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ホワイトウィッチトライアル  作者: 初芽 楽
第1巻 白い魔女
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第5章 稀代の三席(4)

 真守まもりはミヨクが宿泊している部屋で、ミヨクの看病をしていた。ミヨクは本日二度目の気絶を経て、布団の上で眠っている。とにかく今回もミヨクの身体は無事であるようで、真守まもりは安心した。


真守まもりさん入っていいかしら?」


 ふと、外からソニアの声がした。ふすまはノックするものではないと真守まもりはソニアに教えておいたのだ。真守まもりが返事をすると、二人の女の子が入室した。ソニアとエレンだ。ソニアは不安そうな表情を浮かべ、エレンはとても不機嫌そうに口の端を歪めている。ソニアが真守まもりに訊いてきた。


真守まもりさん。ミヨク・ゼーラーの容態はどう?」


 本来ならミヨクを傷つけた者を真守まもりは許さないが、今回のことはミヨクが同意した勝負での結果なのでソニアを責める気もあまりない。というか真守まもりが責めなくても倒した本人は既に反省しているようだ。


「大丈夫ですよ。骨に異常はありません。エドガーから受けた傷を外したことが幸いしましたね。しばらくしたら起きるでしょう」

「良かった……」


 ソニアが安堵したように溜息を吐く。しかしエレンが不服そうに声を上げた。


「良かった、じゃないわよ。魔術戦で、しかも防具もつけてないのにあんな無茶な攻撃をして……。これじゃあ、お兄様がソニアさんのことをゴリラ呼ばわりするのも無理はないわ」

「悪かったと思っているわよ」


 エレンは納得がいっていなさそうに眉をひそめるが、それ以上はソニアに文句を言うことがなかった。そして二人は真守まもりを挟むように彼女の両隣にそれぞれ腰を下ろした。

 真守まもりはソニアに話しかける。


「それにしても、ソニアさんとみよ君は、なんというか……浅からぬ因縁があるように感じましたが、そうなのですか?」


 少なくともただの知り合い程度の関係ではないことは真守まもりにも分かった。それはミヨクとソニアの戦いを見ても明らかだった。何度も手合わせをしていて、手の内はお互いに知っていることを知っていて、いつ相手の意表を突こうかというような戦い方だった。


「ええ、こいつのことを知ったのはつい数か月前だったけど、いろいろあって、いがみ合ったり協力したりだったわ」


 やはりソニアは戦いの場ではない時はとても大人しい。それにミヨクと魔術戦をしていた時は憎まれ口を叩いていたのに、ミヨクの悪口は言おうとしない。それどころか柔らかな眼差しでミヨクの寝顔を眺めている。


「それにしても、格上の相手だって分かっているのに、そんなことは関係ないっていうように立ち向かって来るのは、素直に感心するわ。こいつ、エドガー相手でもそんな感じだったのでしょう?」

「ええ、お察しの通りです」


 何だか和やかな会話になっていた。ソニアの頬もかなり緩んでいる。

 そこで真守まもりはここ数時間ずっと思っていたことを述べてみる。


「ソニアさん。本当はみよ君のことが好きなのですね」


 真守まもりは確かに音が消え去ったのを感じた。数秒間、誰も言葉を発さなくなり、その時間が実際の倍くらいに感じられる。そして、その沈黙を破ったのはやはりソニアだった。彼女は膝で立ち上がり、真守まもりの方に振り向いた。


「はぁぁぁあああああ! そんなわけないじゃない!」


 そしてソニアは真守まもりの両肩を掴み、彼女を揺さぶる。

 しかし真守まもりは確信している。ソニアはミヨクに対してかなり悪態をついていたが、そのじつミヨクを認めているような言動が多く見られた。厳しいことを言い放つのもミヨクに期待の裏返しだと思われる。それに真守まもりはしっかりと見ていたのだ。魔術戦を楽しむ笑顔と、ミヨクに多大な羨望を向けた眼差しを――。これでミヨクに対して少しも好意を持っていないと言う方が無理だ。


