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ホワイトウィッチトライアル  作者: 初芽 楽
第4巻 迷子の魂
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第5章 Home Sweet Home(4)

 湖の中央、上空百メートルの高さにエリザベス達が浮いている。昨日の昼間と同じように、エレンとミヨクがアーミラリステッキにまたがり、フォルトナー四姉妹が二人と杖を支える形だ。夜中なので当然暗いが、月明かりがあり、エレンとミヨクならば周囲に何があるか分かる程度には視えるだろう。二人は地下の国で暮らし、あかりを使うことが少ない。地上の世界の人間よりも夜目がきくはずだ。


 そしてエリザベス達の前方二十メートル先に、リリーに憑依したフォルトナーがいる。


「来たか。私の身体」


 フォルトナーはエレンに話しかけた。別荘でもそうだったが、フォルトナーの一人称が“私”になっている。エレンと真守まもりが何人かの霊体を引き離したことで、フォルトナー実験に対して一番執着の強い人格が出てきたのかもしれないとエリザベスは考える。

 そこでエレンはこう言い返す。


「悪いけど、私はあなた達と一つになりに来たのではないわ。あなた達を霊界へ導きに来たのよ」

「おかしなことを言う。まるで私が死んだかのような……」

「ええそうね。あなた達はまだ死んでいないわ」


 エレンの言う通りだとエリザベスも思う。フォルトナーは死んでいるが、まだ死んでいるとは言えない。霊体は霊界に行くことで初めて物質世界での生を終えたと言えるだろう。だからと言って生きているわけでもない。生と死の狭間を彷徨っているだけだ。

 エレンが堂々と宣言する。


「だから私達がちゃんと死なせてあげる」


 エリザベスも頷く。霊体の自覚を持つとはいえ超低振動霊である自分が言える立場なのか疑わしいが、それでも言いたい。自分達はフォルトナーに死を教えに来たのだ。フォルトナー家の霊体が物質世界に縛られることなく正しく死を迎えられるようにするために、ここにいる。


「ぬかせ」


 フォルトナーが仕掛けてきた。三人の霊体がエリザベス達に向かってくる。


「Fünf, Zwei, Sieben」


 ミヨクがエーテル魔術を発動し、エリザベス達も動き出した。一旦フォルトナーの本体から離れ、それから旋回して本体へと一気に進む。エリザベス達は追ってくるフォルトナーの霊体とフォルトナーの本体に挟まれる形となった。

 そこで本体が詠唱する。


「ハガル」


 魔法陣が展開されたのを見て、エリザベス達はすかさず旋回した。すぐ横をエーテルの弾が通り過ぎる。リリーも憑依している霊体もエーテル属性の魔術師だから当然だろう。おそらく弾の殺傷能力は低い。弾速は遅く、エーテルの密度も低そうだ。しかし飛行中に何かと衝突すること自体が命の危険に繋がる状況では、弾の威力など関係ない。


 エリザベス達はフォルトナーの霊体達の包囲を逃れようとする。本体はその場を動かず、霊体はエリザベス達を追いかける。その間にも本体からはエーテル魔術が放たれる。


「ハガル」


 それでもエリザベス達はフォルトナーの霊達に追いつかれず、エーテル砲撃も全て躱す。これはエリザベス達フォルトナー四姉妹より、エレンとミヨクの技術がとても優れているからだろうとエリザベスは考える。


 霊体の実体化と解除の切り替えが早い。昼間の訓練の時もそうだったが、今ではさらに早くなったように感じる。エリザベスは配置の都合上、実体化を解除されることは少ないが、マーガレットとマチルダの様子を見ていると分かる。特訓の成果がしっかりと出ているようだ。


 ミヨクに関しても、元から高等部の学生とは思えない程の高度な技術の持ち主だが、最近ではその能力がさらに高まった、とエリザベスは評価している。自分もエーテル属性の魔術師だったのでその魔術の制御が難しいことを知っている。


 エーテル魔術で推進力を得る技術は砲撃魔術の応用と言えるだろう。砲撃で正確に対象を狙うだけでも簡単なことではない。飛行魔術の場合、エーテル魔術の魔術を放つ方向だけでなく、その強弱まで精密に調整しなければならない。高等部で学生のレベルを完全に超えていることはエリザベスでも分かる。


 しかし、エレンとミヨクの卓越した魔術をもってしても、今のところフォルトナーの攻撃をやり過ごすことで精いっぱいだ。


「お兄様。そろそろ攻撃に転じないと」

「分かってるけど。これ、昼間よりやばくないか」


 ミヨクの言う通りだとエリザベスも思う。フォルトナーの霊体の数は少なくなっている。その分、霊体とリリーの繋がりが強くなったのだろう。霊体との繋がりが強ければ、それだけ霊体の能力が発揮される。


 さらにフォルトナーの霊体は実体化を解いてエリザベス達を追っている。その間は霊体の移動が非常に速いので、エリザベス達はどうしても彼女達の接近を許してしまう。そしてフォルトナーの霊体は実体化してからエリザベス達に襲い掛かる。


「Fünf」


 ただし霊体が実体化すれば物質世界の法則に縛られるので移動が遅くなる。その隙にミヨクがエーテル魔術で加速してフォルトナーの霊体を躱していく。

 しかしそれでも一人の霊体がエリザベスに触れる。


「させない」


 エレンが叫ぶ。霊体がエリザベスに触れる前にエレンは彼女との繋がりをより強固にした。こうすれば物理的な攻撃も霊媒としての干渉も同時に防ぐことができる。とはいえこの防衛手段はエレンのミディウムを多く消費するはずだ。何回もできることではないだろう。


