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1 空を泳ぐ練習


 突然ですが。私、鈴谷すずたに愛花まなかは今日…………魔法少女になりました!


「のうわぁぁぁぁ!」


 ビルの谷間を落ちていく。逆さまに。


「大丈夫。ほら。体をひねって空中を蹴るイメージで」


 黒い猫ちゃんの皮を被った悪魔……もとい謎のマスコットサポーター『クロイの』が私の横で何かアドバイスをしているみたいだけど、それどころではない。


 空中でもがいた。


 途端に少しだけど落ちるスピードが緩まった感覚があった。足をもっとバタつかせてみる。少し上昇した気がする。バタバタしている内に体勢を戻す事ができた。


「おっ! 慣れてきたね」


 クロイのが褒めてくれた。でも、コツを掴めてきたのは彼のアドバイスのおかげではない。無我夢中で修得するしかなかっただけ。


 クロイのは見た目は凄くプリティーなのに、私が魔法少女に変身した直後「よっし! まずは基本! 移動の為の練習だ!」とか言ってビルの屋上から突き落としてきた。殺人未遂だ。魔法少女になっていなかったら間違いなく死んでいた。


 ……そう。今の私は魔法少女なのだ。


 黒と濃いピンクを基調としたミニスカートのコスチューム。レースやリボンのあしらわれたヒラヒラフリフリおまけにネコミミとしっぽ付き。


 いや~~~~。さすがにこれは……。私ももう十七歳だし。こんな格好で街へ出たら犯罪でしょ。倒されるべき存在の方でしょ。太股が少し見えているし、お、お、お、お腹もスースーする……!


 凄く気になってしまい頻繁にお腹に手を当てておへそを隠す行動を取ってしまう。


 クロイのが私の側へ飛んで来て言った。


「大丈夫だよ。みんな見てないようで見てるよ。見苦しかったら注意してくれるよ。多分」


 何の慰めにもならない台詞を吐いて嘲笑ってくる。彼は悪の化身であると確信した。


「今日はこのくらいにしよう」


 クロイのが尻尾を一振りした。周囲の景色が変化した。どうやらさっきまでいたビルの屋上へ戻ったらしかった。


「じゃあ、また明日の夜ね」


「ちょっと待てい!」


 何の問題もなさそうに帰って行こうとするマスコットサポーターの首根っ子を捕まえた。大事な案件を確認する。


「まさかだけど。私をここに置き去りにして自分だけ帰ろうとしてる?」


「何を言ってるんだ君は?」


 黒猫の目が細まった。


「当たり前だろ? 今、空中での移動の仕方を教えたばかりじゃないか。これだから人間は……。はやく一人前の戦力になってもらわないといけないのに。その甘えが敵に通用すると思ったら大間違いだよ」


 浴びせられた回答はバイト先の意地悪な先輩を彷彿させる言い回しだった。クロイのは言い捨てた後、長い尻尾を二回振り姿を消した。


「クロイの? クロロン? クロ様? 悪魔ネコ?」


 返事がない。本当に先に帰ったようだ。


「えー……。本気でここから一人で帰れって?」


 ビルの手すりから下を眺めてゾッとする。恐らく階段への扉も施錠されているだろうし。何より人に見つかってこの姿を見られるのは万死に値する所業。社会的に死ぬ前に恥ずかしさで悶え死ぬだろう。


 ……行くしかないのか。


 震える肩を押さえながら手すりに足を掛けた。

 遠くまで続く町明かりに胸のすく気配を感じた。


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