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ホワイトウィッチトライアル  作者: 初芽 楽
第1巻 白い魔女
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エピローグ

 四月の下旬、学校の帰りに、真守まもりはヘンシェル教会に来た。制服姿であり、普段とあまり変わらないようだが、以前になかったアクセサリーが頭の上に乗っている。白いカチューシャだ。小さな白いリボンのついたカチューシャを真守まもりは着けている。それは自分で買ったものではなく、ある人にプレゼントされたものだった。


「おっ……。真守まもり、こっちこっち」


 教会の前で真守まもりを呼ぶ人がいる。それは真守まもりにカチューシャをプレゼントした人だ。


「みよ君。こんにちは。もう身体は大丈夫そうですね」


 ミヨクが真守まもりへのお礼ということで白いカチューシャを買ってくれたのだ。シンプルながらもリボンがついていて、真守まもりは最初そんな可愛らしいものは自分には似合わないと言った。しかし試着してみるとミヨクが可愛いと言ってとても褒めてくれたので、真守まもりはありがたく買ってもらうことにしたのだ。ずっと大切にするとミヨクに誓った。


「それは毎日言っているな。真守まもりのお陰でもう大丈夫だよ。意識が薄れることなんてもうないし、こうやって動けてるだろ」


 ミヨクは手を広げて一回転してみせる。その姿を見て真守まもりも安心した。


『白い魔女』を巡り、真守まもりとミヨクはエドガーと戦った。真守まもりは途中で気絶してしまったが、その後ミヨクがエドガーを倒したそうだ。しかし無事というわけにはいかなかったらしい。


『白い魔女』の魔術によって極限まで減らされたエーテルは、かろうじてミヨクの命を繋いでいたようで、ソニアによると人間のものとは思えない程の細い繋がりだったらしい。


 真守まもりとミヨクが共に夜刀神やとのかみの独占権を得たとはいえ、それだけで自動的にミヨクと夜刀神やとのかみが霊的に繋がるということではなかった。ミヨクが魂と肉体の繋がりを保つためには、真守まもりの仲介が必要であるようだ。


 真守まもり久遠くおん家へ運ばれている途中で目を覚まし、すぐにミヨクと夜刀神やとのかみの繋がりを元に戻した。それでも夜刀神やとのかみのエーテルがミヨクのエーテルとして馴染なじむには時間が掛かり、ミヨクが目を覚ますまで一週間、ミヨクが歩けるようになるまで三日を要した。さらに五日経つと、生活に支障がないくらいに回復した。


 ちなみにエドガーはソニア達に捕縛され、魔術師の国へ送還されたとのことだ。今頃は牢獄で裁判を待っていることだろう。


 十分な療養を経て、ミヨクの魂と肉体の繋がりが安定していることも確認したところで、ミヨクとエレンはソニア達と一緒に帰国することになった。真守まもりは別れの挨拶のためにヘンシェル教会に来たのだ。ミヨクとエレンとソニアとクレメンスが並んで立ち、真守まもりが向かい側に立つ。真守まもりはまずソニアとクレメンスに挨拶した。


「この度は、大変お世話になりました。ありがとうございます」


 真守まもりは綺麗な姿勢でお辞儀をした。


「ええ、こちらこそ。お世話になりました」

「こちらこそ……。って、そんなにかしこまらなくてもいいわよ」


 クレメンスとソニアが順に言う。ソニアの言うことも一理あると思い、真守まもりは顔を上げた。そしてソニアの右手を両手で掴む。


「ソニアさん。私達の道は違うでしょうけど、私はあなたの理想が好きです。お互い頑張りましょう」


 霊媒と魔術師というだけでなく、真守まもりとソニアでは目指す理想が違う。救いを求める人を全て救うという理想は真守まもりにはまぶし過ぎる。それでもその理想はソニアの強い理念によって形作られたものだと分かっているので、真守まもりは彼女を応援したい。


