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ホワイトウィッチトライアル  作者: 初芽 楽
第4巻 迷子の魂
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第3章 Living Dead Sisters(2)

 別荘での二日目の午前中、エリザベスはオリバーと真守まもりと一緒にリリーと話すことになった。エレンとミヨクは琴音ことねの指導の下で訓練している。フォルトナー四姉妹の内の三人も訓練に同行した。


 結局、昨日はリリーがずっとベッドにいて、食事もそこで取っていたので、真守まもりやミヨクとは会わなかったようだ。だからリリーと真守まもりはここで初対面となる。


 ただし一晩休んだことで疲れが取れたのか、リリーはベッドから出て、居間に来た。行儀良く椅子に座っている。


「はじめまして。私は久遠くおん真守まもりです。よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「私はミディアムなので、霊関係で悩みがあれば遠慮なく私に言ってくださいね」


 真守まもりはエレンやオリバーとは違って純粋なミディアムだ。心霊現象のことならばこの別荘にいる中で一番詳しいだろう。


 真守まもりの自己紹介が終わったところで、オリバーが話し始めた。


「今日は君に憑いている霊体のことで話を聞きたい。もちろん、話したくないことは話さなくていいし、少しでも気分が悪くなったらすぐに言うんだよ」

「分かりました」


 今日のリリーはとても落ち着いているように、エリザベスには見えた。いつ霊体がリリーに憑依してくるか分からない以上気を抜くことができないが、今のところはリリーとの面談に支障はないようだ。


「まず昨日のことを訊こうか。ここに来る前に倒れただろ。その時、霊体からの干渉はあったかい?」


 あの時はエリザベスの目から見ても、リリーから霊体が出て来ることはなかった。ミヨクに霊体の存在を訊かれて、「ない」と即答したことは間違いではなかったはずだ。

 しかしリリーは首を縦に振った。


「はい。なんとか表には出ませんでしたが、私に干渉してきました」


 実際にはリリーが気を失っていた時、霊体の干渉があったようだ。霊体のエリザベスですら霊体がいないように見えたということは、次のような仮説が考えられる。


 あまり考えたくないような説だ。リリーにとってはかなり危険な状況だと言っても過言ではないだろう。霊体の繋がりがかなり強くなっていて、リリーと霊体の魂の見分けがつかなかったということだ。


 ただの低振動霊がミディウムを通してミディアムと繋がっている場合、霊体と人間の魂を見分けることは簡単だ。霊体と肉体が紐で繋がっているようなイメージだ。


 しかしそれはあくまでミディアムと霊体を視ている、霊体と話しているなど、ミディアムと霊体が干渉しあっているだけの場合の話である。


 霊体がミディアムの心理霊媒現象を通じて憑依状態にある、つまり身体を乗っ取っている場合は話が違う。その場合は、ミディアムは本来の魂と同程度の強さで、霊体と繋がってしまう。ミディアムや霊体が人間の魂を視られないのと同じように、憑依状態にある霊体を視ることができない。せいぜい肉体と魂の繋がりをなんとなく感じられる程度だ。


 そしてリリーの憑依状態は常に続いているということだ。リリーの魂が霊体の干渉に耐えているだけの話だ。

 次にオリバーがこんな質問をする。


「その霊体は、君に何を言ってきたのかい?」


 リリーは当時のことを思い出したようで、怯えたように顔をひきつらせた。しかしその直後に首を横に振り、勇気を振り絞るように話し始める。


「その身体はフォルトナーのものだ。その身体をよこせ。そう言われました」


 エリザベスは不思議に思う。リリーに憑依している霊体が本当にフォルトナー家の者だったとして、どうしてフォルトナー家の魔術師の肉体を狙うのだろう。少なくともエリザベスも妹達もそんなことを考えたことはない。

 そこで真守まもりがこんなことを訊く。


「フォルトナーのものといったのですか? 私のものではなくて」


 言われてみれば不思議だ、とエリザベスは思った。


 低振動霊は基本的に自分自身のことしか考えることはできない。しかしリリーが憑依している霊体は自己の欲求ではなく、集団としての存続を主張している、とも解釈することができる。低振動霊としては珍しい。

 リリーはゆっくりと首肯してから答える。


「はい。私に干渉してくる時は必ずそう言います」


 リリーの答えを聞いて、真守まもりが納得したように頷いた。


「やはりリリーさんに憑いているのは、エーテル欠乏症で亡くなったフォルトナー家の魔術師で間違いなさそうですね」


 真守まもりの言う通りだとエリザベスも考える。霊界に行かずに、ミディアムに憑依していることだけならば他の死因も十分に考えられた。しかしフォルトナーと名乗り、低振動霊でありながらも家に拘っているかもしれないということを考慮すると、その霊体はフォルトナー実験の被害者であり、エーテル欠乏症で死亡した可能性が高いだろう。

 それから真守まもりはこんなことを言う。


「霊体をリリーさんから引き剝がすことならできると思いますけど、やめておいた方がいいですよね」


 真守まもりがミディアムとしては高い実力を持っていることならばエリザベスにも分かる。ミディウム、真守まもりの言う霊力がとてつもなく多い。そうでなければ、夜刀神やとのかみという神霊を継承することはできないだろう。



