第一章2 『思いがけない異世界』
「ほらぁ~何も起きな…」
「そこから右に跳べ――。」
どこからか声が聞こえたような気がした。
「ヴォ、ハ、ウォ、ヴォ、ヴォエ〰〰〰。」
正面からのどに詰まった物を吐き出すような気色の悪い音が聞こえたと同時に緑黄色の液を目にした。
アレは何なんだ…
目の前で起こっている状況に頭がついてこず呆然と立ち尽くしていて、今から自分に起こるであろう事を他人事のようにただ見ていた。
「危なーい!!」
その瞬間洛錬の体は声の主に抱かれるようにして何度も地面を回転し続け、やがて顔から大の字に岩を繋ぎ合わせて出来ている地面に突っ伏した。
どうした…誰かが俺を助けてくれたのか?何が何だか良く分からないがもう大丈夫なのか。いや、とにかくまずは体を起こさないとマズいな。それにここがどこなのか、何が起こってるのかまずは確認しないと。
助けてくれた人はどうやら既に立ち上がっており、その戦場には似合わないような青と黒を基調にしている一風変わった服を靡かせてかせている。
よし、俺も早く起き上がらないとな。
洛錬が突っ伏している体を起こそうと地面に手をかけ……
「そこの民間人大丈夫か?さあ、立ってくれ!」
と、白馬に乗った王子様が言いそうなセリフが、氷のように透き通った声色で洛錬の耳に響き渡った。
ゆっくり顔を上げて正面を見上げると、ヨーロッパの人のような白い肌。それに美しく艶のある水色の髪。そして、深淵を見つめているようなコバルトブルーの青い瞳をもった、高校生ぐらいの年で端正な顔をした程よく丸みを帯びているさながら天使のような女の人が俺のことを覗きこんでいた。
—ヤバい‼滅茶苦茶可愛い!!
洛錬が気を取られているうちに彼女は左手を突き出して洛錬の体を無理やり引き上げてくれた。
おっ、おっ、この子かなり力が強いな。
そう思いつつ周りを見渡すと辺りの地面は繋ぎ合わせて出来た岩で出来ており所々切れ目がある。ここら一帯には遮蔽物となるような物は一切なく、枯れ木しか育っていない科学文明の「か」の字もないような風景だった。
いや、人として周りの確認よりもまず先にお礼からだよな。
「助けて下さりありがとうございます。」
「礼には及ばん。それよりも気を張れ!!」
そう言って彼女は周囲を警戒しながらブラブラとしている自分の右肩を左手で押えている。そんな状態の右手で閉じ切った状態の『傘』みたいなものを、小学生が傘を振り回して遊ぶ時のように取っ手の部分を握っている。
その佇まいは文字通りアニメやゲームにいるような女騎士そのものだった。
が、右肩が大量に出血している。その部分の服と皮膚の表面が溶けていて肩の骨が見えかけている。
あれはどう見ても確実に命に関わる…よな?このままじゃ、このままじゃ絶対にまずい。何か俺にできることは無いのか?何か何か…
彼女は変わらず同じ方向を見続けている。
彼女の視線の先を見ると、30m程先に『ハエトリソウ』のような口を5つ(5つの口のうち4つの口は枝の先に口が付いていて1つは顔全体が口だけ)持っている化け物が佇んでいた。更に目を凝らすとカマキリの様な鎌を2本持ち、頭から5本の触手をムチのように操り続けている足を10本持った、口の部分だけが赤い全身黄緑色の3m弱ぐらいというのが確認できる。
おいおいおい、アレって明らかにヤバい奴だよな!?何といっても口の周りが真っ赤なんだけど….。えっ、何アレ?マジで何喰ったの?えっ、えっ、ああゆう植物って虫とかを食べるとかだよな。そうだよね、ね、頼む。頼むそうだと言ってくれ。
洛錬の心の声に答えるように、隣にいる彼女は口を開いた。
「良いか民間人、良く聞くんだ。あいつはな人間を喰らうのだ。だからここは君がいて良い場所じゃない。さあ今すぐ注意しながら逃げるんだ。急いで!」
「えっ、でもお姉さんの方こそ右肩が….」
「私の事などどうでも良い。アイツは先の戦いでは30人程いた先遣隊のほとんどを喰らい残るは隊長の私だけになってしまった。だからもう良いんだ。」
彼女の顔はやるせない気持ちから怒りと悲しみが混ざっている曇りがかった複雑な表情になってた。
「それと奴の周りを見てみろ何も残っていないだろ。それはだな奴は人間でも、鋼鉄でも関係なく噛み砕けるのだ。」
「そんな…嘘だろ!?」
洛錬は目を丸くして彼女の顔を二度見した。
「良いか、我々の業界では奴のことを『捕食草最食のバイター』呼び、恨みに思っている奴なのだ。それにあやつほど危険な奴は早々いないんだ。だから早く逃げるんだ!!」
目の前の彼女は鬼気迫った様子で洛連を諭そうとしていた。
『バイター』、つまり噛む者っていうことか。いや、どう考えても名前負けしているだろ!どっちかといえば喰らう者とかそういう名前だろ。ちょっと英語名は良く分らんけど。
目の前にいるバイターは5つもある歯を全て歯軋りさせ、こっちのほうを見つめている。
いや、目が無いから口めいているか…?そんな事より、奴を倒す方法を考えないと彼女が死んじまうぞ。
—何か、何か方法はないのか?
