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1章13話 『朝食はコーヒーと卵マヨネーズハムサンド』

1章13話 『朝食はコーヒーと卵マヨネーズハムサンド』

 

 『匂い』、臭いとも書き換えられるこの言葉。これを感じるためには嗅覚という力を使わなければならないことは言うまでもない。 

 そんな嗅覚について友達は『五感の中で最弱』と言っていたほどのものだ。

 だがそれに対し今は遺憾なく発揮されている。よく自分の家には匂いが付いているなどと言われているが今はその旨を一心に受けている。今自分自身がいる場所、立っている場所ですら良く分かった。


 瞬きをする。目をつぶって指パッチンをしたせいなのか、それとも電灯が目に入ったからか一瞬視界がぼやける。

 何回か瞬きを繰り返すと視界がクリアになり、今いる場所が自宅の玄関だと分かった。玄関には相も変わらず靴は妹の外出用のスニーカ―だけ置かれている。

 

—やはり、やはりこの場所に出るのか。疑念から確信に変わっていた現実と異世界の位置がリンクしているという考えはもうほぼ100パーセント正しいと言っても過言ではないだろう。



 靴を脱いで正しく並べた後、家に上がる。急がなければという気持ちが足を急かそうとする。すると体が動こうとするよりも先にリビングのドアが開いた。

その先からは「あ、お兄ちゃ~ん朝っぱらからどこ行って来たの?」

 と話す、ダボっとした白いTシャツを着た妹が出てきた。

「えーっと、そこのコンビニだよ」

「はい」

 妹はこっちに向けて右手を差し出す。

「はい?なんですかね~その右手は」

 これから言うであろう恐喝まがいの言葉を並べる妹に対抗するため、作り笑いをして他人行儀に話す。

「え、コンビニ行って来たんだよね。」

「へい」

「じゃあお土産」

 開いた手の平をもう一度ゆすっていて、妹自身に物を渡すように表している。

「すいません買ってきてないです…」

 腕を組んで首を傾げる。

「えー、今日家でゴロゴロするつもりだったから何か買ってきて欲しかったのに…普通何か買うでしょ」

「悪りー悪りー」

「じゃあ今度からはお菓子を20個ずつぐらい買ってきてね」

「いや多いわ!!!」

「え~」


「え~じゃないわ!ってか俺そろそろ行かないといけないから。じゃ!」

 右手を軽く上げてこの場から離れる意志を示した。

「あれ、またどっか行くの?」

「そ、そ、準備したらすぐにな」

「えっと朝はもう食べた?」

「まだ~」

「じゃ、ついでに何か作っておくね」

 『ついでに』の部分だけ強調して話す。なぜにわざわざそう話す必要があるのだろうか…とも思ったが、もうそんな年かと心の中で納得した部分があるため、これ以上は何も話すまいと決めた。


「サンクス~」

 ひと段落した妹の会話に一旦区切りを付け、妹の横を通ってリビングに向かい、そのままの足で階段を駆け上った。


 まず始めに見えるのは、もう何度も見た部屋達。

 そんな目の前に見える部屋達は、左から両親の部屋、妹の部屋、曲がって俺の部屋、更に曲がってトイレという順になっている。


 足を自分の部屋に向かわせ、その扉を開けた。

 部屋にはベッドに勉強机、多くの漫画とライトノベル、フィギュアが並んでいる。陰キャでアニオタである人ならどこにでもありそうな部屋。だからこそラクの頭を抱えさせていた。


「さぁ~て、どうしようか」

 部屋をグルリと見渡しても目的のものが存在しない。目的の物というのはそう、『何か危ない物』だ。昨日のバイターと戦った際はトワが『サイコロ爆弾』なる物を貸してくれて、そのおかげで何とかマシな戦いになった。

 確かに今日も何かを貸してくれるかもしれない。だがそれだけでは何か心許なく思う自分がある。それに使い慣れていない向こうの道具よりこっちにある道具の方が工夫次第では闘いやすい可能性だってある。よってラクは何かこっちの世界からあっちの世界に何か持っていく必要があるな…と結論づけていた。

 

 だが何度見渡しても『何か危ない物』は見当たらない。そりゃそうだ骨董屋のおっさんの所でも探したがそれらしい物は見受けられなかった。ならば自宅だったら尚の事その通りだろう。