「ごめんなさい。ごめんなさい。分かりましたから、放してください」


 とはいえ事実を言ってしまえば逆効果だということは分かり切っているので、真守まもりはとにかく謝り倒した。その甲斐あって、真守まもりは揺さぶりから解放された。


「あなたって、そういう冗談を平気で口にする人だったのね。意外だわ……」


 ソニアが不機嫌そうにそう呟く。異性への好意を指摘されると、それを冗談と受け取って照れてしまうとは、ソニアはとても可愛らしい。真守まもりはそう思ったがやはり言わずにいておいた。

 それに、ソニアは意味ありげな表情を浮かべてこんなことを言ったのだ。


「そもそも、私がこいつを選ぶわけにはいかないし……」


 やはり魔術師には魔術師の事情があるのだろう。本当はミヨクのことが好きなのに、結ばれない運命であることを知っているので、敢えて好きではないように振る舞わなければならないという悲しい事情がきっとあるのだろうと真守まもりは解釈した。


「うう……」


 そこでミヨクがうめき声を上げた。そしてしばらくもしない内に目を覚ます。上体を起こして、女の子が三人いる方に振り向いた。


「あれ……ここは……」

久遠くおん家よ。どうしてここにいるかは、ちゃんと分かるかしら?」


 ミヨクの問いかけに対しては、エレンがいち早く応えた。そしてミヨクはエレンの言葉の意味を察したようで、力なく項垂うなだれる。


「そうか……。俺、負けたんだな」


 相手は強敵で、不利な場面もなかったわけではなかったのだろうが、一日に内に二度も敗北を味わってしまったのだ。あまり気分の良いものではないだろう。真守まもりはなんとかミヨクを元気づけようと言葉を考えたが、先にソニアが口を開いた。


「それにしても、あなた以前よりかなり強くなったわね。驚いたわ。私、今回は負けたかもって思ったくらいだもの」


 その言葉に、ミヨクは顔を上げる。少しは元気を取り戻したかと思われたが、すぐに俯いてしまった。


「けど、負けました。完敗です」

「まあ、そう言わないの。今まで、あなたを負かしたら病室送りか、エレンに持ち帰らせていたけど、折角だから今日は総評をしてあげるわ」


 ソニアがそう言うと、ミヨクは再び顔を上げる。今度はすぐに下を向くことなく、決意のこもった顔つきでソニアを見つめていた。


「お願いします」


 ミヨクが頭を下げると、ソニアは不機嫌そうに頬を膨らませる。


「現金なやつね。いつもそれくらい素直だったら言うことないのに……。まあ、いいわ。話すわね」


 ミヨクが頭を上げると、ソニアが話を始めた。


「始めに言っておくわ。ミヨク・ゼーラー、あなたはその年齢を考えればとても優秀な魔術師よ。魔力はなかなかに高くて、魔力の制御も上手よ。技は多彩で、数秘術を駆使した詠唱は無駄がないわ。それでいて魔術の速さも威力も申し分ない。攻撃も防御もそつなくこなす。とても基本に忠実で、どの能力も押し並べて優れている、教科書のような魔術師よ。それに加えて杖による魔術制御は群を抜いているわ。エーテル属性とはいえ、杖による移動は大人でも難しいっていうのに、あなたは難なくやってのける。コトネ・ハイカワは本当に良い師のようね。断言してあげるわ。このまま頑張っていけば、今年の首席はあなたよ」


 べた褒めである。やはりソニアはミヨクのことを気に入っているのだと真守まもりは思う。しかしミヨクは全く浮かれない。その理由は話の続きにあった。


「でも、だからこそ、あなたのその優秀さが戦いではあだになるわ。あなたの魔術は優れているけど普通なの。あなたも知っているようにエーテル魔術はとても一般的な魔術よ。つまり、みんなその魔術を知っているの。それを魔術属性としていない人も含めてね。だからエーテル魔術の基本的な戦術は知っている。あなたのように基本に忠実な魔術師のものなら尚更ね。あなたはそれを分かっていて、杖と魔力の操作で魔法陣の位置をずらす戦術も行っているようだけど、それすらも現代の魔術知識としてはやはり一般的なものになりつつある。つまり、あなたが優秀であればある程、その戦術は読まれやすいってことよ」


