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第一章12『話し足りない話し合い』

 今ここ食堂の場では地球から来た黒髪の男と、異世界人の水色の髪をした女が固い握手を結んでいる。

 この黒髪の男ラク。女子との関わりが妹以外殆どなく、普段ならこの握手という行為ですら一日を振り返った際には良い出来事だったと思い返すほどだ。

だが今回ばかりはその限りでは無い。そう、ラクが今行っているこの行為は自らの命を賭けると誓ったようなものだ。そのためもあるのか、既に決まり切っているラクの意志とは裏腹に体は正直にその誓いの危険性に怖じ恐れていた。それを表すかの如く握手をしていない左手の方は小刻みに震えている。さらに右手からは手汗が噴き出していることも感じた。

 

そんな状態にいることを色白く細い手の持ち主に分からせまいと、ラクは何とか心を落ち着かせようとしていた。

 トワは真剣にラクを見つめていて、その目には光が宿っていた。


「はい、は~い二人ともそこまでですよ~」

 固く握られている最中の手に、新たな両手の平が覆い被せられた。トワの手と同じように色白い手だがその実トワよりも一回り小さく多少の肉付きがある。その手の出所である横の方に目を向けると金髪の碧眼の女性、シスさんが少し腰を抱え気味に立っていた。

「う~ん『ラク君』が入ってくれるなんて本当に嬉しい限りですよ~」

 そう話すシスさんの顔は部屋に入って来た時と全く変わらない、満面の笑顔のままだった。

「ら、ラク君!?あの~シスさん俺達まだ2回ぐらいしか合っていないように思えるんですけどー」

「何言ってるんですか!ほら私とラク君の仲じゃないですか~。だからラク君も私のことを『シスお姉ちゃん』っていつでも呼んで良いんですからね~」

「あ、ああ。はは」

 シスさんに当てる言葉が何も見つからない。

「もう、またそう言ってトワみたいに『お姉ちゃん』呼びしてくれないじゃないですか~」

 頬をプクッとさせ抗議の言葉を放つ。上目遣いをして俺に見せてくる視線は、他の何にも形容することができない程美しく、少しばかりの欲情を駆り立たせるものだった。

 そんな彼女の目を見つめているとどこか魂を抜かれるような、骨の髄まで自分のことを知られたような感情に陥った。彼女の目には何か特別能力でもあるのだろうか。それとも俺自身がただ単にシスさんに対して何らかの感情を抱いたのだろうか……俺には良く分からない。そうしたどこからか伴ったのかが分からない漠然とした不安が襲い掛かって来た。


 今この場では誰も次の言葉を発せようとせずまま、ただ壁際にかかっている蝋燭のかがり火が、鼻一杯に満たそうと入ってくる。



「あのー二人ともそろそろ手どけない?」

  と、少しばかり疲れ切ったような言葉が呟かれた。そう話すトワは首を傾けていて、このやり取りに困り切ってしまったことを示している。

 トワの言葉に承知したのか「むぅ~」と一言シスが言い放ち、自分の背中の後ろに腕を回してそのままゆっくりと自分の席に戻っていった。

 握手をしていたトワの手も俺の手から離れる。

よく分からないが、何か少しばかり寂しい気持ちになってしまっている自分がいることも感じた。


「さあラクも席に座って」

 目の前の席に座るように促される。昨日の話し合いの時と同じように、テーブルの向かい側を座るようにと椅子に対して指を指していた。そこの椅子は昨日とは異なる木で出来た年輪が見える丸椅子だった。

 ふぅ…と息を吐きそこに腰を掛ける。コイツの座り心地はどうも悪い。

「じゃあそろそろラク君を呼んだ本題に移らないとですね~」

 正面にいるトワの口元はますます上がっていて、手をパタパタとバタつかせている。

「もうシス、止めてよねー。ラクが困ってるじゃない」

「えー、ん~しょうがないですね~」

 そう話すや否やトワは正直にチョコンと両手を膝の上に乗せ、口を噤んだ。

「さあ、気を取り直して私から順を追って説明させてもらうわね」

 と、音を立てながら両手を合わせる。

「うぃっす、了解したよ」

「うぃっす…?じゃ、じゃあ取り敢えずこれを見てくれるかしら」

 

