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ホワイトウィッチトライアル  作者: 初芽 楽
第3巻 悪魔の門
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第2章 思惑と違う恋路(1)

 真守まもりはミヨクとエレンと一緒に外へ出ていた。日曜日の正午頃で、ちょうど昼食の時間だ。毎週日曜日のこの時間帯は、三人とも学業も仕事もないので、三人一緒に外へ昼食を取りに行き、帰りは買い物をすることにしている。真守まもりとしては、この時間がとても幸せだ。


 メイスラの街並みは一言で表すとレンガの街だ。赤みのあるくすんだ茶色の建物が多い。道路は主に白いレンガで舗装されている。地下の巨大な空洞という環境、そして魔術師の性質上、ほとんどの建物が石造りとのことだ。今は昼間なので、天井は岩石なものの、地上と同じように明るい。太陽光を地下まで届かせる仕組みがあるらしい。


 真守まもりにとっては元いた国とは全く別の街並みなのだが、魔術と関わりのない地上の世界からかけ離れた雰囲気というわけでもない。テレビで見たことのある、おそらく都心とは離れたヨーロッパの地域の街並みだという印象だ。


「あの店はどうですか?」


 真守まもりが良さそうな店を見つけたので、ミヨクとエレンに意見を伺ってみる。二人は少し呆れたように微笑ほほえんでいる。


「ちょっと待ってくれよ。そう焦んなくても店は逃げねえって」

「そうよ真守。でも、まあいいわ。私もそこでいいと思う」


 店に入ろうとした途端、真守まもりは正面から来た女性に目が行った。若い女性で、歳は真守まもりと同じくらいか少し上のように見える。身長は真守まもりより少し低いくらいだ。明らかに西洋人といった顔立ちで、長い金髪と青い瞳が特徴的だ。そしてとても豊かな胸のふくらみがうらやましく思える。


 真守まもりは何気なく見ていただけなのだが、向こうの方がこちらに反応した。


「あっ! ちょうどよかったわ。ミヨク君」


 どうやらミヨクの知り合いのようだ。女性は手を振りながらこちらに駆け寄ってくる。


「メリッサさん。こんにちは」

「こんにちは。ミヨク君」


 メリッサと呼ばれた女性が近くまで来ると、エレンも彼女の方へ歩み寄る。


「メリッサさん。こんにちは。久しぶりね」

「エレンちゃんも、こんにちは。そう言われてみれば、日本から帰って来ていたことはソニアから聞いていたけど、それから会っていなかったわね」


 ミヨクもエレンもメリッサと親しそうに話している。真守まもりが呆然とその様子を眺めていると、メリッサが真守まもりに気づいて、不思議そうに見つめる。


「あのぅ……。ミヨク君、この方は?」

「この子は久遠くおん真守まもり。俺の治療の手伝いをしてくれるミディアムの子です。日本にいた時の幼馴染なんですよ。俺と同い年なんで、気楽に話してあげてくさだい」

久遠くおん真守まもりです。よろしくお願いします」


 真守まもりは簡単な挨拶だけをして、余計なことは言わなかった。人見知りをする性格ではないのだが、メリッサに対しては気さくに話す気にはならなかった。


 それでもメリッサは気さくに、真守まもりに話しかけてくる。


「ソニアから話は聞いているわ。あなたが例のミディアムさんね。はじめまして。メリッサ・スプリングフィールドよ」


 そして握手を求めてきた。さすがに断るのは大人げないので、真守まもりは笑顔を作って握手に応じる。上手く笑えていないことは自分で分かった。


 握手を終えると、メリッサは微笑ほほえみながら横目でミヨクを見遣った。


「ミヨク君も隅に置けないわね。お友達に、こんなに綺麗な女の子がいたなんて」

「そういうのじゃないですよぉ」


 そういうのだと言えよと真守まもりは思った。


「ミヨク君はすっかり元気になったわね。顔色も良いし。安心したわ」

「はい。おかげさまで」


 自分のお陰だと恩を押し付けるつもりはないが、少なくともメリッサのお陰ではないだろと真守まもりは思った。


「そんなぁ……。私は何もしていないわよ。けど、気持ちだけ受け取っておくわ」


 受け取るなよと真守まもりは思った。


 ミヨクがメリッサを手で示しながら言う。


「メリッサさんは稀代の三席の一人で、エレメンタルマスターと言われてる。五大元素の魔術を全て使いこなすことができる魔術師なんだ。ソニアさんと同じくらい、いやソニアさん以上に優れた人だよ」


