ある死神の日記2
楽しんでいただけたら幸いです。
私は、人が呼ぶには死神というものです。
「死神」とはいっても、私がしているのはまもなく死を迎える命が、おや?ご存知でしたか。それは失礼致しました。
もしかしてあなた、過去に死神にお会いしたことが?
いえいえ、たまにいらっしゃるんですよ。
臨死体験、とでもいうのですか?まだ死んではいけないはずなのに躰から出てきてしまう命を、改めて躰に馴染むように戻すことも死神の仕事のひとつでして!
えぇ、そうなんです!でも躰に命が馴染むように戻すのはとても難しいことなので、専門的で特別な訓練と試験がありましてね?
それに合格した死神でなければならないのです。
私は残念ながらまだ訓練すら受けさせてもらえていない新米死神でして…。
そういうわけなので、今回はただの道案内なのです。
え?チェンジ?
まだやりたいことが?
残念ですけど無理なんですよ。だってほら、見てください。あなたの躰はあんなにぺっちゃんこなんですよ?
たとえ師範レベルの先輩にチェンジしたところで匙投げられて道案内されるだけで、って待って!待ってくださいよセミさん!
そっちは方角的に真逆です!ちょっと!
「なにしてんだぁ?新米ぃ。逃げられてんじゃねーの。」
あ!先輩!捕まえてくださったんですね!
「ぁあ?抵抗するなら鎌で刈り取りゃ地獄門送りにできるだろが」
えぇ?!でもそれだと…救いないですよ?つらいですよ?かわいそーですよ?ただでさえ理不尽に潰されてるのに…。
「素直についてくるってんならまだ今ならまだ案内してやるってよ?ったくコイツは甘々だな?俺なら逃げようとした時点で地獄門に送ってやってるがな?どーすんだ?セミさんよ。」
わぁ!来てくださるんですか!ありがとうございます!さぁ行きましょう行きましょう!
先輩ありがとうございますー!
「おぅよ。しっかりやれよ新米ぃ!それと、セミ、コイツぁ死神の中では当たりだぞ。なんと過去25万9千184件担当していながら未だ刈り取り率ゼロだ。ありがたく思え?そのスタイルがいつまで続くかわかったもんじゃねーがな。おっともう担当のとこにいかにゃならん。じゃあな新米ぃ。」
先輩……はい!ありがとうございます!お気をつけてー!私頑張りますーー!
では気を取り直してセミさん。道中でお話でもどうですか?
え?私がホントに新米なのか?ええ。間違いなく新米ですね。50万件以上担当してようやく蘇生講習を…あぁ、先ほど言った特別な訓練のことですけど、それが受けられるようになるのです!
私の名前ですか?死神に名前は…あぁでも先ほどの先輩は確かオル…?まぁ今度お会いしたらもう一度聞いてみましょう。
私の名前…考えたことなかったですけど、人の時の名前は…あれ?…えーとぉ…すみません、思い出せません。なんだったかなぁ…
そういえばセミさんは名前のことをどこで知ったんですか?
えっ!蛹から羽化するときに死にかけたんですか?!あぁなるほど!それで死神をご存知で!
その時に傍に優しい人間が?その人間に名前を貰ったんですか?ミンゼ!いい名前じゃないですか!
それで?そのまま、その人間と暮らそうとは思わなかったんですか?
あぁ、樹がなくてごはんが…そうですか。それは残念でしたねぇ。
それでごはんを探しに出て…そうですか。
ごはんを食べたら呼ばれてる気がして?
飛んでみたら何かにぶつかった後、そのまま轢かれて潰されてしまった…と。
いやぁ……痛そう、つらい、哀しい。
あ、目的地が見えてきましたよ!虹の橋です。
つらい記憶もここまでですよ!次の生ではきっともっと良いことがあります!
いえいえどういたしまして!ではまた!!
新たな命の旅へ楽しんでいってらっしゃいませー。
それにしても、名前…名前ねぇ…。
まぁまた今度考えるとしますか!
さーて。次の私の担当はどんな命でしょうかねぇ。
読んでいただきありがとうございます。