 仕方がないので取り敢えず遊びに行く時と同じようにボディバックに『スマホ』と『モバイルバッテリー』に『充電コ―ド』を放り込んだ。

 一瞬固い物の代表としてリコーダーでも持っていこうかとも思ったが、流石に効力がなさそうだったので止めるべきという考えに至った。他に何か有用的なものが浮かびそうにない。

 

このままでは埒が明かないと思い仕方がなく今バックに詰めたばかりのスマホを取り出す。

全体は6×14平方センチメートル。色は勿論黒色。日本での普及率は驚異の94%。俺が手帳型のケースに入れているコレは言わずと知れた人間の全知能を詰め込んだ夢のような機械だ。

電源ボタンに指をかけると、時計が移されていた画面からいくつものアプリが並んだ画面へと瞬時に切り替わる。

他の画面に切り替えるまでもなく、目的のアプリが『Q』というアイコンの状態で画面に写っていた。

『qooqle』と呼ばれているこの検索サイト。困った時はこの『qooqle先生』に頼れば万事解決すると巷では言われているらしい。

 『Q』のアイコンをタップし画面を開く。アプリが立ち上がるや、ラクは時を移さず

『異世界に持っていくべきもの』

と検索をかけた。

 

数秒と経たずに画面が更新される。

最初に写っている画面には似たような話題が上げられており、同じ考えを持った人がいると分かる。と思ったが、よくよく見てみると俺が期待していた内容とは少し異なるものだった。質問には『異世界に行くときは結局何の能力が良いん?』と書かれていた。


求めていた内容と異なり少しばかりしょんぼりとした気持ちになる。

スクロールをして下に下っていくがやはり自分のような考えを持っている人がいない。それもそのはず、普通に考えて異世界に行くなんてあり得ない話。今俺が置かれている状況は人に話せば頭がおかしいと笑われ、病院にいくことを進められることになるだろう。それに、誰かに指輪を付けてもらって向こうの世界に跳んでいってもらってもそれこそトワ達にとって迷惑極まりない話だ。






「….どうしよ」

ボソッとため息に近い言葉を漏らす。だが、『ブーーン』『ブ、ブーーン』漏らした声は外を走る何台かの車の爆音によってすぐにかき消された。

「は~またか」

部屋にある時計の方に顔を移すと長針は文字盤の『12』の所に差し掛かっていて、短針は『8』を指している。


頭の中で合点した。そう隣人の出勤時間なのだろう。普段から我が宅の正面の家の人は高そうな車のエンジンをこれ見よがしに吹かしながら会社に向かっている。流石は修羅の街….と以前は思っていたが、朝だけだと割り切ってそれ以上は考えまいと決めたものだ。

現在大人世代の男性にとって車は『漢のロマン』と言われている。洛錬自身も『車』に興味がないわけではない。洋画で渋いおっさんが乗りこなしている姿に羨望を憶えることすらあるのだ。

「ただなーもう少し静かにしていてくれたらな~。それか、人がいない、例えば山道とかで車を吹かしてくれたら良いんだけどな~」

ラクの悲痛な声が漏れる。

そもそも『車』の使用目的は移動手段だ…と我に返ったような考えが浮かぶ。

―そう『車』なんてただの、ただの…

「うん?いや、うん?えーちょっと待てよ…」

 思考を巡らせて頭がオーバーヒートのようなものを起こし数秒時間が経過する。

―ハッ!!!!

「そうだ『車』でも持って行けば良いんじゃないか!?そうだ!うん、そうだとも。車だったらあんな化け物達とも対等に渡り合えるよな!?だろ、そうだよな!?」

 頭の中にあるモノを整理するためかラクは自問自答をする。

 謎解きに成功した時のような高揚感から、手を広げ演説するときのジェスチャーをしつつ、思わず一人部屋で声を張り上げていた。目もいつもより数段輝いていて口角も上がっている。

 端から見れば頭がおかしい人の行動に感じ取られる仕草そのものだった。


―ふぅー、はぁー

 胸の高まりが収まりそうにないが、妹に怒られる可能性に危惧して、一度深呼吸をして落ち着きを取り戻すのに注力した。


(でも…多分あんな危険な怪物が他にもいたとしても車だったら行けるよな。SNSでも度々交通事故のことが話題になっている程だしな。そう、車なら行ける…いける…いけ…)