 その真守まもりならば、その気になればリリーに繋がっている霊体と強引に繋がり、霊体からリリーを解放することも可能だろう。しかし彼女も言っている通り、その手段は控えた方がいいだろう。

 オリバーが真守まもりの問いかけに答える。


「そうだな。リリーはおそらく、今のミヨクと似た状態だ。エーテル欠乏症によってできた肉体と魂の間の空きを、霊体との繋がりで埋めているのだろう。それを無理に引き剥がさない方がいい」


 そこでオリバーは言葉を止めた。リリーのことを気遣ったのだろう。しかしエリザベスもその続きは分かる。ここにいる全員が察しているだろう。


 エーテル欠乏症のリリーにとって霊体との繋がりを断つということは、自分の肉体と魂の繋がりに穴を開けてしまうことを意味する。霊体が憑依している現在でさえ気絶してしまうのだ。その上で霊体との繋がりをなくしてしまえば、命の危険すらあるだろう。


「なら……」

「あの……」


 真守まもりが何かを言おうとしたと同時に、リリーが声を出した。今にも消えてしまいそうなくらい儚く、それでいて心に響く悲しい声だった。


「私……、やっぱり死ぬのですか……?」


 リリーは泣き出してしまった。やはりオリバーの先程の言葉で、自分が立たされている窮地を連想させられたのだろう。しかしオリバーが悪いというわけではないとエリザベスは思う。オリバーは死ぬとまで言うつもりはなかったはずだ。おそらくリリーは元から死に対する不安を持っていたのだろう。エーテル欠乏症という奇病に侵され、治療法が見つからなければ無理もない話だ。


「リリー。落ち着くんだ。君が死ぬわけがないじゃないか。君の病気は必ず治す」


 オリバーがリリーをなだめる。そこへ真守まもりも続いた。


「そうですよ。霊体への対処方法もあります。だからそう悲観しないで……」

「いや……。私、死にたく……」


 リリーは顔を両手に顔を埋めて泣き続けている。オリバーと真守まもりの声はリリーには届いていないようだ。


 真守まもりが言おうとしていたことは、エリザベスには予想がついていた。霊体を引き離すことができなければ、霊体を離さないままリリーに掌握させればいい。真守まもりがいるのならばそう難しいことではないかもしれない。それができれば、今のミヨクのようにエーテル欠乏症の症状を抑えることができ、霊体に憑依される心配もなくなる。


 しかし今のリリーにはそんな理屈は通用しないだろう。彼女はとてつもない恐怖に苛まれている。その感情が理性を完全に上回っているようだ。


 そこでエリザベスがリリーの前に立った。思念でこんなことを伝える。


「死ぬは怖くないよ」


 そこでリリーの泣き声が止まった。まだ顔を隠しているが、エリザベスの言葉を受け取ろうとしてくれているようだ。


 いくら霊体だからといっても、相手が死後の世界の存在を知っているといっても、生きている人間に向かって死ぬのは怖くないと言うのは不謹慎だということくらいエリザベスも分かっている。

 ただ、エリザベスは知っているのだ。


「自分の世界が分からない方が怖いよ」


 エリザベス達フォルトナー四姉妹は経験した。死亡したが、自分が死亡したことに気付かず、生きていると勘違いしたまま物質世界を彷徨さまよい続けた。自分がいる世界が何か分からないまま自分がいるべき世界だと勘違いしていた。


 エリザベス達は死亡してからフローラに救われるまで、ずっと迷い続けていた。生の世界と死の世界の狭間でぐるぐる回っていた。


 そこには救いはなく、続きがなく、世界がなかった。


 リリーがエーテル欠乏症によって死亡してしまえば、その苦しみを味わうことになるかもしれない。たとえリリーが死亡することになってもそれだけはあってはならない、とエリザベスは強く思う。


「迷ったら、ついて来て」


 自分の想いはきっとリリーに伝わる。エリザベスには確信があった。もちろん死んでほしいと言っているわけではない。ただ単に生きていてほしいというわけでもない。


 自分達と同じように迷ってほしくないだけだ。そして、もし迷いそうになったら、エリザベスを道しるべにして自分の世界を見つけてほしい。


 エリザベスの想いはしっかり伝わったようで、リリーは涙を拭いて、笑顔を浮かべていた。


「ありがとう。エリザベス」


 それからリリーは真守まもりとオリバーの方へ向く。


「泣き出してしまってごめんなさい。私もうくよくよしません。エーテル欠乏症を治すために頑張ります」


 リリーが元気になったようでエリザベスは安心した。リリーの目つきが今までと違う。自分が置かれている状況に立ち向かう覚悟ができている目だ。もうエリザベスから何かを言う必要はなさそうだ。

 そこで真守まもりがこんなことを言い出した。


「なら、するべきことは一つですね」


 真守まもりが最後まで言う前にエリザベスは察した。それはリリーだけではなく、リリーに憑依している霊体も救うために行うことだ。


「今夜、リリーさんに憑いている霊体との交霊会を行いましょう」

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