 ミヨクが自慢げに紹介する横で、メリッサが照れ臭そうに首を横に振る。


「もう……。やめてよミヨク君。いつも言っているでしょう。私がソニア以上だなんて絶対にないって」

「そんなことないですよ」


 真守まもりもやめてほしいと思う。これ以上、メリッサを持ち上げることはやめてほしい。二人の会話を聞いていて気分が悪くなったとさえ感じる。


「ところで、俺に用があるみたいなことを言っていましたけど、どうしたんですか?」


 ミヨクがそう言うと、メリッサの表情から笑みが消えた。


「そうなの。ミヨク君にどうしても相談したいことがあって、今、ミヨク君の家に行こうとしていたの」


 魔術師の国には携帯電話がない。一応、通信機能のある道具は存在するらしいが、ゼーラー家には置いていない。真守も日本にいた頃は携帯電話を持っていたが、魔術師の国には持ち込んでいない。税関で確実に没収されるからだ。電化製品はほとんど持ち込んでいない。魔術師の国はそれ程までに科学技術を排除している。


 だから誰かに用事がある時は、相手の家に出向くしかないことがほとんどだ。


「そうだったんですか。ところで何ですか?」


 ミヨクが訊くと、メリッサはエレンと真守まもりを見てから答えた。


「立ち話もなんだし……それに、ミヨク君にだけ聞いてほしいことだから……。昼から時間は空いているかしら?」

「まあ……、空いてますよ」


 真守まもりはもう悟っていた。ミヨクは絶対に空いていると言うだろうと。怒りを覚えないわけではないが、それよりも呆れが勝っていた。


「お昼はまだ? それなら一緒にどうかしら?」

「まだですけど、いいんですか?」


 よくねぇよと真守まもりは叫びそうになったが、必死の想いでこらえた。ミヨクが少しうれしそうにしているのも腹が立つが、そこも含めて我慢することができた。


「ええ、いいわよ」


 メリッサはそう言うと、エレンの方を向いた。


「ごめんね。エレンちゃん。お兄様を少し借りていくわ」

「ええ。好きにしていいわ」


 エレンはあっさりと言う。そんなエレンを、真守まもりは恨めしそうな視線を隠さずに見た。エレンはそれに気づいたが、すぐに真守まもりから視線を逸らした。どうやら本気で、ミヨクとの恋愛のことで真守まもりの肩を持つつもりはないらしい。


 とはいえ、エレンに不満をぶつけても意味がないと真守まもりは考え直す。問題はミヨクと目の前の女だ。メリッサは真守まもりにも申し訳なさそうに言う。


真守まもりさんもごめんなさいね」


 これではもう許すしか道はないではないか。元からミヨクを行かせないと駄々をこねるつもりもなかったが、それでも真守まもりは、ミヨクならメリッサの相談に乗ることはあっても、自分達との昼食や買い物の後にしてくれると思っていた。しかしその期待は完膚かんぷなきまでに打ち砕かれてしまった。


「いいえ。構いません」


 真守まもりは平静を装いながら言葉を出した。こんなことで癇癪かんしゃくを起こして、ミヨクに嫌われたら元も子もない。今は耐えなければならない時間だと自分に言い聞かせる。


「じゃあすまねぇけど、エレン、真守まもり、買い物よろしく頼むな」

「ええ、任せて」


 エレンは返事をしたが、真守まもりは何も言わなかった。


 ミヨクはメリッサに連れられて行った。結局、真守まもりと昼食に行けなくなったことについて、ミヨクは謝ってくれなかった。一緒に住んでいるのだから、また来週の休みに真守まもりと昼食に出かけるからいいだろうとでも思っているのだろうか。真守まもりにはそんな無愛想なことしか考えられなかった。


「信じられない……」


 今の出来事ではっきりしたことが二つある。真守まもりはミヨクに恋愛対象として全く認識されていないこと。そして、真守まもりはメリッサのことが苦手だということだ。

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