第3章 Living Dead Sisters(4)
エリザベスは思い出す。
あの日、エリザベス達四姉妹は何も変わらない日常を送っていたと思っていたが、実際は世界の何もかもが変わっていた。
あの日から、エリザベス達は何も変わらない日常のようなものを繰り返していた。
いつものように遊び、
いつものように魔術に励み、
いつものように眠った。
あの日からいくらか年月が経った後、エリザベスは気付いた。この家には自分達四人しかいない。ずっと前から気付いていたのかもしれないが、特に気に留めていなかった。そしてそれ以上気にすることはなかった。きっとこんな思考のやり取りも際限なく繰り返されたのだろう。
いつものように遊び、
いつものように魔術に励み、
いつものように眠った。
死んでいることなど夢にも思わず、生きている夢から覚めなかった。
いつものように遊び、
いつものように魔術に励み、
いつものように眠った。
フローラに発見されてようやく、エリザベス達は自分達の死を知ることになる。それから自分達が死んだ経緯をフローラに教えてもらった。
フォルトナー家の惨劇。
フォルトナー家の少女であるエリザベス、メアリ、マーガレット、マチルダの四人が、魔術の訓練中に死亡した事件だ。表向きでは、その死亡のみが惨劇だと扱われている。しかしエリザベスは違うと思う。
惨劇は続いていた。エリザベス達が世界を見失い、生きることも死ぬこともできなかった。エリザベス達にとってはあの時間も間違いなく惨劇であった。
いや、惨劇は今でも続いていると言っても過言ではないだろう。フローラに救われてからはフローラと、今はエレン達と一緒にいて、霊体として物質世界で生活しているが、エリザベス達は本来ならば霊界に行かなければならない。だからエリザベス達が自分達の肉体の死を見つけて霊界に旅立つまでは、彼女達の惨劇は終わっていないのかもしれない。
さらに残酷な事実を、エリザベス達は知らされることになる。エリザベス達が霊体としての認識を持ってから数日後、フローラがフォルトナー家の惨劇の内容に加えて彼女達に説明した。
「フォルトナー家の惨劇は、けっして不慮の事故なんかじゃないわ。フォルトナー家によって、あなた達が死亡するように仕組まれていたのよ。フォルトナー実験っていう人体実験のためにね」
エリザベス達は何らかの魔術によって、肉体と魂を繋ぐエーテルを放出して、肉体と魂の繋がりを保てなくなり死亡した。その状況は、エリザベスよりも上の代のフォルトナー家が意図的に作り出したものだったとのことだ。
つまりフォルトナー家は自分のエーテルを放出する方法を知っていたということだ。オリバーは婿であるからか、フォルトナー家からその詳細を教わっていないらしい。悪魔のような実験がエレンに引き継がれなかったのは良いことだが、これでは現在でも実験の被害に遭っている者を助けることはできない。
それにフローラにもエーテル欠乏症の兆候が見られた。オリバーはフォルトナー実験に加担していないはずだが、彼の知らないところでフローラは実験の被験者にされていたのだろう。
それでもフローラはフォルトナー実験と自分の関連についてこのように語っていた。
「私は実験と思われるようなことをされた覚えはないの。小さい頃にされたのならさすがに分からないけど、そもそもその頃に魔術は使えないだろうし……。魔術を習い始めた歳からは、魔術の修行で酷いことをされた覚えはないわね。ただ……」
エリザベス達もフローラと同じだ。フォルトナー実験の被験者であるはずのだが、あからさまに実験と思われるような出来事について心当たりがない。しかし違和感を覚えるようなことは確かにあった。
フローラもそのことについて語っていた。
「私の適正属性は、エリザベス達と同じエーテルだった。だから、エーテル魔術を教わり、修練に励んだわ。それ自体はおかしくないのだけど。そのエーテル魔術が独特のものだったらしいの。学園でエーテル属性の先生や生徒は、私のエーテル魔術の魔法陣を見て、そんな魔法陣は見たことないってよく言われたものだわ」