 

 トワは椅子の傍に置かれていた折りたたまれた紙を徐に取り出し、机の上に広げた。折り目が付いているその紙には大きな1つの楕円形と、その上下にそれぞれ一つずつ一回り小さな楕円形が描かれていた。そこに写る図形の位置はどこかで見たことあるような既視感のある並び方だった。

「これは…一体?」

「これ?これはこの国の地図よ。」

「へー、でも地図にしては何というか適当というか、大雑把なものだな」

 そう、ここに描かれているものは何というか子供の落書きと言った方が程近いものだ。

「あーそれはね、国が大きすぎてちゃんとした地図が作成するに至ってないのよ。ここ『法治国家ボスクン』を船で一周した際に大体こんな感じっていうのが分かってね。でもそれだけじゃないのよ、『護国者』様一行が国を歩いて地図を作ろうとしたこともあって……。」

 


 彼女の話から耳寄りな情報があった。どうやらこの国にも船の存在はあるらしい。俺自身、少し前まではこの世界も一般的な異世界のように思っていたが、その限りでは無かった。キツイ思いも痛い思いも実際に身をもって体験して来たばかりだ。だからこそ現実とフィクションを分けて考えてなければならない。だからこそ俺はこうやって情報を得ていく必要があるのだ。

 と、右手を握り込んでその決意を胸にした。

「もしも~し、ラクちゃんと聞いているの?」

―はっ

 何だって人が話している間に考え事をしているんだ。

「…あ、ああ勿論聞いてるよ。それで、この地図がどうしたって言うんだ?」

「は~何か本当にキャスみたいになってる」

 と、今度はトワの方が心の声で済ませるべきであろう言葉をため息と共に小さく呟いた。

「えっとね、まずこの下の丸の方を見て」

「りょ」

 そう言うトワの指先は下の方に描かれている一回り円をグルグルと指している。

「はいはい質問!このなんか良く分からない円は何なんですかー?」

「よ、良く聞いてくれたわね。そう、これが今私達のいるナイシア地方の地図よ!!」

「…….」






「これが今私達のいるナイシア地方を表した地図よ!!」

「う、うん……」

「これが一番しっかりと描かれている地図です…はい…」

 何か彼女の顔を見ると何か申し訳ない様な雰囲気を醸し出していて、顔色が徐々に沈んでいっていた。

「えっと…」

「でも勘違いしないでね、島の配置とか方角とかは完璧に表せているからね!!」

 トワは得意げに話す。

「う、うぃ」

 代わりにラクがいい加減に返事をすると

「あ、表してるから~!!」

 と、抗議の文言を使い、両手をそれぞれ振り下ろしジタバタさせ「もうーー」と、不甲斐ない言葉を挙げていた。

 そんなトワの声は高い声と低い声が乱高下し小刻みに震えている。

「あ、うん別に気にしている訳じゃないからねww」

トワが必死に弁明しようとしている姿を見ていると思わず吹き出しそうになる。それと時折見せるその明るさはどこか妹の瑠奈を思い起させるものだった。


「もう良いわよ...。じゃあ説明するわね」

 放漫な様子から一転、顔が引き締まる。

「良いかしら。私たちが今いるところはさっきも言ったここ『ナイシア』地方で、昨日も軽く話した通り10年前『獣人国家シアナ』の連中にこの地方を占拠されたの」

「うん確かにそこまでは聞いたな」

「そ、で私達は地図のここら辺、最北端の防衛都市『カロク』を奪還しつつ南下していってこの地方全体を奪還せよ。っていうのが私達のチームと他のチーム達の一部、そして『ボスクン近衛騎士団』に与えられた任務なの」

