第一章11『大事そうで大事な会議in食堂』
『ピピピピピピピピ』
目覚ましの鳴る音が聞こえる。今すぐにでも目覚ましを叩いてもう一度寝てやりたい。芋虫のように布団に包まったまま時計の時間を確認する。文字盤には短い針が7の辺りに、長い針が2の辺りにある。
つまり7時10分ということだ。
その事実に気づいてから二度見するが、やはり変わらない。
—―やばい!確か集合は7時だったよな…
「急がねば」
今の出来事に冷や汗をかいたラクは、もう完全に目が覚めた。そうして黒いジャージに着替えダッシュで階段を降り、洗面所で歯磨きをする。
「ふっ、今日も寝癖が付いてんな」
いつ見ても俺の顔は少し馬鹿らしい。何でそう思ってしまうのだろうか。
玄関に向かい、靴を履いた。玄関には家族で撮った写真が飾られている。そこには妹が無邪気にピースをしている姿が映っている。確か4年前に遊園地に行ったときに撮った写真だっただろうか。…4年前つまりまだ信哉が生きていた頃。
その時は確か横に俺とあいつが修学旅行で一緒に撮った写真もおかれていたハズ……。
「ふうーー」
ラクは一度大きく息を吐き、向こうの世界に行こうとした決心を改めた。これ以上ここにいたら昨日した選択が無駄になりそうだったから。
—―良し、行くとするか
『パチン』
今日の指パッチンの音は昨日に比べて格段に良い音が鳴っていた。
—いいね~今日こそは良い日になるかも
そんなことを少しでも考えている内に、気づいた時には既に昨日俺が治療してもらっていたベット部屋にいた。
食堂からだったら家の前の道路に、玄関からだったらこのベット部屋に移動する。そして道路から玄関、この部屋から食堂まで、この2点間の距離はだいたい同じぐらいだった気がする。
—やっぱりそうか、そうだったのか。この世界と向こうの世界は位置関係がリンクしているってことじゃないか?
バイターと闘っていた最中に感じていた違和感が晴れた。つまりこっちの現実で進んだ距離分、あっちの世界に出てくる位置も移動していたことになる。道理で奴の方向に進んでいたわけだ。
—―ん?ちょっと待てよ。リンクしていたってことはあんなに何度も指パッチンしまくるんじゃなくて、一度現実に戻ってこっちでその距離分進んでから向こうに行けばよかったんじゃ…。
ラクの頭の中で前回の戦いの反省点を上げる。戦っている最中には一切思いつかなかったことだ。が、今にしてみればあれほど命を賭けた戦いをする必要は無かった。
—いや、大事な事は次に活かすことだよな。
ラクは決意を新たにして足早に食堂に向かった。
食堂の扉を開けると、そこにはトワとシスさんが椅子にちょこんと座って待っていた。トワの方は昨日していた包帯はもう巻かれていない。たったの半日で治ったのだろうか。
「ねー遅くな~い?完全に遅刻だよー」
目の前の昨日メッキが剥がれたばかりの女騎士は気の抜けた口調で話しかけてきた。正直こっちの方が可愛い。
「いや、ごめんなさ…ごめん、ごめんちょっと寝坊しちゃって」
「もう寝坊なんてキャスみたいなこと止めてよね。キャスなんていつも起きようとしないから、いつも私が起こしに行ってるのよ」
トワは呆れかえった口調で話す。
「えーでもいつもトワを起こすのはシスお姉ちゃんの方ですよね~?」
「そ、それはシスが起きるのが速すぎるからでしょ。」
「えーそうですかね」
「んーもう、そうなの。シスお願い、ラクが抱いている私の騎士っぽいイメージを崩さないで上げてお願い」
口を膨らませて講義する。
―って自分で『騎士っぽい』って言っちゃってるよ。おいおい本当に大丈夫なのか?
彼女の話し方から冗談にも満たない気持ちを抱く。多分、彼女なりの背伸びなんだろう。
会話に集中していたから気づかなかったが、そういえばキャスがこの場にいない。昨日はあれほどチーム入りを望んでいたキャス自身がだ。
「ちょっと一つ聞きたいことがあるんだけど」
「うん何?」
と、トワはすかさず相槌をいれてくれた。
「えっと、キャスってどこにいるんだ?」
疑問の念を投げかける。
「あーキャスならこの場にいないわ。今日の早朝に本部に呼ばれて首都の『ヒース』に向かったわよ」
「はいはい、そういうことね」
通りでこの場にいないわけだ。だが疑問が一つ残る。何で今日本部?に呼ばれたのだろうか。何かとんでもないことでもあったのだろうか?
いや今はそんなことは良い、取り敢えずその話は後で良い。
それとこの国の首都の名前は『ヒース』というのか、成程ホースみたいな名前だな。
—うん、ホース...馬?
