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飛竜を投げて恋されて  作者: 黒森 冬炎
竜を投げる女のお見合い前夜
7/70

7•政略結婚






 フィリップ班長が仕事に戻り、残った2人は食事を続ける。2人とも休日のため、追加でおつまみなど頼みながらのんびり食べ飲みした。


「フィリップ殿下いくつだっけ」

「19」

「それで班長かよ、すげぇな」

「不世出の大天才だからね」


 スーザンは自分のことのように自慢げだ。


「いつから付き合ってんの」

「付き合ってないってば」

擲竜(てきりゅう)は訓練期間、山ん中で共同生活だもんな」


 エシーは一人納得したように頷いている。


「仲間意識は育つけどさ。それだけ」

「じゃあお前、突然妃候補が差し替えられても平気なの?」

「そりゃ、政治ってそういうもんでしょ?」

「他の女の手を握ったりとか、肩を寄せ合ったりとか、見ても耐えられんの?」

「フィル班長がそういうことしてんの、想像できない」


 相手云々以前に、スーザンにはフィリップ班長が甘ったるい雰囲気を出す姿を思い浮かべることすら難しいようだ。


「まじかよお前」


 エシーは、先程の2人のやりとりや雰囲気を思い出す。とても仲睦まじい夫婦者のようだった。壁のない自然なやりとりは、仲良しの部下と上司では収まり切らない何かがあった。

 指摘されて一瞬でも慌てた2人は、互いを意識しているとしか思えない。


 だが確かに、熱愛カップルのような甘さはなかった。結婚目前のじゃれあいとも考えにくい。エシーはストレートに気持ちを伝えるタイプなので、2人の関係性は不思議である。



「まあでも、そんだけ仲良いなら結婚しても大丈夫じゃね」

「大丈夫もなにも、政略結婚だから」

「政略だろうが自由だろうが、仲良くもなるし悪くもなるぜ」

「そりゃまあ、そうなんだけど」


 スーザンははっきりしない表情でジョッキを傾ける。定食を食べ終わったエシーは、干した貝を摘みながら酒を呑む。


「生活と仕事がくっついてんのは、王宮騎士やってりゃあ、王族じゃなくたって一緒だしよ」

「うん、そうね」

「なんだよ、不満なの」


 スーザンは鷄の付け合せ野菜をもそもそ齧りながら淡々と答える。


「ピンとこないんだよね」

「そこは暮らしてくうちになんとかなんじゃね」

「そんなもんかね」

「うちの両親はそうだったらしいぜ」

「ふーん」


 また一口、黄金色の泡酒を呑む。


「ま、なるようになるでしょ」


 ジョッキを置くと、ちらりと札を見る。フィリップ班長が置いていった情報収集資金だ。


「これで買える情報ってどこいったらいいのかな」

「裏町の酒場とかじゃね」

「田舎の噂ならギルバート・オーウェン・ハウスかな」


 ギルバート・オーウェン・ハウスは、店の名前である。店主のギルバート・オーウェンがレジェンダリー王国首都の裏町で営む間口の狭い酒場だ。奥行きはそこそこあって、カウンターの立ち飲みだけ。日雇い労働者や首都に来たばかりの田舎者の溜まり場になっている。

 安い酒と簡単なつまみで、故郷の話に花を咲かせるのである。そこならば、特徴のない田舎についても何か知ることが出来るかもしれない。


お読みいただきありがとうございます

続きもよろしくお願いします

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