「あっ」

 ある程度冷静を取り戻した瞬間頭が回るようになり、あることに気付き思わず声が出てしまった。

この作戦にも満たない、言わば願望に近しいものには圧倒的に穴があることに気付いたのだ。

それは洛錬自身今春から高校2年生になろうとしているただの16歳であり勿論原付の免許証すらも持ち合わせていない。

更に両親はどちらとも仕事に行っているのでそもそも乗れる車自体が無いということだ。

勿論ラクにとって車を手に入れる方法が無いなんてことはないだろう。手段さえ選ばなければ。だがそんなことをする選択肢はラクの頭の中には無い。罪を犯すようなことも勿論もっての外だ。それは免許証に関する問題についても同様である。

 

 


だがそうは言っても正直他の案が何も浮かばない。頭の中は空虚なままで、最近聞いた音楽がリピートするぐらいだ。

(南の島に見えるこの場所、照り付け太陽、差し込む光、輝く星は足を照らしている。この場所に来たのはいつだろうか。この場所に現れ、海を見て絶望にふけった…….)


20年ほど前のこの曲、多少アンティーク感のあるこの曲だが、曲の雰囲気と歌詞から有名な卒業ソングとして根付いている。俺もたった一か月ほど前、先輩である3年生達に向けてこの曲を歌ったばかりだ。

タイトル名は確か

「『無人島讃歌』」



―ハッ


 今度こそは良い案を思いつけたと心の中でガッツポーズをとる。

 良い案、何を隠そうそれは先に検索した言葉のうち『異世界』の部分を『無人島』に変えるというものだ。

すぐさま行動に起こすべきだと思い、スマホで『無人島に持って行くべきもの』と調べる。

すると画面が瞬時に更新され、画面に『無人島に持って行くべき物ランキング』が映しだされた。映し出された画面に藁にも縋る思いで喰いつく。

スマホの方に視線を見下ろすと


一位スマホ、二位ライター・マッチ、三位ナイフ

 

と書かれていた。

スマホは現在左手に握り込んでいる。ナイフは…まあ良い後はライターだろう。

 ライターなら確か父さんが持っていたハズ…と思いスマホの電源を切り、バックに入れ直し、自分の部屋を出た。


 父親の部屋のドアノブに手をかけ、押し入る。日が入りやすい南向きのラクの部屋とは逆に、北向きにある父親の部屋は暗い。内装も位置に似合った部屋でいて、茶色を基調としたレイアウトの中、灰色のパソコンが一つと本が一杯入った本棚が二つ、観葉植物に乱雑に置かれた布団がそこにはあった。殺風景ではあるがオシャレに思える部屋。趣味全開な俺の部屋とは大違いだ。

 軽く一度礼をしてから部屋の中に入った。

 

 

『倉井裕一』俺の父親である彼は普段煙草を吸っている。所謂『スモーカー』だ。平日は多分吸っていないだろうが、休日は「コンビニに行ってくる」と言ってちょくちょく吸いに行っている。だからこそライターぐらいは引き出しの中に入っているはずだ。勝手に開けるのもアレだと思うがこの際父さんの物ならまあ良いだろう。

 そんなことを考えつつ、ラクは少しの罪悪感を覚えながら引き出しの引手に手を掛けた。


 引き出しの中には何かの紙やいくつもの写真、そして目的のライターも一緒に入っていた。ライターはある程度大きく、多分ジッポライターと呼ばれるものだろう。俺達のことを考慮してからだろうか、引き出しの中にはタバコ自体はどこにも見受けられない。

写真とかと一緒にライターを入れておくのは流石に危険だろ…とも思うが今は気にしないことにした。心の中で父親に対し『借ります』と言ってライターに会釈し、バックの中に詰め込んだ。


「…ってあれ?」

閉めようとする前、引き出しの中を覗き込むとあることに気付いた。


一枚の写真だ。一枚の写真の端がライターの下に置かれていて、他の部分が乱雑に置かれた写真達によって隠されている。

不思議な好奇心に駆られその写真を手にした。写真に目を移すと太陽がさんさんと降り注いでいると思われる景色の中、見知らぬ若い男女が恋人繋ぎをして噴水の前に立っている。夏に撮ったのだろうか男の方は紺色のポロシャツにベージュのチノパンを履いている。女の方は空いている方の手でピースをしており、眩しい笑顔に似合う白いワンピーズを着ていた。

