02 妻
居間に戻って、大人しくいつものポジションに着く。
つまり、床に、正座。
ふたりの妻たちも、黙っていつものポジションに。
つまり、俺の目の前にしゃがみ込んで、圧を掛ける準備万端。
ふたりのメイドたちも、いつものポジションに。
つまり、これから起こるご主人のアレな姿と距離をとりたくて、厨房へ。
「今日のこれは、残念ながらいつもとは違うぞ、アラン」
リリシアが、本気だ。
「とても残念ですけど、ね」
マユリも、本気だ。
「『英雄、色を好む』と言うが、我が家のご主人様はモノカ殿に匹敵するほどの英雄だったようだな」
お褒めに預かり光栄であります、姫君。
「英雄って言うよりも、ご主人様の命令をはぁはぁしながら待っているわんちゃんみたいでしたけどっ」
ご褒美セリフありがとうございます、姫さま。
「「何か言うことは!」」
これ以上無いくらいに下落しきった今の俺の評価、必要なのは半端な言い訳よりも……何だろう?
「俺はこんな男だが、ひとつだけ誰にも負けないと自負している事がある」
「女性を見る目の確かさ、だ」
「ふたりと共に暮らせるこの生活こそがそれを証明する証しであり、俺の得られた宝物で人生の全てなんだ」
「「……」」
「セルマさんもまた俺の目の確かさを証明する女性であることは、ふたりならすでに分かってくれていると思う」
「家族に迎えたいとかそういうことではなく、素敵な女性に賞賛の眼差しを贈ることこそが俺の生き様そのものである事を、俺が素敵な女性代表として選んだふたりならきっと分かってくれると信じている」
……どうでしょうか、おふたりさま。
「つまり、これからも素敵な女性に色目を使うのを黙って見ていろ、ということなのだろうか、マユリ」
うっ
「そもそも素敵な女性うんぬんだったら、モノカさんたちやロイさんのお仲間にも賞賛の眼差しとやらをばんばん贈っていたはずですよ、ねっ」
なるほどっ
「「何か言うことは!」」
「……ごめんなさい」
平穏よ、さらば。