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第一章

完結しています。

見直しが終わり次第投稿します。

全七章です。

短編のつもりで書いたら長くなったので連載形式にしました。区切りに違和感があったらすみません!


 私の名前はリラティーヌ、通称リラ。

 カルトン侯爵家の娘であり、第二王子ロバートン殿下の婚約者であり、超有名恋愛小説家である祖母の自称敏腕秘書である。そして一応学生でもある。まだ十六歳なので。

 明るい栗色の髪と瞳で中肉中背、そこそこかわいいと自負している。

 六年前までは自分がこの国で一番かわいいのだと恥ずかしい勘違いをしていたが、それは私のせいではないと思う。特殊な環境のせいだわ。

 

 飛び級を繰り返して、必要な単位は既にほとんど取得してしまったが、まだ週に三日は学院に通っている。

 ダンスと体操と芸術と魔術の授業は、まとめて試験を受けるというわけにはいかないので。

 それに生徒会の手伝いをしなければならない。役員じゃないけれど。

 

 学院へ行かない日は祖母のために、原稿の清書、スケジュールの管理、編集者との打ち合わせ、イラストの指示、そして小説のネタ探しをしている。

 しかも、侍女の如く祖母のために秘密基地の掃除や整理整頓、お茶入れ、食事の世話までしている。だから私はとにかく忙しい。

 

 恐らく平民になっても一流の侍女かメイドとして生活ができると思うわ。うぬぼれではなくマジで。

 だって私、筆頭侯爵家の令嬢で淑女教育は完璧なのよ。その上掃除洗濯、ベッドメイキング、お茶の淹れ方もばっちりなんだから。

 

 しかも、学院での成績はトップで三カ国の言葉は流暢に喋れるし、祖母譲りで文才あるし、書類をまとめるのも契約書作りもお手の物。帳簿付けは少々苦手だけど、人並みに計算はできるし。

 だから、もしかしたらどこかの会社で雇ってもらえるかも知れないわ。

 でも、いくら女性の社会進出が進んできているとはいえ、甘いかしらん?

 

 だけどまあ、殿下に婚約を破棄されたり、離縁されて子連れで追い出されたとしても、なんとか独立してやっていけると思うのよね。

 だって祖母の個人遺産の受け取り人って私なんだもの。

 

 お祖母様は超人気作家だから、その印税は凄いわよ。まあ、その半分は寡婦遺児協会に寄付してるんだけど。

 もちろん、私が遺産を引き継いでも半分寄付するわよ。

 

 もっとも遺産受け取るのって大分先、恐らく二十年以上先だわね。その頃私は三十代半ばだろうから、そこまではなんとか生き延びないといけないわね。

 

 祖母の秘書として出版社とは大分顔馴染みになったから、コネで雇ってもらえないかしらん?

 昨日出版社に原稿を届けに行った時、担当編集者のべッカーさんにその話を振ってみたら、大歓迎ですと笑顔で言われた。だけど、口先だけよね。あんな作り笑いしちゃって。


「リラティーヌ様、次回作のあのテーマもリラティーヌ様がお考えになったのですか?」

 

「いいえ。今回は祖母が長年温めていたテーマみたいです」

 

「ヘェ~、それは珍しいですね。このところの作品はリラティーヌ様が提案された、流行るだろうと思われるテーマを元に、先生がお話を作られていましたよね」

 

「ええ。でも今回はシビアな話みたいです。ずっとそのテーマの話を書こうと思っていたらしいのですが、今まではそれを発表するタイミングではなかったらしくて」

 

「タイミングですか? 先生にとっては何か大きなメッセージの籠もった作品なんでしょうね」

 

「詳しいことはまだ聞いていないんです。

 ただ、ヒットするような内容ではなさそうなので、こちらの出版社の意向には沿わないかも知れないそうです。

 ですからその時は、自費出版の形になると思うと申していました。ご期待に添えなくて申し訳ないと申しておりました」

 

 私はコーヒーを飲みながらこう言った。貴族社会では紅茶がまだ主流だが、一般の市民社会ではコーヒーの方が人気だ。ブラックコーヒーを飲むとできるヤツという目で見えるらしい。

 まあ、私は砂糖とミルクを入れないとまだ飲めないが。

 できる女になるにはまだまだ先ってことかな?

 

「この後はどうされるんですか?」

 

 出版社のビルの階段を下りながら、祖母の執事のオルトさんが聞いてきたので、取材を兼ねて今話題のスイーツを食べにカフェに行くつもりだと答えた。

 すると、彼は少し嫌そうな顔をしながらも頷いた。

 オルトさんは甘いものが嫌いなのだ。味も匂いも。毎回付き合わせるのは悪いとは思うのだが、女性一人でカフェに入るには勇気は私にはまだない。

 

「オルトさんもついてないわよね。お祖母様の専属になってしまうなんて。

 そもそもお祖母様の内職の手伝いや、私の護衛の真似までさせてしまって」

 

「とんでもないです。大奥様の専属になれるなんて大変名誉なことで、大変嬉しく思っております」

 

「そういう意味じゃなくて。父か祖父の執事になっていれば、カフェなんかじゃなくて、バーとかクラブとかに行けたのにってことよ。

 甘いものよりお酒の方が好きでしょ?」

 

「まあお酒は好きですが、お付き合いの酒はあまり好きではないので、問題はありませんよ」

 

「あら、そうなの?」

 