 ソニアは少し慌てたように口を開いたが、やがて嬉しそうに微笑ほほえんでくれた。


「ええ、頑張りましょう。ヘンシェル教会の支部がここにあるわけだし、あなたとはまた会うと思うわ。その時はよろしくね」

「ええ、よろしくお願いします」


 真守まもりはソニアから手を離した。それからエレンに向かう。


「エレンちゃん。ありがとうございます。エレンちゃんと仲良くなれて嬉しいです。手紙を送りますから……。またみんなで遊びましょうね」

「ええ、まあ、いいわよ……。また、夏の休暇の時に来るから、その時はよろしく」


 エレンとは打ち解けて、真守まもりはエレンのことをエレンちゃんと呼ぶようになった。ちょっと尊大そうな態度は相変わらずであるが、それがまた可愛いと真守まもりは思う。なんだか少し生意気でとても愛らしい妹ができたような気分で真守まもりは嬉しい。


「ええ、みんなもお元気で」


 真守まもりはエレンの後ろにも手を振った。そこにはフォルトナー四姉妹がいて、それぞれ真守まもりに手を振り返してくれていた。霊体にお元気でという言葉をかけるのは変なような気がしたが、真守まもりは深く考えないようにした。


 そして真守まもりはミヨクの方を向く。ミヨクにはたくさんの言葉を送りたいのだ。十年振りに再会した幼馴染だ。この数週間、たくさん話をしたがそれでも物足りないように感じる。とはいえ今後一生会えないわけでもないので、真守まもりは手短に挨拶することにした。


「みよ君もありがとうございました。手紙はちゃんと書きますね……。また会えるのを……楽しみにしています……」


 真守まもりは急に上手く言葉をつむげなくなった。ミヨクの顔をしっかりと見て、笑顔でミヨクを送らないといけないと思っているのに、それができない。


「こちらこそありがとうな。まあ、そんなに落ち込むなって。エレンも言ったけど、夏には遊びに来るから。その時はまたよろしくな」


 そうだ。永遠の別れではないのだ。それは分かっているはずなのに、真守まもりにはそうは思えなかった。ミヨクは十年前にゼーラー家に引き取られて、そのまま十年間も会えなかったのだ。それを思うと、今度はこのままずっと会えなくなるような気がして、真守まもりは無性に悲しくなってきた。


「やだ……やだよぉ……」


 そして真守まもりの眼からは涙がこぼれ始めた。泣いてはいけないと思いつつも、その涙は止まらない。ちゃんと別れを告げないといけないと思っているにもかかわらず、真守まもりはミヨクを抱き締めていた。


「折角会えたのに……また、どこか行ってしまうなんて……やだよぉ……」


 真守まもりは小さな子供のように泣きじゃくる。これがただのわがままであることは分かっている。しかし言わずにはいられなかったのだ。真守まもりはずっとミヨクと一緒にいたい。


「ちょっと……。真守まもり……」


 ミヨクの慌てるような声で、真守まもりは我に返った。そしてミヨクから身体を離す。そして涙を拭いながら、しっかりと言葉を出す。


「ごめんなさい。もう大丈夫です。変なことを言ってごめんなさい」


 真守まもりがそう言うと、ミヨクはばつが悪そうに頭をかく。


「いいや。謝ることはねぇよ。俺だって寂しいよ。でも、必ず会いに来るよ。またな」


 必ずまた会える。その言葉が真守まもりには最高に輝かしかった。


 そして真守まもりは思う。真守まもり達は勝ったのだ。エドガーや夜刀神やとのかみにだけではない。『白い魔女』という運命に勝ったのだ。ミヨクは『白い魔女』にはなったものの、過激派の魔術師に利用される悲劇から免れた。そして、こうして真守まもりはミヨクとまた笑い合えることができる。アイラとルイスが夢半ばにして果たせなかった願いを、真守まもりとミヨクは叶えたのだ。今は、その喜びを分かち合おう。


「ええ……。じゃあ、みよ君。またね」


 真守まもりとミヨクがつむぐ、新しい『白い魔女』の童話は、『白い魔女』の願いが叶った今でも終わっていない。むしろ、まだ始まったばかりだ。

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