第一章9『帰宅』
彼女、トワは自分達のチームのことを『ワンオブザチルドレン』と確かに言っていた。一人の子供達とかそういう意味。
ラクが色々と考えている内にキャスが先に話だした。
「駄目かな?ラク。君はあの『バイター』をほとんど一人で一体を倒したんだろ。だから戦力的には全く申し分も無い話だし、今の俺たちのチームは現在たったの4人しかいないんだ。なあお願いだ、どうか、どうか頼む」
キャスは握手している右手の力を強めてくる。
「痛い、痛い、痛い、ちょっ…やめ、やめ…」
『バスッ』
「キャス、その辺にしなさい。ラクが痛がっているでしょ」
トワは立ち上がり、呆れかえった様子でキャスの頭に向けて一発チョップをした。
「ねえー痛いんだけど、わざわざ叩く必要なんてないじゃんか。それとも何?暴力女ですかー。暴力女は男からモテませんけどー」
キャスは右手で頭を覆って痛がっている。見たところ本当に痛いらしい。
「叩いたのはラクがかなり痛がっているのに止めなかったからじゃない。それに私は別にモテなくなんて…そう、オーパーツに生きるって決めたから別に良いんですー。」
「あーれ、また強がっちゃってww」
「う、うるさい!今はそんなこと話す時間じゃないでしょ。さっさとキャスも座って、ラクのことについて話し合うわよ」
「へい、へ~い」
そう言ってキャスが俺の隣の席に座った。ラクもそれに続いて同じように席に着く。
あ~ヤバい、なんかヤバい。今の話がチームに参加する方向に進んでいる。前回のバイターとの闘いはトワを助けたいっていう一心で戦っていたが、もうトワが助かっているから俺が戦う理由なんて特に無い。俺なんてただの…
「あのね、ラク、聞いて欲しいの」
先に話を切り出したのはトワの方からだった。上目遣いでその澄んだ瞳がこちらを見つめている。
「確かに私たちのチームは現在4人しかいなくて、かなりキツイ状況なの。それに今かなり大きな仕事を任されているからラクのような強い人が欲しいわ」
「そ、そうなのか。」
「でもラクが無理だっていうなら入らなくても全然構わないわ」
「本当に?」
ラクの体が前かがみになる。
「ええ勿論、どうしたいかはラクの自由よ」
―どうしよう。仮にチームに入ったりすれば次はもう無いぞ俺。いや、でも…
「ちょっと時間をもらっても良い?」
「ええ良いわよ。ねっキャスもそうでしょ」
「うんまあ朝までに、っていうなら別に良いと思うぞ」
キャスは後ろで手を組んで椅子をブラブラとしている。トワに言われたのが堪えたのか少ししょげているように見える。
「そうキャスも言ってることだし、そうね…明日の朝七時までにどうするか聞かせてね」
「….」
その無理に進めようとしない話し方は日本人の俺にはかなり刺さる。それと明日の朝までにとは時間がほとんど残っていない。ちゃんと決断しないといけないな。そう明日の朝…明日の…朝…
―あれっ?ちょっと待てよ、
「今何時だ?」
ラクは急いでポッケからスマホを取り出す。バイターと闘った時にスマホも壊れたと思っていたが幸運にもスマホは画面が割れてすらもいない。俺自身はあれだけ怪我してたっていうのに、この幸せものめ。
「えっと今?今は8時12分よ。」
トワは壁の上側を見た後、ラクがスマホで時間を確認するよりも先に今の時間を言ってくれた。
「ああ、ありがとう」
確かにスマホの画面にも8:12と載っている。だが今どうやって時間が分かったんだ?いやそんな事より今は8時12分だ。早く帰らないと妹にドヤされてしまう。妹が怒った時は鬼よりも鬼っぽい。取り敢えず明日もう一度ここに来よう。うん、それが良い。
「ねえラク、それ何?」
そう言ってトワは俺が右手に持っているスマホを指さす。
「ああこれ?スマホスマホ。」