両親の若かりし頃の写真だろうか。確かにそれらしい面影がある。でもそれ以上にどこかで見受けられた雰囲気があった。

 絶対いつか問い詰めてやろうと心に決め、そっと元の位置に戻す。

その後今度こそ引き出しを閉め、部屋を後にした。





『ドスン』『ドスン』

階段を下りて、リビングの方に向かう。

「あ、お兄ちゃん早く来てー」

足音に反応したのか下の方から妹の声が聞こえる。

「ご飯できたから~!!」

と、急かす声も追加で聞こえてきた。


一階に足を着くと途端に良い焦げ臭さが鼻の中を刺激する。香ばしい匂いは昨日貰ったパンより絶対美味しいものだと意識させてくる。


「お、あれか」

「別にあれでも良いでしょ、ってかこれ作るのも結構手間なんだけど!」

キッチンにいる妹から不服そうな声が飛んでくる。

流し場は階段の下らへんからよく見えるのでそのムカッとしている姿が確認できた。

エプロンを着たりはしていないが菜箸を持っているその姿は主婦そのもの。だが寝間着そのままの服に無頓着な姿は兄としては将来が心配そのものでしかない。

「いや悪いなんて一言も言ってねーよ。むしろ胃に何か入れたかったところだし」

「えーほんとに~」

「本当に本当だってw」

「えー」

「まあそんなことより早く食べようぜ」

「っつ…分かった~」

 悔しそうな顔。話し合いを諦めたのかそれ以上話そうとせずに頬を膨れあげさせたまま淡々と手を動かしていた。


 妹に対してあんまり刺激するのもあれだったので、これ以上は刺激しないよう大人しく食卓の席に座る。次に何をするべきか物思いに耽っていると、突然見慣れたパンが視界を独占した。


「はいお兄ちゃん」

「お、おうありがとう、いただきます」

 手でも頂きます、の形をしてパンの方に再び視線を戻す。

白い皿の上に無造作に置かれている2枚のパンを使って作られたパンサンド。文字通り小麦色になっている裏面がパンであることを際立たせる。正面からはそれ以上に情報を得ることはできない。だが妹がいつも作るパンサンドなら…と思ってそっとパンを開く。中にある半熟の スクランブルエッグは金色に煌めいており、光が反射することでその美味しさを助長させている。横に並ぶハムは存在感をさらけ出しており、香ばしい匂いがすんなりと伝わってくる。そしてそれらをまとめるために、白い悪魔『マヨネーズ』が十分に掛けられており、アクセントとして黒胡椒が散らばっていた。

先から『あれ』と言われているこの料理は通称『卵マヨネーズハムサンド』、妹の得意料理だ。


早速食べようと試みるが、妹が横目でこっちを見てくる。視線が少し怖い。だがラクは見つめられていることに見て見ぬふりをしてパンを口元まで運んだ。


—おっ


「美味!」

その美味さから思わず声が出てしまった。もう何回も食わされてきたが今まで以上に味が仕上がっている。喉を鳴らす美味しさが食べ進める口を制御できない。


 自分としては淡々と食べ進んでいたつもりだったが、呟くような声はどうやら妹の耳には入っていたらしい。その口元には勝ち誇ったような微笑が浮かんでいる。

「どう、美味しかったでしょ!」

「お、おう、今回のやつ特に美味いな!!」

「でしょでしょ」

「どうしたん?作り方でも変えたん?」

「ちーがーうー、私の能力が向上し、た、のーーー!!!」

 妹の少々気迫に満ちた声。でもこんな雰囲気の会話にどこか既視感を覚えた。

「あー悪い悪い、じゃあスゲー上達したな」

「本当に?」

「ほんとほんと」

「そ、うん、ありがと…………………そんなんじゃ調子狂う」

 最近の会話からは似つかわしくない、妹からの感謝の言葉が投げられる。後に続く言葉は妹が口をもがもがしていたせいだろうか、ラクの耳の中には入ってこなかった。

「うん、今なんて?」

「何でもない…」

と言ってそっぽを向く。

何だやはり反抗期にでも入っているのだろうか。以前は確か『おにぃ』と呼んでくれていたはずだ。それが知らない内に変わってきている。やはり何か物寂しいものだと感じる心があった。