 それでもエリザベスはエレンとの繋がりに絶対的な信頼を寄せている。湖の上に来る前に、エレンが魔術によって自身のミディウムをたくさん貯蔵していたということもあるが、それだけではないと感じる。


 もはやエレンとエリザベス達フォルトナー四姉妹を繋げるのは霊媒と霊体の関係だけではない。彼女達は家族であり、互いに手を離さないと誓っている。ミディウムという半物質よりも不確かで目には見えないものだが、エリザベスは信じている。エレンとの信頼があれば、決してエレンから引き離されることはない。


 守りに関してはエリザベスにも不安はない。しかし攻めに困っている状況である。エレンがこんなことを言う。


「まずは周りの霊体をどうにかしましょう」


 現在、フォルトナーの本体とは別に三人の霊体がエリザベス達を攻撃している。その内の一人でも無力化することができれば、形勢が逆転するはずだ。


 ミヨクもエレンの考えに同意しているようだ。


「なら、もっとスピードを出すぜ。Fünf, Zwei」


 そう言ってミヨクはエーテルの噴射をさらに強くした。一旦、フォルトナーの霊体を振り切る。そして速度を落としながらエレンとミヨクはアーミラリステッキから降りた。フォルトナー四姉妹が二人の身体を浮かせる。


 三人の霊体はすぐに追いつき、実体化する。その瞬間にミヨクが唱えた。


「Sieben, Acht, Sieben」


 ミヨクが魔術を放つ。直接ダメージを与えるための砲撃ではない。相手を吹き飛ばすための衝撃波だ。三人の霊体が散らばっていく。


「行くぞ」

「ええ。みんな」


 エレンとミヨクが再びアーミラリステッキにまたがる。そして最も仲間と離れた位置に飛ばされた霊体に狙いを定めた。


 その時にエレンは四姉妹全員の実体化を一度解除して、飛行の配置につかせた上で実体化させた。これを落下することなく一瞬でやってのける。エレンの技術の高さが明確に見て取れた瞬間だ。フォルトナー四姉妹を連れているだけではない。エレンの魔術師及び霊媒としての成長が凄まじい。


 エリザベスはエレンの成長を嬉しく思うし、同時に寂しく思う。もう自分達フォルトナー四姉妹がいなくなっても、エレンは魔術師として立派に生きていくことが分かるからだ。


 とはいえずっとエレンの傍にいたいと駄々をこねるつもりはエリザベスにはない。むしろエリザベス達は霊界に行くことを目指さなければならない。それでも物質世界にいる間は、全身全霊を尽くして主人であるエレンを助けることを心に決めている。


 エリザベス達はフォルトナーの霊体に接近する。その最中、エレンはこう叫ぶ。


「あれをやるわ。ベス」


 エレンがエリザベスを呼ぶと、アーミラリステッキの上に立った。エリザベスはすかさずエレンの身体をしっかりと支える。そしてエレンは孤立した霊体に向かって手を伸ばす。


 ミヨクは移動中にエーテル魔術による砲撃を放つことができない。飛行するための魔術の制御に集中しなければならないからだ。しかしエレンは移動中でも魔術を行使することができる。


 とはいえ相手に直接攻撃するような魔術をエレンは得意としていない。ただし攻撃対象が霊体ならば話は別である。

 エレンは詠唱する。


「Neun」


 魔法陣が展開されて、光の糸のようなものが射出された。それがフォルトナーの霊体に命中する。


 するとその霊体の実体化が一瞬で解除された。仲間の霊体を一人消されて驚いたのか、フォルトナーの本体が声を上げる。


「貴様。何をした?」


 対するエレンは相手をあざけるように微笑ほほえむ。


「何って……あなたがこの子達にしようとしていることを同じよ」


 エレンがそう言っている間に、エリザベス達は上昇して二人の霊体の上を取る。そして再びエレンが魔術を放った。


「Neun」


 今度は魔法陣から二本の光線が発射され、それぞれがフォルトナーの霊体に向かう。片方の霊体は物理的に移動してそれを回避した。もう片方の霊体は実体化を解いて光線から逃れようとする。


「それは悪手よ」


 エレンがそう呟く。彼女の言う通り、霊体の実体化の有無は関係なく、エレンの魔術攻撃は命中して、以後その霊体は現れなくなった。


「なるほど、そういうことか。戻れ」


 フォルトナーの本体に言われて、一人の霊体が彼女の元に戻った。どうやらエレンの魔術の正体に気付いたようだ。


 エレンの魔術属性はミディウムである。普通は自分の中にミディウムを貯蔵するために行使するものだ。だからと言って外に放出することができないわけではない。ただ生きている人間に使ったところで効果は薄い。今まで行使する機会がほとんどなかっただけだろう。エリザベスもこのエレンの魔術を見たことは今を除けば、彼女が魔術の訓練している時しかない。


 エリザベス達は停止する。そして正面からフォルトナーと向き合った。フォルトナーが怒った様子でこんなことを言う。


「貴様……。私を返せ」

「彼女達はあなたではない。だから返さない」


 エレンの奥の手とはこのことだった。エレンがミディウム魔術をフォルトナーの霊体に当て、彼女の制御を奪ったのだ。つまり霊体と繋がった。繋がった後は何をするわけでもない。ただ大人しくしてもらうだけだ。


 エレンが宣言する。エリザベスとしても少し肝が冷えるような言葉だ。


「悪い子にお説教の時間ね。黙って私の言うことを聞きなさい」

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