「ええ。好きな酒は、一人、あるいは本当に好きな人と一緒がいいですね。嫌な人に気を使いながら飲むなんてごめんですね」

 

「そうですか。つまり今は一人酒なんですね。早くシェリーさんと飲めるようになれるといいですね」

 

「な、な、何をおっしゃっているのですか!」

 

 オルトさんは酷く慌てて、いつもは理知的でクールな黒い瞳をキョロキョロと彷徨わせている。エーッ、ばれていないと思ってたんですか? とっくにバレバレですよ。

 出版社へ行く時、服装にかなり力が入ってますもんね。今の流行を取り入れて。後ろで縛っていた濡羽色の髪もスッキリ切って短髪になって。

 元々美丈夫でしたが、ますますイケメンになっています。

 

 年上でできる女性が好みだと思っていたら、やっぱりそうだったんですね。

 シェリーさんは出版社の社長秘書で二十代半ばの金髪碧眼の美女です。ジャケットと膝下のタイトスカートがピシッと決まっています。

 

 オルトさんは趣味がいいですね。私も彼女が大好きで、憧れの女性です。

 ちなみに去年大ヒットした祖母の小説の当て馬になった女性のモデルはシェリーさんです。

 私の予想通り、控え目で受け身のヒロインよりヒーローに当たって砕けた潔いその脇役の方に人気が出ましたね。まあ、女性ファンには。

 

 オルトさんはその小説を読んだ時、その脇役の女性が気に入っていたので、もしやとは思っていましたが。

 二人が付き合えるように、私は陰ながら応援しますよ!

 

 その時ふと私は、ブルネットヘアーをきちんと七三分けにした、エメラルド色の瞳をした自分の婚約者のことを思い出した。

 

  ✽✽✽ 

 

 生徒会で祖母が書いたそのヒット作の小説が話題に上がったのは、今から三か月くらい前のことだった。

 作品の中に出てくる当て馬の女性が好きだと言った、一つ年上の女性の先輩に、ロバートン殿下がこう言った。

 

「あんな慎みのない女性がいいだなんて、人前で言わない方がいいよ。君もそんな女性だと思われると困るだろう?」

 

 先輩は顔を真っ赤にして怒りを露わにした。

 

 すると殿下は、

 

「淑女が感情をあわらすなんて恥ずかしいことだよ。あっ、君は平民だったね。それでは仕方ないか。

 ねっ、君もそう思うだろう?」

 

 いつものように冷え冷えとした三白眼をこちらに向けながら、殿下は私に同意を求めてきた。

 そうなのだ。殿下が私を見る目はいつもとても冷たい。

 とはいえフェミニストでいつも紳士的な殿下が、人前でこんなことを言うなんてと正直驚いた。もしかしたら腹の虫が治まらないくらい嫌なことがあったのかも知れない。今ならそう思えるのに、あの時は心に余裕がなかった。

 だから私はあの時殿下にこう言ったのです。

 

「殿下が本の感想を尋ねられたからナンシー様はご自分の感想を述べられたのです。それなのに一方的にその意見を否定されるのはいかがなものでしょうか。

 ご自分以外の感想をお聞きになりたくないのでしたら、最初から人にお尋ねにならなければ良かったのです。

 私達女性陣には殿下がどんな感想を望んでいらっしゃるのかわかりませんわ。そちらにいる側近の皆様とは違って。

 それに感情を表すなとおっしゃいますが、表さなくても察して下さる相手ならいいですが、そうでない方も多いので、むしろ積極的に表に出した方がよろしいのではないでしょうか。

 淑女として振る舞うのは相手が紳士の場合のみでよろしいかと存じますが。

 まあ殿下、怒り心頭といった顔をなさっていますが、どうなされたのですか? 

 同意を求められたのに私がそれに応じなかったから気分を害されたのですか? それは申し訳ありません。

 殿下の気分を害するのは私も不本意ですので、今後一切私に同意を求めるのはやめて頂けると幸いです」

 

 それ以降私と殿下は会話をしていない。もちろん私の方はきちんと挨拶だけはしているけれど。

 そしてあの件以来、私はナンシー様や他の女性役員の方々と親しくなれたわ。

 

「私のせいで殿下との仲をギクシャクさせてしまってごめんなさい」

 

 ナンシーさんがとても気に病まれたので、私は正直に殿下との関係をお話しした。

 

「私達は契約魔法で強制的に結ばれた婚約なので、元々恋愛感情はないのですよ。それでも互いに思い合えればいつかはと思っていたのですが、相性ばかりはどうしようも無いですよね。

 初めての顔合わせの時点で、私は殿下に完全に嫌われてしまったんです」

 

「えっ、そうだったんですか? だっていつも生徒会室でお二人で一緒にお仕事をされていますよね?」

 

「あれは殿下というより、王家の意向なんです。将来殿下の補助ができるようにと。殿下は私を鬱陶しいと思われているんじゃないですかね。

 でもできればこのことは内密にして頂けるとありがたいのですが」

 

「もちろん絶対に口外はしません。でも契約魔法なんて本当にあるんですね。てっきりお話の世界のことかと思っていました。

 ほら、エレン=グリフレット先生の『真実の愛は未来に実を結ぶ』のお話の中にも出てきますよね」

 

 ナンシー先輩も祖母の読者らしい。

読んで下さってありがとうございました!


最後まで読んで頂けると嬉しいです。

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