06 『ゼファー』
早朝、ひとり、鍛錬の時間。
無心で槍と戯れる。
「ふーっ」
新しい槍は、手に馴染むなんてもんじゃなかった。
自身の修練の大半を共に過ごした、あの師匠の槍。
しなり具合も重量バランスも、まさにあの感覚のまま。
鍛錬するほどに身体が喜んでいるのが分かる。
それが、ただただ嬉しい。
「ご機嫌ですね、モノカ」
「おはよう、ノルシェ」
「新しい槍、そんなにすごいのですか」
「武器としての能力は『絶金』よりも劣るよ」
「?」
「アリシエラさんが、可能な限り師匠の槍の使用感に近い物となるように心血を注いでくれたんだ」
穂先の欠けた『絶金』を見てアリシエラさんが言った言葉。
『武芸者に、武器に合わせた戦い方を強いるなんて製作者の恥でした。 モノカさんのこれまでの鍛錬と寄り添えるような相棒、必ずや生み出して見せますよっ』
成形後は絶対に加工不可能と言われていた『絶対金属』を鍛造して鍛えられた穂先。
システマの外装用に開発された『絶金』複合素材の製法が応用された柄。
触感・重量・全体のバランス、そしてしなり加減まで、全てが師匠の槍のまま。
初めて手渡された時の目を閉じての演武の後、アリシエラさんとふたりで顔を見合わせ、お互い満面の笑み。
あちらの世界とこちらの世界、ふたつの世界の自分を繋いでくれた、これまでの人生の結晶。
「銘は、決まったのですか」
『ゼファー』
『絶金』複合素材の正式名称『絶対金属積層複合素材アーティファクト』の通称からの名付け。
ちょっとカッコ良すぎたかも。
「モノカの、朝練で火照った身体をおかずにしての朝食も良いのですが、出来ればシャワーだけでも浴びてきてくださいねっ」
分かってるよ、ノルシェ。
汗に濡れた肌着一丁の姿、胸の成長度合いをチェックして安心したんだよな。
手の中のゼファー、まるで指先と一体化したかのようなこの感覚、たまらん!
石突きでノルシェのお尻をぷにぷに突きながら、テントへ向かった。