プロローグ
真守は自分に課せられた使命について考える。
今までも考えていなかったわけではないが、高校三年生になる前の三月にミヨクと再会して、魔術師同士の戦いに巻き込まれてから特に深く考えるようになった。そのきっかけとなったのは、『稀代の三席』と呼ばれている二人の天才魔術師の言葉だ。
『稀代の三席』の一人であるソニア・ヘンシェルは言った。
「力がある者だからこそ、助けを求めている人に使う」
『稀代の三席』と謳われ、数十年に一人の逸材と言われる自分だからこそ、魔術や異世界のことで苦しむ全ての人を救うという高い理想を掲げなければならない。ソニアは本気でそう思っているようだ。
そして、『稀代の三席』の一人であるエドガー・テルフォードはこう言った。
「力ある者が世界を支配するべきだ」
虚空間という制限があるため魔術が世界の表舞台に立たずに、魔術も霊能力も使えない人間、いわゆる無術者が科学技術を発展させて世界の中心に居座っている。魔術師として高い矜持を持つエドガーはそれが許せないようだ。世界を支配するべきなのは、己の力では何もできない無術者ではなく、魔術という神秘の力を持つ魔術師だと、だから無術者は排除されるべきだと。
ソニアが正しくてエドガーは正しくないと真守は思っている。大勢の人を救うために強い力を振るうことは素敵なことだし、魔術師の力を誇示したいがために、魔術が使えない人達を滅ぼそうなど悪逆非道にも程がある。
しかしこの二人の信条には大きな共通点があることも真守は分かっている。強い力を持つ者は、その強い力を発揮するべきだということだ。『稀代の三席』と呼ばれるような天性の才能を持っていることを自覚して、その才能の高さを理由に自らの理想も高く設定している。強い力を持っているにもかかわらず、その強い力を隠したままでいることは許されないと考えているだろう。その点においてだけは、真守もエドガーの主張に賛同できる。
なら、自分はどうだろうか、と真守は考える。真守は特殊な霊媒の家系である久遠家の長女として生まれた。久遠家は、夜刀神を祀る標山家の予備的な存在であり、その霊媒としての素質は標山家より劣っているとされていた。しかし、真守は久遠家としては例にない程の才能を持っていた。まだ標山家が健在であった時、標山家の人間ではなく、真守に夜刀神を継承させようという話があったくらいだ。
余談だか、夜刀神の継承の儀は、標山家だけではなく、久遠家も立ち合いの下に行われるべきなのだが、標山家の最後の継承の儀は久遠家に隠されたまま行われた。それは、夜刀神が久遠真守を選んでしまうことを標山家が恐れたからだ。とはいえ別の問題が生じてしまい、標山家は壊滅的な損害を受けてしまうことになる。
その後の十年間、ミヨクが久遠家から去った後も、真守の両親が亡くなった後も、真守は夜刀神の力の一部を行使することはあっても、真守は夜刀神の独占権を得ることはなかった。もちろん両親や祖父の意向というものはある。とはいえ霊媒として並外れた力を持つ真守が、その力をろくに使ってこなかったと言えなくもない。そういう意味では真守は、ソニアやエドガーと違い、己の高い能力を隠し続けていた怠け者だっただろう。実際に、似たようなことを他の霊媒に言われたことがある。
しかし現在では状況が変わった。真守は夜刀神の独占権を得たのだ。ミヨクの命を救うためだが、それでも確かに、真守は夜刀神に打ち勝ち、夜刀神を己の管理下に置いた。
真守は今、元々の高い霊媒能力と最上級の神霊を持っている。これ程の力を持った霊媒はそうはいない。魔術師でいうところの『稀代の三席』と似たような立場にいるだろう。だから考えなればならない。この力の使い道を――。
真守には、困っている全ての人を助けるといったような殊勝な使い道も、弱い他者を虐げて強い自分のための世界を作るといったような傲慢な使い道も思いつかない。
しかし、使い道がある。それは、両親の仇を討つことだ。