「あの、炎を放ったりはしないんですか?」
「それは意味がないな。奴の体の外部は何かで完全にコーティングされていて、普通の火だったり魔法の炎、それだけでなく他の魔法すらも喰らったりはしないのだ。」
「じゃあ、剣とかで切りながら進んで行くってのは?」
「どうやらそれも無理そうだ。今は右腕が使えなくなっていてな。怪我さえ無ければできるのだがな...。」
そんな、じゃあどうすればいいんだ?何か俺が突然覚醒して最上級の魔法を使えるようになって彼女を颯爽と助けるとかか?普通、異世界に行ったりしたらそんな風に特別な能力をもらったりするよな。だからそういう力を使って…それともアレか?深い傷を受けたりしたら覚醒とかか?
いや、そんな起こるかも分からない事を考えるのは無しだ。今は取り敢えず向こうにいる奴をどうするのか考えるのがさ………..
「ヴォ、ヴォ、ヴェーアーギャーー」
ここら一帯に響き渡る気色の悪い音が聞こえたと同時に頭の触手が一本忽然とこっちに向かって来た。
「正面、来るぞ!!」
『ドンッ』
彼女の溢れんばかりの大声が聞こえたと同時に体を押された感覚と地面から足が離れた感覚があって
から5m程後ろの地面に叩きつけられた。
—何が起こって……—
「ガハッ」
意識が追いついたと同時に体中に鞭で叩かれたような痛みが走った。
遠く向こうにいる奴はこっちを見てキシャキシャと嘲笑っている。
おいおいちょっと待て、俺と奴との距離は30mもあるんだぞ。それなのにこれほどの速度をこの距離から出せていいのか!?
洛錬は頭から地面に激突してしまったために額と歯からダラダラと血を流している。
ヤ、ヤベー、死ぬほど痛えーよ。普通異世界に行ったらこんなに苦労したりせず、何喰わぬ顔で俺TUEEをしたりするもんじゃないのか?それとこんな痛みなんてチャリで思いっきり転んだ時以来じゃねーか。でもどうやら致命傷とかじゃ無いみたいだな。ならまだ何とか……。
「次、来るぞ!」
そう声が聞こえた。植物の化け物は洛錬を突き刺そうと疾風の如く、鎌を飛ばしてきている。
クッ….ヤバい体が、体がまだ動きそうに無いぞ。あの子は俺を助けるためにこっちに向かって走って来てくれているのか?スゲー優しい子だな。でもあれは多分間に合いそうにないよな。はあー俺の人生はここまでってことか。クソったれ。
いや俺だけじゃない、今彼女は大怪我をしているんだろ。確か右肩を負傷していて剣?も振れない状態だったはずだ。あのままじゃアイツに敵わず死んじまうんじゃないか?何とかしてこの状況脱する手立ては無いのか。いやまずは枝を避け、何か能力、いや違う何か、何か、
—『何か』—
『何か』
—いやある、一つだけある。一つだけ持ってる!—
俺の左手にはまってるこの世界まで連れて来やがったこの忌々しい道具が。そうだ、この『指輪』を使えば元の世界にも戻れるんじゃないか?一方通行とかかもしれないが一か八かこれしかない。頼む飛んでくれ。頼む、頼む頼む頼む
—頼む!!!―
『バチン』
前回に引き続き読んでぐださった方ありがとうございます!!
☆☆☆☆☆に一つでも良いので色を付けて頂けると幸いです。
ブックマーク登録や感想を下さったら執筆の励みになります!是非よろしくお願いします。