 地図の上で指をスライドさせ、その道順を提示する。

 それと『ボスクン騎士団』という、初めて耳にする言葉が自分の辞書に追加された。

「…成程な。つまり、俺をその都市カロク奪還を手伝って欲しいってことだな」

「いいえ、それは違うわ」

 透かさずトワの反論の言葉が飛んでくる。

「ありゃ、違うんだ…」

「ええそう、この奪還作戦自体は2年前から始まったのだけど、都市カロク自体の奪還は三か月とかからずに奪還は成功したの」



 右手で作った握りこぶしを軽く地図に叩きつけ、鈍い音が発せられた。

「お、おう、な、成程」

「まあその奪還にもかなり犠牲者を出してしまったのだけどね…」

 そう語る横顔はどこか物寂しげだ。

「……」

 俺からもかけるべき言葉が見つからない。

「ラクもそう落ち込まないでね。もう2年も前のこと、それに全て終わらせてからでないとあの人たちが報われないわ」

「…そうか」

 二人の間に言葉にすることのできない僅かな間が流れる。


「…っ、っん。じゃあ気を取り直して続き話すわね」

「おう…」

「えっとカロクを奪還してからは色々とあったけど、何とか作戦通りに南下出来ていたのね。」

「はいはいはい」

「で、問題はここからなの」

「と言うと?」

「実は作戦自体はもうかなり大詰めなのよ。私達北部組が攻略しなければならい都市はあと一つ、ナイシア中央都市『ボボカレ』だけ。しかもその奪還作戦の始まりが『今日』の今からなのよ。」

「えっ、今日!?」


「ええそう、今日なの。でもそのボボカレの奪還がどうもね、かなり難しいものになるらしいのよ」

 明後日の方向を向いていて目を合わせようとしない。

「な、何が問題なんだ?」

 たどたどしい姿になっている彼女を瞳に映しながら、ラクは質問を投げかけた。


「それは圧倒的な人数差よ」

 

「…具体的に言うと?」

「…このボボカレ奪還作戦に参加できる人数が約900人に対し、向こうが大体3万よ…」

 3万…頭の中でその言葉が木霊する。3万人といえば今年の静岡県の出生数と大体同じだったはず。明らかに900人で敵うような数ではない。いかにして勝つための勝機があるのだろうか。

 自問自答するよりも先に

「なあ、それって実のところ勝てそうなのか?」

 とラクは質問を投げかける。

「分からないわ。キャスがいたら余裕だと思うけど、いなくなったせいで勝率は2割ぐらいになるわね。」

 トワから即座に帰って来た言葉は俺自身を消沈させるには訳のないものだった。今話した人数も気が滅入るものだったが、実際に戦って来た人からの言葉はかなり心に来る。




 肘をテーブルに付け指を組み合わせトワは続けざまに口を開いた。

「そう、本当はキャスがいないから結構大変な状況だったの。でもね、ラクが来てくれたことによって状況が変わったのよ」

「えっ、えっと何で俺が?」

 意外な言葉に言葉が詰まる。それもそのはず、倉井洛錬は生まれてこの方一度たりとも状況を一変させることが出来ていない。あの時も結果的に何も、足を動かすことさえも出来なかったのだ。そんな俺に状況を変えうる力なんてあるのだろうか…と、勘ぐっている内に胸らへんが一杯に目に見えない何かによって締め付けられた。

 前にいる二人に分からないように平然とした顔を見せる。


「だってその指輪さえあればキャスの代わりとして予定していた作戦が使えるようになるもの」

「…」

「その作戦さえあれば勝率は一気に上がるわ。多分かなり絶望的な状況から脱せると思うわ」











「…そうか」

 言葉にも満たない言葉が発せられる。


 『指輪さえあれば』か。確かにその通りだ…と、ラクは今一度自分の事を再認識する。そう必要とされているのはラク自身でなくこの銀色に光るモノの方であると。

頭の中では分かっていたことではあるが、実際言われてみるとかなり気後れするものだったのか後に続く言葉が出ようとしない。今のラクにとって相槌を入れることが精々出来ることに違い無かった。         


―心のどこかで一瞬でも期待した俺が馬鹿だった。







「……」

「……」

「……」

 誰も何も話してくれない状況があり得ないぐらい居心地が悪い。場を取り持ってもらいたいと思いシスさんの方を向くが、トワの言いつけを守ってなのか口を閉じて何も言おうとしない。