 真守まもりも魔術戦を見て思った。ミヨクの攻撃は分かりやす過ぎるのだ。魔法陣からの砲撃の軌道も分かりやすく、砲撃はどれも直線的だ。ソニアの言う通り、杖や魔法陣の位置による応用も行っていたが、真守まもりの反射神経ならば容易たやすく見破れるようなものだ。ソニアの黒い炎のような圧倒的な攻撃力も、エドガーの細胞魔術のような変則性もない。真守まもりも、ミヨク、ソニア、エドガーの中なら戦闘面ではミヨクが一番弱いと思う。


「まあ、でも、駆け引きは上手くなっているし、そもそもあなたはまだ発展途上なのだから、焦らずじっくりやっていけば、あと何年かしたら私とも対等なレベルになるかもしれないわ。誇りなさい。あなたは私にそこまで言わせたんだから。それに、本当に最後の攻撃は危なかったのよ」


 ソニアの話を真面目に聞いていたミヨクだったが、ふと何かを思い出したかのように、口を大きく開けた。そして慌てるようにソニアに訊く。


「そうだ。どうして、俺の最後の攻撃をソニアさんは読んでいたんですか。あれはそうとしか考えられなかった。俺、何か読まれるようなミスをおかしましたか?」


 真剣に答えを待つミヨクに対して、ソニアは何でもないように告げた。


「あれはあなたの魔法陣を読んだのよ。速い砲撃の時の魔法陣はもう何度も見ているからね。あれがエンチャントじゃなくて砲撃だというのは分かったわ。といってもほぼ直感だったし、あれ読み間違っていたら、負けていたのは私だったかもしれないわね」


 その答えを聞いて、ミヨクはひどく肩を落とした。


「完敗です。では、エレンを連れてメイスラに帰ります」


 ソニアとの魔術戦でミヨクは負けてしまったので、彼は国に帰らなければならない。確かそういう約束だったと真守まもりも思い出す。折角十年振りに会えたのに、こんな満足のいかない形で分かれるのは嫌だ。真守まもりはそう思ったのだが、ソニアが次に言い出したことは、真守まもりの予想をいい意味で裏切るものだった。


「ああ、その話だけど……。別にいいわよ。帰らなくて」


 真守まもりは馬鹿みたいに口を開けたままになってしまった。ちゃんと見回したわけではないが、おそらくこの部屋にいるソニア以外の人間が同じような顔をしているだろう。


「いや、負けたら帰れって……」

「私、そんなこと言っていないわよ。私を満足させられなかったら帰れって言ったのよ。私は満足したわ。だから帰らなくていい。もちろん虚空間へ行くことは禁止だし、『白い魔女』については話してもらう。でも、とりあえず今日のところはゆっくり休みなさい」


 その言葉を耳にして、真守まもりはいち早く喜びの声を上げた。そしてミヨクの両手を取る。


「やりましたね。これでまだ一緒にいられますよ」

「ちょっと、なに気安くお兄様に触っているのよ」


 エレンが怒っていたが、真守まもりはそんなことを気にせずに、今度はエレンの両手を取る。


「エレンさん。一緒にいられますよ」


 そんな真守まもりの行動が意外だったのか、エレンは何か文句を言おうとする素振りを見せながらも、真守まもりから視線を反らして「そうね」と呟いた。


 危険な目に遭い、ミヨクは傷ついたが、真守まもりは今の結果を嬉しく思う。これからもミヨクと一緒にいられて、ミヨクの力になれる。短いだろうが、それでもまだその時間が残されていることを真守まもりは喜んだ。

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