エリザベス達もフローラと同じだった。エーテル属性の魔術を学んだが、その魔術の魔法陣はフォルトナー家以外の魔術師には知られていないようなものだった。
エリザベス達も、フローラもみんな勘違いしていたのかもしれない。自分達はフォルトナー家の特殊な魔術を習得していないと思っていたが、実は知らない間に習得していたのではないだろうか。
たとえば、エリザベス達にエーテル魔術を習得させること自体がフォルトナー実験の一部だったのでないだろうか。
そしてそれは、リリーにも言えることなのかもしれない。
リリーは障壁魔術しか碌にできないと言っていたが、むしろその魔術さえ行使していれば十分だったのではないかとも考えられる。
魔術によってエーテルを放出してさえすれば――。
フォルトナー家の目的について、フローラはこんなことも語っていた。
「フォルトナー家は、その実験で高次の存在を作り出そうとしていたそうなの。それがどんなものなのか、私にも分からないけど、あなた達がそうなのかもしれない」
そう言われたが、エリザベス達には高次の存在になったという自覚はない。確かに超低振動霊という特殊な霊体である。霊媒の力を借りれば自由自在に空を飛ぶなど、生きた人間では不可能なこともできる。そういう意味では高次の存在になったと言えるかもしれない。
しかし特殊な霊体とはいえ、所詮は霊体だ。霊媒がいなければ物質世界に干渉することはできない。地縛霊よりは理性が残っているだけで、基本的な能力は他の人間霊とあまり変わらない。
ただしフローラが言っていたことも正しいのだろう。エリザベス達フォルトナー四姉妹はフォルトナー家が目指していた高次の存在だとする。ならば何をもって、高次の存在とするのかが問題だ。
魔術師としては、高次の存在であるかどうかの明確な指標は異世界の存在であるかどうかだろう。夜刀神のような神霊は霊体であるもの、物質世界の生物を超えた能力を持っている。エリザベスがエヴォーダーで見た吸血鬼は言うまでもないだろう。
その指標で判断するとエリザベス達は高次の存在ではない。しかし残酷な実験を行っていたフォルトナー家が、超低振動霊を作ることだけを目的としていたとは、エリザベスも思えない。その超低振動霊を利用して、高次の存在を作り上げると考えた方が自然だ。
エリザベスとしては、どうしても連想せざるをえないことが生じてしまう。
神霊に関しては、真守のような正義感の強い霊媒が使役すれば問題ないが、紅城神奈のような悪事を働く霊媒が使役することもある。虚空間内でしか顕現することができないような霊体なので、無術者への被害はほとんどないだろう。しかしもし虚空間の外で土蜘蛛のような霊体が顕現できるようになれば、神奈は間違いなく実行して、無術者を殺害するようになるだろう。
吸血鬼に関しては、一旦召喚されてしまえば虚空間の内外など関係なかった。もしエヴォーダーにソニアが来ていなければ、吸血鬼は無術者の世界に放たれて、殺戮の限りを尽くしただろう。
高次の存在を求めるということは、兵器を求めるということだ。それは魔術師も戦闘霊媒も変わらないだろう。つまりエリザベス達は兵器にされるところだったのだ。魔術師なので戦闘することがないとは言えないし、エレンでさえエリザベス達を戦闘に利用することがある。しかしフォルトナー家が考えていたことは次元が違うはずだ。かつての『吸血鬼の魔女』のように、無術者を殲滅するためだと考えても不思議ではない。
そしてエリザベス達だけではない。リリーも兵器として扱われていた可能性もある。エーテル欠乏症が治っていない以上、たとえフォルトナー家を離れたとしても兵器でなくなったとは言えないかもしれない。
フォルトナー家の惨劇はまだ終わっていない。やはりエリザベスはそう思わずにはいられなかった。