「ス、マ、ホ、?」
「それについてはちょっと時間が無いんでまた今度で。あとすまんお二人とも。今日中に結論を出せなくて。必ず明日の朝7時までには戻ってきてどうするか話すんで。じゃあまた明日」
「あっ、ちょっとラクー!」
トワがそう言って机から身を乗り出す。ラクは席を立ってから右手を軽く上げ、その後左手で指パッチンをした。
『パチン』
最後にキャスが「これは面白い」と言っていたのが聞こえたと同時に、周囲の風景が全て変化した。
さっきこの世界に戻った時は夕焼けにすら無かった日が今はもう完全に沈みきり、変わりにラクの体を街灯が照らしている。足元の感覚はやはりコンクリート。空を見上げると無数の星空が広がっていた。
「ふうー帰って来たか…。」
空を見上げようと顔を上に上げていた間に一瞬見慣れた建物が目に入った。興味が星から建物にずれ、もう一度しっかりその建物を見る。タイル調の壁に正面に2枚のそこそこ大きな窓。そして2階正面にあるベランダに太陽光のついた屋根。極め付けに横の家の時期外れなイルミネーション。
―やっぱり俺の家だよな。
でも明らかにおかしい。何で家の前に出てきたのだろうか?出てくる場所があまりにも都合が良すぎる。いや、今はいい。早く帰らなければ。
そう思ってラクは家の方に足を向けた。
鍵をポッケから取り出し鍵を開ける。
『ガチャ』
「ただいま~」
「遅ーーい!!」
家の鍵を開けた矢先、妹がリビングからひょっこり顔を出して開口一番にそう言った。『倉井瑠奈』俺の妹はツヤのある綺麗な黒髪に大きな目。百人いれば八十人は可愛いと即答するであろう顔。同じ遺伝子を受け継いた俺と、一体どこで違いが生まれたんだ?
―…クッ
「お兄ちゃーん帰ってくるの遅くなーい。今何時だと思ってるの?」
「8時半前ぐらいだろ」
「まあそうなんだけどさ、遅いよー。」
「悪い悪いまあ色々あってな。」
「そう…ってかあれ、それ服どうしたの?めっちゃ汚れてるし、何か切られたような跡があるけど、どうしたん!?」
「いやそのさっきチャリで転んだんだよ。まあもう早く飯食おうな、飯、飯」
「はぁー分かった…。それと今日のご飯は私が作ったからあんまり期待しないでね…」
と言って視線をリビングの方に向ける。確か今日母さん『倉井愛香』はどこかへ出張に行っているはずだ。
「へいへい分かってるよ」
服の切り跡をチャリで怪我したと言って妹に誤魔化したが、よくよく考えたら無理があるな。それと俺のチャリはあの骨董屋の前に置きっぱになっているはずだ。明日取り行かないとな。
「…」
「あれ、お兄ちゃんどうしたん?早く行かないの?」
「うん?いやちょっと考え事しててな。」
ラクは手を左右に振って否定の仕草をする。
「そう…?なら良いんだけど」
ラクは靴を脱いでリビングに向かった。食卓には二人分の食事が並んでいる。皿に、綺麗な黄色のオムライスと付け合わせの千切りキャベツサラダが一つに乗せているものがあった。料理苦手とか言うけど普通に美味いんだよな。
「あれ?何で今日二人分なの?平日だから父さんがいないのは分かるけど。」
そう、俺の父『倉井誠一』は自衛隊だ。確か土日にしか帰れないとかだったハズ…。
「えっだってお母さん今日出張でいないじゃん。」
あーそういえばそうだった。母さん『倉井友美』は確かジャーナリストとかでいろいろ行かされているとかだったっけ。
「あっ、母さんの予定をちょっとド忘れしてたわ。母さん悪りー。」
ラクは天に手を合わせて、適当に感謝する。
「はいじゃあ手洗って来て。」
「うぃ」
そう妹に言われて洗面所に手を洗いに向かって、夕食を食べる準備を始めた。
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