やはりここも異世界、移動手段は一体何だろうか。馬を使ったり転移魔法的な奴を使ったりするのが異世界のセオリーとか言われているはずだ。
話すべきことあるのは分かっている。だが興味の対象がそっちの方に移った。ならば聞かざるを得ないことだ。
「なあ、この世界って何で移動するんだ。やっぱり馬とか?」
言った矢先しまったと思った。異世界だからといってこの世界までその通りなんてこと特段あるわけでも無いよな。
「うーん移動手段として馬を使ったりするわ。確かに戦地に向かう時とかは馬だしね。でも首都とか遠くにある場所への移動には使わないわ」
「成程、馬も使ったりはすると。じゃあその遠くにいくのには」
「ふっ、ふっ、ふ、そんなの決まってるわよ…。」
「は、はあ」
「それは何と言ってもオーパーツよ!!!!遂にオーパーツについて話す機会が回ってきたわね!!いい、安心してね!!たったの12時間でオーパーツが何なのか、どこから来たのか、その魅力とか、難しいオーパーツの使い方とかを分かり易く説明するわね!!!!」
トワはオーパツについて話そうと胸をおどらせていている。勢い良く席から立ち上がるとそのままラクの前まで擦り寄って来て両手を掴んだ。
「えーえっと、トワさん...」
トワの目は直視出来そうにない程輝いていて、上目遣いでラクの方を見つめている。最初の頃のような女騎士の面影はもう無い。
普通の何かにハマって心が高鳴っている女の子のそれだった。
そりゃそうだ、俺と変わらないぐらいの子だったらこれぐらいのが当たり前に違いない。むしろ女騎士のように振る舞っていたのは子供っぽさを隠すためではないだろうか。
「そうねまず何から話そうかしら。一番身近にあるオーパーツとか?それとも『最恐』と呼ばれているオーパツについて?いや国の切り札と呼ばれる『六根十五品』のオーパーツ達についてかしら…いや、あれでも良いわね...」
「いや、今はちょっとそれより先に伝えたいことがあるんだけど...」
「う~んそうね、まず護国者様が身に付けていたオーパーツについて...」
気持ちが高まっているのか、ラクの声はトワの耳に届かない。どうやら本気でオーパーツのことが好きらしい。
「は~いトワ、そこまでですよ~。オーパーツについてよりも先に話し合わないといけないことがあるんじゃないですか~~」
椅子に座って、朗らかな笑顔で聞いていたシスがラク達の会話に間に割って入って来た。本筋から外れつつあった今としては凄く有り難い。
「何よシス、オーパーツよりも優先すべき話なんて特にないでしょ。」
そう言って座っているシスの方を向く。
「何言ってるんですか~ありますよ。ほら~ラクがチームに入るかどうか聞かないとでしょ~」
「ハッ」
トワは「そういえばそうだった」とでも言いたげに、勢い良く顔を上げてラクの方を向いた。
「あ、ははは」
申し訳ないと思ったのか、苦笑いに近いへんてこな笑顔をしている顔がそこにはあった。
「えーっと、トワさん?」
『ん、んっ』
一度咳払いをする。その後瞬きを何度か繰り返し、そのみずいろの髪を揺らして顔を整え、握っている手を離し、一歩下がってその旨を話し始めた。
「さあラク、チームに入るかどうか聞こうかしら」
目の様子が変わった。バイターと闘っていた時と殆ど変わらない目だ。
その真剣な表情からはラクの出方がどうなるかを探っているように見える。
―でもそんな風になる必要は無いよトワ、だって俺の意志は既に固まっているから。だってそうだよな信哉。俺はもう決めているからよ。
「俺を、俺をチームに入れてください」
「.......」
辺りの空気が静まり返る。
トワもシスさんも何も話そうとしない。二人が一度顔を見合わせると真剣な顔をしてトワが切り出してきた。
「そう、ありがとう。ラクが入ってくれるのは本当に嬉しいわ。でもなんで、ラクはチームに入りたいと思い改めたの?」
「それは俺がどんな人でも救う、『ヒーロー』になると誓ったことを思い出したから」
「えーっと、分かっていると思うけど命のやり取りを行うのよ」
トワの顔はさっきよりも真剣なモノに変わる。
「ああそれも分かってる。だって俺の命はとっくにあの日に終わっているから」
「じゃあ自分の世界の人で無くても救うというの?」
また一段と顔色が暗くなる。
「ああ勿論絶対に助けるよ。だって、もし俺が動くことで救えたかもしれない命が、俺が動かなかったせいで助からなかったとしたら怖いんだ。いや違う、考えるだけでも怖いんだ」
「そ、そうなの」
「いや怖いだけじゃない、吐きそうになるし、死にたくもなるんだ。だって俺が信哉にしてしまったことは何があっても許されないことだから。」
「しんや...?」
トワは一度肩をすくめる。
「ああそう、俺の昔の親友の名前」
これ以上トワの純粋そうな顔を見てられない。だって…
「そう、ラクも大事な人を失ってしまったのね。だからさっきからあんなに苦しそうにしていたのね」
今確かにトワはラク『も』と言っていた。もしかしてトワも誰かを...
「ああ..そうだ。だから、だからこのチームに入りたいって思うのは罪滅ぼしをしたいっていう俺のただの自己満足に過ぎなくて、ただ心の穴を埋めたいだけだと思うんだ。それでも、それだからこそ俺は人助けをしたいんだ。いや、したいんです。だから俺をこのチームに入れてください」
ラクは頭を下げて、自分から手を突き出した。
これ以上の言葉は何も出てこない。言いたいこと、言わないといけないこと、俺の胸の中にあるものは洗いざらい全て吐き出した。そう俺にはしないといけない事があるから。
—な、信哉。
「ありがとうラク、まさかここまで真剣に話について考えていてくれたのね。昨日とは随分変わったようね。じゃあこれからよろしく頼むわ」
トワは突き出しているラクの右手を握り絞める。
そうしてラクとトワは、固い固い握手をした。
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