表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホワイトウィッチトライアル  作者: 初芽 楽
第1巻 白い魔女
23/177

第6章 白い魔女(2)

 時刻は夜になり、真守まもりは自室で、一人で眠っていた。


 今夜からソニアも久遠くおん家に泊まることになり、真守まもりは親睦を深めるためにソニアとエレンと三人でパジャマパーティして一緒に寝ようと提案した。幸いにもエレンは賛成してくれたのだが、ソニアには丁重に断られてしまった。ソニアが参加しないならとエレンも元の部屋へ引っ込んでしまい、結局一人寂しく眠ることになったのだ。


 そんな中、真守まもりは真夜中に目を覚ました。水を飲もうと台所に来た時、廊下の曲がり角へ人影が消えていくのを見る。行き先はミヨクが寝ている和室だ。ミヨクと考えるには不自然なくらいに、足音を消すような歩き方である。フォルトナー四姉妹の監視が抜けられたとは思えないが、真守まもりは万が一のこと考え、台所から果物ナイフを取り出してからミヨクの部屋に向かった。


 ミヨクの部屋に到着して、真守まもりふすまから聞き耳を立ててみる。すると誰かが動いているような物音がした。ミヨク以外の誰かがこの部屋にいることが分かる。真守まもりふすまを開け、一気に侵入者の姿を認めて、その背後を取り、首筋に果物ナイフを当てる。


「動かないでください。下手な真似……って、えっ……?」


 真守まもりは侵入者の正体に気付いて戸惑った。エドガーだと思い込んでいたが、実際にはソニアだった。そのソニアが両手を上げる。


真守まもりさんね。悪いけど、その物騒なものをしまってくれないかしら?」

「ええ、はい」


 真守まもりはゆっくりと果物ナイフをソニアから離す。そして正座をして、果物ナイフは膝の上に置いた。ソニアも身体を真守まもりの方に向ける。


「あの……。エドガーが来たのだと思って……。すみませんでした」

「いえ、いいのよ。真守まもりさんがこんなことをするのは意外だったけど、状況を思えば仕方ないわね」


 それにしても、刃物を首筋に当てられたにもかかわらず、この部屋に来たのが真守まもりであったことにソニアが安堵しているように真守まもりは感じた。


「ところでソニアさん。ここへ何しに来たのですか?」


 真守まもりは単純な質問をした。今は真夜中で、ミヨクは眠っているのだ。ソニアはミヨクの部屋に忍び込んだことに変わりない。


「もしかして……」


 真守まもりが追及しようとすると、ソニアの顔つきも暗くなる。やはりよからぬことを考えているのだろうと思い、真守まもりはソニアの目的を当ててみた。


「夜這いしに来たのですか?」


 真守まもりがそう訊くと、ソニアはしばらく唖然とした。難しい日本語を使ってしまったのでソニアには伝わらなかったと真守まもりは思ったが、真守まもりの心配に反してソニアは知っていたようで、急に顔を赤らめた。


「そ、そ、そんなわけ……」


 もちろん真守まもりは冗談で言ってみただけだ。ソニアが何か四角い石のようなものを持っていることには気づいている。何かは分からないが、この石で何かをするためにこの部屋に来たのだろう。


「では、何をしに来たのですか?」


 真守まもりがもう一度訊くと、ソニアはしばらく黙った。そして思いついたように告げる。


「ミヨク・ゼーラーのことが心配になってきたのよ……。えっと……、昼にあんな倒れ方をしたじゃない。あれは私にも責任があるし、大丈夫かなって……」


 絶対に嘘だと真守まもりは思った。ソニアは真守まもりから視線を反らしているし、言葉がたどたどしい。そもそもミヨクのことが心配ならば、真夜中でなくてもミヨクが起きている間に来ればよかったのだ。