「あ、お兄ちゃん珈琲淹れてきて~」

「へいへ~い」

 妹の言葉に従い、席を立ちキッチンの方に向かう。我が家にある珈琲メーカーは今日もその腕を俺達に対して振るってくれるようだ。

「ホットー?アイスー?」

「アイスーー」

「牛乳はー?」

「いらなーい」

「ほ~い」


ラクは手際よく冷蔵庫から氷を取り出し、コップにいれ珈琲メーカーに掛ける。その機械は電源を入れスイッチを押した後、『ゴゴゴッ』という凄まじい音を鳴らしながら、黒い液体を吐き出し始めた。コップに入れられてしまった氷は出てきた液体と交わり合うことで、白い煙を放ち、自らの身を滅ぼさんとする。

 ラクは自分の分も、と思い同じ手順で珈琲を入れた。

 右手で自分の分を飲みながら左手で淹れてあげた珈琲を妹の元まで運ぶ。


「はいどうぞー」

「ありがとう…」

 妹は兄から手渡された矢先に珈琲を口に付ける。喉の渇きを宥めるためか、『ごくごく』と音を立てながら、グラスに入っている液体を一気に飲み進めていた。


「ぷは~」

 妹の一息ついた顔。すぐさまその顔に影がかかる。

「そういえばさお兄ちゃん…」

 妹の陰気臭い顔、何やらモノを言いたげな顔。

「うんどうした?」

 と、心の中で思った言葉がそのまま口に出ていた。

「えっと…何と言うかさ、昨日何かあったよね?」

『ブブー』

妹からの突然の完璧な指摘に思わず珈琲を吹き返す。吹き返した珈琲は気管に入り込み、すぐさま咳き込む。

何故妹は俺の今の考えが分かったのだろうか。もしや兄弟の絆的な奴か何かか?だとしたら嬉しいな…と思っている内に、続けて口が開かれる。

「顔つきがいつもより気持ち悪いっていうか、何か死に急いでいる顔に見えて、、、」

「おい、そんなこと言っちゃうか~普通」

「いや、でも、、、」

「大丈夫、大丈夫だから、な?」

 妹の寝癖が立っている髪を『わしゃわしゃ』と掻き撫でて、更に髪を逆立たせる。

「じゃあ俺行ってくるよ」

「死ね!もうどこにでも勝手に首を突っ込んでくれば!!」

 殺意すら感じ取れる目つきになった顔から罵倒の言葉が放たれる。だがその目の中が涙ぐんでいるのが良く見える。

—ああどうやら俺は死ぬことが許されなくなったらしい。分かってるさ、そんなことぐらい...。このままこれ以上部屋にいたら考えるべきでない考えが浮かんで浮かんでくると決まっていると思い、部屋を出る決意を胸に抱く。リビングの景色と、何か続けざまに口を開こうとしている妹『瑠奈』の顔を一瞥し、部屋を後にした。


 

お気に入りの動かしやすい靴を履き、家族で撮った写真に目を向ける。玄関口にはいくつか縁に入った写真が立ち並んでおり、赤ちゃんだった頃の自分自身の写真や両親の若かりし頃の写真まである。—うん…?この写真どこかで…。

「お兄ちゃんじゃあ気を付けて、いってらっしゃい」

写真に注目している洛錬の背後から瑠奈の声が飛んでくる。『いってらっしゃい』なんて普段なら両親が言ってくれる言葉であって妹は決して言ってくれるものでない。胸の芯が不思議と温まってきて洛錬の顔に嬉しさと悲しさのその両方が見受けられそうな感情が浮かぶ。







「行ってきます」

 短く、それでいていつもより重厚感のある思いのこもった返事をし、家の外に飛び出した。玄関の扉が完全に閉じ切るのを確認したのち、左手にある怪しく輝きを放つ銀色の指輪を見て力ずよく左手を握り込み住宅街中に響き渡るほどの『指パッチン』をした。


もしよろしければ評価の程よろしくお願いします!!

もう一つ私事ですが来年受験があるため小説の続きは1年半後となりそうです。

今まで一度でも目を通して下さった方、本当にありがとうございました。頑張ってきます!

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