「…なあ、えっとその作戦って何なんだ?」

 ラクはこの何とも言えない状況から切り抜けようと、あまり疑問にも思っていない質問をした。

「あ、ああ作戦についてね。…え、ええっとそれは口で言うのもあれだから実戦の前に説明するわね」

「…了解」



「じゃあラク、何か他に質問はあるかしら?」

 両目をパッと見開き顎を軽く突き出してラクに質問をするように促す。



「…じゃあ二つだけ。一つ目にトワ達は防衛都市カロク?だったかを奪還してそれから南下して行ったんだよな」

「ええそう」

「だったらそりゃ防衛都市は機能してるよな」

「勿論よ」

「なのに何で昨日俺達は『バイター』と闘ったんだ?」

 トワは話したそうにしている。が、それにしてもまたあの顔だ。もう何度目だろう、もうこの短い時間で何回彼女の暗がかった表情を見たのは。しかもその顔は今までより一層曇りがかっている。

「そう、それはね多分…ない…」

「ん~ん、んんん~」

 トワの話に被さるように今まで沈黙を破ろうとしなかったシスが口をもごもごさせ、喋りたそうに必死にこっちに対して訴えようとしている。その目はどこか泣きそうだ。

「シ、シスどうしたの?…ってごめんごめんもう喋って良いわよ」

「ぷっは~。いや~やっぱり息を止めておくなんて凄く疲れますね~~」

 シスさんの顔は何かをやり切った後のような、爽快感を持ったもののそれになっている。


「あの、シス?」

「はいはいはい、あ~そうですね。私から『バイター』が現れた理由を説明しますよ~。」

授業中に精一杯発言しようとする小学校低学年生のように右手を元気よく高らかに手を挙げている。

「あーじゃあ任せたわ」

「それはですね…そう!バイターが現れた理由は植物の精が怒ったからですよ~。なんと言っても最近野菜を残す人が増えてきましてね~」

「シース何言ってるの、全然違うわよ。確か、えっと…あれ何だったけ?」

 首を傾け左上を向いている。

「もーう、シスのせいで頭から抜けたじゃない」

「わ、私のせいですか~、ソンナバカナ!!!」







 さっきとは打って変わる、言い知れぬ時間がただ刻々と過ぎていった。

「あっ多分そうね、そう、そうよ」

 小首をかしげていたトワは自問自答の言葉をぼっそと漏らす。

「そう昨日はねバイターの出現と同時に防衛都市カロクに『襲撃』があったの。それで、あのバイターにまで手を回せなかったらしいのよ」

「襲撃?」

「そう何者かによって襲撃されたらしいの」

 首を縦に振ってラクの話に同意の意志を示す。

「具体的に話すと、突然防衛都市の城壁の石が崩れ始めたと思えば、『黒いフード』を被った何者かに都市の人たちが攻撃されたらしいの」

「そ、それでどうなったんだ?」

 自分でも覚えていない内に額から流れる汗は地面に向かって真っすぐ落ちていっているのが確認できる。冷や汗だろうか何だろうか、それを答えてくれる人はいないままラクの質問に対しての答えが出た。

「今朝聞いた話なんだけど一万人もいる防衛団のうち死者は一人として出なかったらしいの」

「ほう」

―なら良か…

「でも、4割の4000人が戦闘不能の状態になってしまっていたらしいの」

「…えっ?」

「そのせいで今現在防衛都市は完全に機能しなくなってきてね…」

 



トワの話がすんなりと耳に入って来ない。それもそのはず今の話よりもその前に聞いた話の方が気になる。4000人というさっきの奪還作戦の戦闘に参加する900人よりもずっと多い数。だからこそ愕きの声が思わず漏れ出た。

それと『謎の黒いフード』を被った者に対する謎が一心に深まる。4000人が戦闘不能の状態になっているに対し一人も亡くなっていない事実が心の中にある『ズレ』の存在を加速させていた。