「みよ君なら大丈夫ですよ。エレンちゃんには内緒にしておきますからもう出ましょう」


 ソニアは知らないだろうが、この部屋には既にエリザベスがいる。とりあえず真守まもりはエリザベスに今のことを黙ってもらおうと話しかけようとする。


 そこでもう一人の人物がこの場に現れた。エレンだ。フォルトナー四姉妹も揃う。エレンはかなり怒った顔で周りを見回す。そしてやはり怒った声でこんなことを言う。


「あなた、それは何?」


 ふと、真守まもりは自分が果物ナイフを持っていることを思い出した。エレンが来た瞬間にそれを構えていたのだ。急いでその果物ナイフを背後に隠す。


「いえ、エドガーが来たのかと思って……」

「あなたのことを言っているんじゃないわ」


 エレンが叫ぶ。確かにエレンは真守まもりのことを見ていなかった。


「ったく……。勘がいいわね。あなた……」


 ソニアは観念したように右手を差し出す。その手のひらにはやはり先程の石があった。半透明で白色の長方形の鉱石だ。


「それは……何ですか?」


 真守まもりが訊くと、ソニアが答える。


「これはエーテルの量を測る道具よ。エーテルのような半物質を通す特殊な鉱石でできているわ。これを対象に当てると、石の色がにごっていって、そのにごり具合でエーテルがどれくらいあるのかを判定するの」

「その対象というのは、みよ君ですか?」


 真守まもりが訊き、ソニアがうなずいた。つまり、ミヨクのエーテル量を測定していたとのことだ。真守まもりはそれの意味することがよく分からなかった。しかしソニアが真夜中に隠れて行っていたことだ。何か重要な意味があるに違いない。真守まもりは今までの話を思い出してみる。そして一つ思いついた。迷わずにそれを口に出す。


「もしかして、少ないのですか?」

「ええ、少ないわ。どういうわけか、三歳児並みよ。普通に生きていて、十七歳にもなろうという人間が、こんなエーテル量になるのはおかしいわ。私が昨日傷つけた分は反映されにくいというのもあるけど、それを考えても少な過ぎるわね」


