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飛竜を投げて恋されて  作者: 黒森 冬炎
ブルートパーズ
9/70

9•ギルバート•オーウェン•ハウス

 黴臭い狭路を進み、階段を数段下る半地下の店に入る。間口が狭くうなぎの寝床のように縦長の酒場、ギルバート・オーウェン・ハウスだ。ドアには直接彫り込まれた店名と、開店中の木札があった。階段の下にドアがあるため、気をつけないと見落としてしまう。


 店のドアはかなり傷んでいて、店名もすり減ってしまい、あまり目立たない。ドアに取手はあるが、内開きのため、面を手のひらで押す客が多いのだ。その磨耗具合から、ここで長く商いをしていることが知れる。



「いらっしゃい」


 薄暗い店内からくぐもった声の親爺が声をかけてくる。店内にはまだ客がおらず、細長いカウンター席の内側に親爺が一人でいるばかり。


「今晩はー」

「どうもー」


 2人は中程の位置で立ち止まり、泡酒を注文する。程なく丁寧に注がれた黄金色の酒が来る。透明な魔法素材(クリアスルークール)のジョッキは、使い込まれて濁り始めていた。しかし、この素材最大の利点である保冷機能はまだまだ現役だった。


「乾杯」

「乾杯」

「冷え冷え」

「くー!」


 改めて乾杯した2人は、言葉少なに盃を進める。


「なんか珍しい酒ある?」


 出されたジョッキをあっという間に飲み干したエシーは、カウンターの中に声をかけた。スーザンも飲み終えてジョッキを返した。


「はやっ!お客さんたち、強いねぇ」


 バーの親爺がぎょっとする。昼から呑み続けている2人は、全くそんな様子は見せないながらも、酒と揚げ物の匂いを漂わせていた。酒場の主なら、一軒目ではないことなどお見通しだ。それもあって2人の呑み干すスピードに驚いたのである。



青色麦火酒(ブルートパーズ)なんてどう?」

「ブルートパーズ?」


 店主のお勧めは、2人が聞いたことのない酒だった。青色麦という最近開発された穀物の蒸留酒らしい。この穀物は形こそ麦によく似ているが、匂いも味も色も全くの別物だ。何をもとにして作られたのかは公表されていないのだった。


 どぎつい青と赤紫の毒々しいまだら模様で、苺のような甘い香りがする。パサパサしすぎているので粉にしても美味しくないし、すこしえぐみが強い。

 ところがこれを蒸留して酒にすると、途端にスッキリとして癖のない極上の酒に変わるのだ。


 しかも香りがまたいい。初めに広がるのは、華やかで優雅な大輪の華のような甘い香り。呑んでいるうちに空気に触れて、香りはまろやかな優しさを見せ始める。最後にはさわやかな柑橘系の香りを残して、幸せな気分に浸れるのだ。


 そんな解説を聞きながら、2人はボトルを見せてもらう。ラベルを読んでいくと、生産地はゴルドフォークと記されていた。


お読みいただきありがとうございます

続きもよろしくお願いします

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