69•王宮の庭園にて
ディヴィス・レイニーフィールド=ゴルドフォークは、流言により人心不安を煽った角で取り調べを受けた。
スーザンの件は、やはり惚気に見せかけた悪口であった。スーザンは、人界防衛の象徴的一族の次期当主であり、本人はほとんど山奥にこもっている。噂が本人まで伝わり真実が発覚するころには、各地の小村は壊滅後だと踏んだのだ。
首都スターゲインベルクで強力な魔法使いへの風評被害を流し、ブルートパーズで魔力暴走を起こした魔法使いへの適切な救助活動を阻む。
そうして激減したあとで、正義の魔法使いが現れるという幼稚なシナリオだったようだ。
「世の中、案外安っぽい筋書きで動くもんさ」
リチャードが熱いコーヒーを楽しみながらニヤリと笑う。
今回の臨時遠征に伴う特別休暇で、人界最強の3人はのんびりお茶を楽しんでいた。本来ならスーザンとフィリップ班長のお見合いが行われる予定だった王宮の庭園である。
涼しい木陰を作る掌状の葉を持つ大木の下、3人は緑色に塗られたガーデンテーブルを囲んでいる。
「さて、お見合いはどうするね?」
「そこは省略で大丈夫です」
「いや、しかし、形式というものが」
スーザンとフィリップは、まじまじとリチャードの顔を見る。
「おじさん」
「大臣」
呆れる2人にリチャードは涼しい顔で対応する。
「なにかね?王宮典範は守らないといけないよ」
「では、王宮騎士団規則も、王宮勤務者就業規則も守っていただけますか?」
「非常時特例があるだろ」
「だいたい後からこじつけるくせに」
「何を言う?緊急でなければわざわざ出かけないよ。メンドクサイ」
本音のようだ。
「まあ、それはともかく、僕たちの気持ちははっきりしてるので」
フィリップが苦笑いで伝える。スーザンは赤くなって俯く。
「婚約式も省いて」
「えっ、フィル班長、それはいくらなんでも」
「長いよ?長いだけだよ?」
式典の時間の話である。
「そのくせ内輪だからお金がかかるだけで国民は楽しくもなんともないし」
「ラスカルジャーク出現でもあれば、2人は駆り出される立場だしな」
「うーん、確かに無駄かも」
スーザンは青い花が混ぜ込まれた薄焼きの硬い菓子をパリっと齧る。ほのかな花の香りと甘い乳製品の香りが混ざり合って消える。苦く濃いコーヒーを一口飲むと、スーザンはフィリップのほうを向く。
「2人で散歩でもしながら、結婚式の日取りを決めてきなさい」
「そうですね」
「ちょっと話してくる」
リチャードは若い2人を送り出すと、頭上の葉から透けて見える青空を嬉しそうに見上げた。
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次回、最終回です




