メイドの君にまかせる
目が覚めたらうちのメイドが目の前にいた。
いつも通り黒のロングワンピースに肩からの白のエプロン姿。
仰向けに寝ている自分のお腹の上に彼女の衣服の重みがのっている。
いつも通り。首に彼女の両手が添えられていることを除けば。
彼女の顔は部屋の照明による逆光になっていて分かりづらいな。
「目を覚ましたんですね。痛いところはありませんか。」
部屋の明るさにも慣れ、体の感覚も戻ってきた。
寝ているのは絨毯の上、身体があるのはテレビをおいている広間。
「アタマがズキズキする。」
手で抑えたくなる衝動があったが思うように動かせない。
というか、手の感覚はなかった。ついでに足にもない。
頭を動かして確認したら、ちゃんと腕はそこにあるようだった。
「大丈夫ですよ。血が頭に少しついているみたいですけど。」
メイドの声はいつも通り優しい。
「何があったんだ。」
自分で言うなり倒れるときの記憶が蘇ってきた。
屋敷に入ってきた泥棒を見つけたときに頭を殴られたんだった。
目の前の光景に気を取られて後ろがおざなりだったのは不覚。
「安心してください。泥棒は私が排除しておきました。」
「助かる。何かなくなったりしたものは。」
「まだありません。安心してください。」
彼女の顔を確認したところ、胸のペンダントに気がついた。
昔プレゼントしたものだ。今では随分とくすんで黄金色からは遠ざかっている。
「今気がついたんですか。」
「ああ。彼女は元気なのか。」
「とっくに死にました。もう10年経ってますよ。」
「悪かったと思ってる。」
首への圧迫が強くなる。
彼女の丁寧に整えられている髪の先が自分の頬に触れてくすぐったい。
「母と一緒に追い出されて、行く場所もなく、ようやくたどり着いた寺で地獄の日々を過ごすことになった私達に対してそれだけですか。」
声を荒げることもなく涙することもなくただ圧が強くなる。
「そうだね。追い出すことでしか生存の道を開けなかったのを許してくれと言わない。」
「とっと地獄に落ちればよかったものを。」
「いつかこうなるとわかっていた。」
これは仕組まれた事件。
思えばこの子を雇うと決めたときからの運命の道だった。
「このあとどうなるかもわかってるわけ。」
「おまかせする。」
だんだん雑になっているのが伝わってくる。
回答が拍子抜けで苛立っているようだ。
「これだけは聞いておくわ。」
「何。」
「こうなるとわかっててなんで雇ったの。」
それはもちろん答えは一つだ。
「好きだった彼女にうりふたつの君を逃すわけないでしょ。」
「最、低。」
隠れた仏が消えたのを感じた。






