない。だから、『白い魔女』の魔術によって自分のエーテルを喚起したということはないはずだ。ソニア・ヘンシェルの黒い炎のような規格外の魔術もあるが、エリザベス達は生前にヘンシェル家の魔術師と会っていないし、黒い炎も見たことがない。


 ならば他の理由があるはずなのだが、人間が持つエーテルが減るなどという現象は常識的に考えればあり得ない。それでもエーテル欠乏症という症例が稀少とはいえ存在する以上、なんらかの原因があるはずだ。


 もしかしたらエーテル欠乏症の原因は、エリザベスやエレンが体験したことにヒントが隠されていて、エリザベス達はそれを見逃しているのかもしれない。


 どちらにせよ、オリバーを訪ねてくる患者を調べれば、エーテル欠乏症について進展し、エリザベス達の死因も判明するかもしれない。


 ただ、エリザベスは自分達の死因や肉体のことについてあまり期待していない。それよりも気掛かりなことがある。飛行魔術のことだ。


 エーテル欠乏症のことについては、判明するかどうかは定かではない。オリバーの患者がフォルトナー家とは何も関係ないかもしれないし、関係があったとしても何もわからないかもしれない。


 しかしエレン達が訓練している飛行魔術は違う。エレン達の実力次第で結果が決まる。そしてエリザベスの目から見ても、別荘に来るまでのエレン達の準備は万全だ。ほぼ間違いなく、別荘の滞在中にエレン達の飛行魔術は完成するだろう。


 そこで問題になるのが、飛行魔術が完成した後に、エレンがエリザベス達をどう扱うか、だ。エレンにとって、今はエリザベス達のような霊体が必要であるはずだ。魔術師として、飛行魔術を完成させようとしているからだ。しかしその飛行魔術が完成したら、エレンは魔術師としてエリザベス達が必要だと判断するだろうか。


 さらに高度な技術を必要とする魔術を開発するために、エリザベス達を活用するだろうか。それとも飛行魔術を長期間利用するために、エリザベス達を留めておくだろうか。魔術師の観点で考えても、そういう理由でエリザベス達を求めるのは不自然ではない。


 しかし魔術師にとって必要ではないものは切り捨てられるのが普通だ。地上の科学技術は魔術にとって不要なものなので、魔術師の国ではそのほとんどが排除される。それだけではなく科学技術の中には、所持及び使用するだけで魔術師にとっては罪であるものも存在する。


 霊体も例外ではない。この世界と別の世界の関係を研究するために、今の時代では、魔術連盟もミディアムを認めるようになってきた。それでも、本来的には魔術と霊能力は関係ない。一昔前では魔術師はミディアムを排斥していた。それは霊体による干渉を避けたかったからだ。ミディアムさえいなければ霊体が魔術師の国にいたところで何の影響もない。しかしミディアムがいれば霊体が魔術師に悪影響を及ぼすと考えられていた。今でも霊体の管理は厳しく、エリザベス達のような霊体が魔術師の国に留まるためには、守護霊として魔術連盟に登録することが必要である。逆に言えば、魔術師に不要と認められた霊体は存在することを許されない。


「エリザベス、メアリ、マーガレット、マチルダ。私達は家族よ。それを忘れないで」


 エレンがよく口にする言葉だ。実際に、エレンとエリザベス達は親族関係にあり、エリザベスもそのことはちゃんと理解している。とはいえ、エレンがそういうことを言っているのではないことも分かっている。


 生きた人間であろうと、死んだ霊体であろうと関係ない。エレンとエリザベス達はゼーラー家で共に過ごす家族だ。魔術師及び霊媒と霊体の立場はあるかもしれないが、それでも助け合いながら生活を共にする家族であることには変わりない。


 それが分かっていながらも、一つの可能性がエリザベスの頭をよぎる。


 飛行魔術が完成したら、エリザベス達は霊界に送られるのではないか。


 そんなことはないとエリザベスは信じている。しかしエレンが魔術師としての思想を優先して、魔術に不要なエリザベス達を捨てる可能性はゼロではない。霊界に行くことは構わない。いずれ行かなければならないことは分かっている。


 それでも、約束が果たされないまま捨てられたくはない。


 心にもやを残したまま、エリザベスは別荘での滞在を迎えるのだった。

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