 七つまでは神のうち。つまりミヨクは幼児並みにあの世に近いということだ。


「そこまでよ。ソニア・ヘンシェル!」


 エレンが突然叫び、身構える。四姉妹も物質化していないものの、今にもソニアに襲い掛かりそうな構えを取っている。


「あなたは今、ここでは魔術が使えない。けど、私は余ったミディウムでこの子達にあなたを蹴り倒させることはできるわ」


 エレンがソニアを攻撃しようとしている。ソニアも攻撃をされても仕方がないというように、エレンと向かい合っている。真守まもりは戸惑いながらもエレンに声を掛けた。


「ちょっと、エレンさん。急にどうしたのですか?」

「あなたは黙っていて!」


 エレンが再び叫んだ。そこで、ミヨクのうめき声が聞こえた。どうやら目を覚ましたようだ。ミヨクは上体だけ起こして、この修羅場を眺める。


「なんだ……。これは一体……」

「お兄様。お兄様の言った通りよ。ソニア・ヘンシェルがお兄様のエーテル量を測っていたわ。この女はやっぱり何か知っているのよ」


 エレンがそう言うと、ミヨクはまずソニアの顔を見て、そしてソニアが持つ鉱石を見た。すると一気に真剣な顔つきになり、すっと立ち上がった。


「ソニアさん。俺のエーテルはどれくらいでしたか?」


 興奮しているエレンに対して、ミヨクは落ち着いていた。先程のエレンの言葉からすると、ミヨクはあらかじめソニアの行動を読んでいたみたいだ。


「かなり少ないわ。三歳児並みよ。それが何を意味するのかは、あなたならよく分かっているわね」

「はい……」


 そう応えながら、ミヨクは姿勢を低くした。このまま逃げようとしているようだ。


「それで、俺を殺すつもりですか?」


 ミヨクがそんな突拍子のないことを口にする。どうしてそんな話になるのか真守まもりには分からない。しかし真守まもり以外の三人はその理由に心当たりがあるようだ。


「そんなことはないわ。あなたはヘンシェル教会が責任を持って保護する。だから殺すなんてことはしない。それは安心しなさい」

「嘘よ! 騙されないでお兄様。この女は嘘をついているわ」

「嘘じゃないわ。私はあなたを見捨てたりはしない。お願いだから私の言う通りにして」


 激高するエレンに対して、ソニアは懇願こんがんするようにミヨクに訴えかける。それでもミヨクはどこか諦めたかのように大人しかった。


「エレンや真守まもりに迷惑が掛からないのなら、俺は応じます。エレンもそれでいいだろ」


 ミヨクがそう言うと、エレンはミヨクのところまで駆け寄り、彼にしっかりと抱き着いた。四姉妹もミヨクの傍まで来る。


「駄目よ、お兄様。私も全部分かっちゃったのだもの。仮にソニアさん達がお兄様を保護してくれても、待つのは地獄だけよ」

「エレン落ち着け。俺は大丈夫だから」


 エレンの勢いが伝わってしまったのか、ミヨクにも動揺が見られるようになった。


「何が大丈夫よ。お兄様は自分が置かれている立場が分かっているのでしょう。だったら、もう逃げるしかないじゃない」

「いや、何とかなるって。むしろ逃げた方が、状況がまずくなる」

「ミヨク・ゼーラーの言う通りよ。ここは大人しく……」

「あなたは黙っていなさい。あなたみたいな人間がお兄様を放っておくわけないでしょ。そんなこと言って、最後には殺すに決まっているわ!」

「だからそんなことはないって言っているでしょ!」

「黙れっ!」


 エレンとソニアがわめき声を、真守まもりはさらに大きな怒声でき消した。自分だけ放置されていることに腹が立ったし、状況を正しく理解したい。全員が黙って真守まもりの方を向いたところで、真守まもりは一呼吸して気持ちを落ち着かせてから口を開く。


「質問をしてもよろしいですか?」


 真守まもりの問いかけに対して、ミヨクが真っ先にうなずく。なので真守まもりもミヨクの方を向いた。


「みよ君のエーテル量が少ないことは分かりました。でも、それがどうしてみよ君を殺す殺さないの話になるのですか?」


 ミヨクのエーテルが少ないことで霊体と繋がりやすくなることは真守まもりも理解している。しかし霊媒ではないソニアがそんなことを危険視するわけがない。問題の本質は、あくまで魔術に関わるところにあるはずだ。


 ミヨクは手を小さく震わせながらも、平静を振舞いながら答える。


「老人ならまだしも、未成年の人間のエーテルが自然に減少することはない。つまり俺は知らない間に、自分のエーテルを減らす技術を持たされたということになる。その上で、自分のエーテルが減ったことにより、夜刀神やとのかみのエーテルと繋がるようになった」

「でも、それで夜刀神やとのかみと繋がってもそれだけなのでしょう。だったら……」


 仮にミヨクが夜刀神やとのかみと繋がったとしても、ミヨクは物理霊媒ではないので、夜刀神やとのかみを悪用することはできないし、夜刀神やとのかみもミヨクの身体を利用して暴れることはできない。


 ミヨクを殺さなければなくなるような事態には陥らないのではないかと真守まもりは思うのだが、ミヨクは首を横に振る。


「だから、真守まもり。俺は自分のエーテルを減らすことができるんだ。おそらく、俺と繋がった夜刀神やとのかみのエーテルもだ」


 そこで、真守まもりはようやく気づいた。ミヨクが魔術で行ってきたのは、異世界のエーテルを集めて放出することだ。それはつまり、異世界の中のエーテルを少しずつ減らすということに他ならない。ミヨクの場合、エーテルを減らすということは魔術を行使するということだ。

 ミヨクが額に手を当てて笑い出す。


「まったく……呪いを解くとはよく言ったものだよ」


 そしてミヨクは膝をついた。それに合わせてエレンが倒れそうになるが、一度ミヨクから手を離して、自分も膝で立って再びミヨクに抱き着く。エレンが「お兄様……」と小さい鳴き声を上げる中、ミヨクは衝撃の事実を口にした。


「どうやら俺は、現代の『白い魔女』になっていたらしい……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