「…ってあれ、もしも~し聞いてる?」

「ワッス!……も、もちろんだけど」

 ラクの話す声は咄嗟のことに反応できずに震えた声を発していた。


「じゃあ続きを離すわね」

「うぃっす」

「えーっとそのフードを被った者が出た時、時を同じくして『バイター』がこことそう離れていないラクと出会った場所に現れたの。そのせいで南下中だった私達の隊の一部が戻ることになって、まあ、その何というか…残念なことに30人もの人達が犠牲になってしまったのだけどね」


「あっ」

 正直昨日起きたことのインパクトが余りにも大きすぎて意識の外側にしか残っていなかった。せめて今俺達を取り巻く問題が片付いたら必ず手を合わせよう….そうラクは心の中で誓いを立てた。


 



「…えーっと、聞きたい事のもう一つって何の事ですか~」

 考え事をしている間にシスが次の話題を差し込む。

「その、もう一つはそのー何と言うか」

「うんうん」

「いや何でわざわざ今日に奪還作戦をするのかな~って」


 どうかしたのだろうか、シスとトワは顔を見合わせ二人そろって目をパチパチとしている。シスさんは変わらず笑っているままで心情を読み取るに至らないが、トワからはそれが見て取れる。バツが悪いのかどの表情にも属さないどっち付かずの顔になっていた。


「だってそうだろ。さっきトワ自身がキャスがいたらほぼほぼ勝てるって言ってたじゃん。『代わり』として俺に期待したりするんじゃなくて、別に明日以降に変更するとかで良くない?」

 多少皮肉交じりに理由を話す。


「えーっと、それがそうでもないのよ。」

 トワの困った顔。

「……」

「そのー何と言うか、確か….あの人によって今日戦うように指揮されたはず…」

 小声でボソッと呟く。

「ん、今何て?」

 残念ながらラクの耳にはトワの発言は届かなかった。

「いや詳しい話は私も良く分からないわよ。多分だけど…向こうに行ったら説明してくれると思うわ」

「…….」

「だから取り敢えず、この話しは一旦保留で良い?」

「うーーーん、分かった…」

 話しに対しては正直腑に落ちない所が何個もある。何と言うか、わざとかと思われるように質問したこと全てについて全然言及してくれていない。



「まあラクも色々と考えるところがあると思うけど後々ね。時間は永遠になんてあるわけない。過ぎた時間はもう帰って来るわけない。だからこそまずは目の前のことから全力に」

 ラクの疑問を補完するように話す。



―そうだ、そりゃそうだよな、俺は誓ったんだ。今度こそ戦うって。













だろ、『信哉』。




「さ、そろそろ準備に取り掛かりましょう。じゃあ30分後にもう一度ここに集合ね」

「りょーかい」

「あ、お菓子は持ってきても食べる時間なんてありなせんよ~」

「いや、持って行かないよ!!」

 そう言い放った後、「じゃあ」と言って右手を上げラクは二人をこの部屋に残したまま、ここ、食堂を後にした。




 


 廊下に出ると初めに相も変わらず、無数のドアが得も言わずに立ち並んでいるのが見える。自分自身の遠近法もビックリするほどに扉の間隔が等しくて、よくある絵の構図そのものだった。

 ラクはその場で目的のモノがないかを探す。目的のモノは勿論あのベッド部屋だ。ラクは先の経験から、この指輪を使ってあっちとこっちの世界を行ったり来たりする場合、それぞれの世界の場所がリンクしていると確信した。まだ確定したわけではないため、まだまだ実験する必要があるとラク自身考えている。

 

 数秒何枚もの扉たちを見渡して目的のドアを発見した。

 そのままの足で扉に向かい、目的のベッド部屋に入った。


 『時間は永遠じゃない』と言ったトワの言葉が頭の中を一杯にする。

 明らかに夜中のうちにバックに何か準備しておくべきだった...ってそれだけの理由じゃないだろ、と自分にツッコミを入れる。そう、俺は今から行くのだ。死ぬかもしれない事態と隣合わせの戦いに。

ならば、全身全霊で戦いに対する考えを持たなければならないだろう。

 


 ラクは今から始まる戦いに決意を固めて、『指パッチン』をした。



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