68•捕縛
リチャードも飛び降りて防壁を踏みつける。3匹の飛竜も尻尾や爪で防壁を攻撃する。内側からの攻撃は、魔法使い放題に復帰した3人の敵ではない。
広範囲にわたって打撃を受けた防壁は、やがて亀裂を広げて砕け散る。
「久しいなあ!レイニーフィールド卿!」
リチャードの気楽な挨拶が返って威圧感を放つ。家財道具の中心で人々に守られているゴルドフォーク領主の前に、3人は飛び降りた。ゴルドフォークの全員が一度に強力な魔法縄で拘束される。
「世界唯一の魔法使いにでもなるつもりか?」
嫌味っぽくリチャードがレイニーフィールド卿に話しかける。
「くそ」
レイニーフィールド卿は短く悪態をつく。午後の陽射しが眩しくさして、丘の上で大量に散らばる家財道具に囲まれた犯罪者たちは、非常に間抜けな情景を作り出している。
ラスカルジャークを操り、その死体を肥料にした有毒植物を栽培するという凶悪犯罪が行われた地だという事実を、うっかりすれば忘れてしまいそうだ。
「ラスカルジャークは増やせたかね」
リチャードは、レイニーフィールド卿の側にあったキャビネットから資料を取り出して訪ねる。それは、ラスカルジャーク飼育計画書であった。
「ふん」
地中に埋めた死骸から、元の個体とは無関係な種が発生するとの記録があった。
「こんな実験したのになあ」
消えないタイプのラスカルジャークの死骸からは、さまざまな有害物質が発生する。そのため、通常は焼いたり溶かしたりして跡形もなく処理するのである。
それを、わざわざ肥料にして植物を育てた。その副産物として、ラスカルジャークを死骸から生み出す方法を得たようだ。だが、死骸全てから新たなラスカルジャークが発生するわけではないようだった。
「効率悪すぎないかね?」
レイニーフィールド卿は、リチャードのにやにや笑いを睨みつける。
「こんな程度の結果しかないのに、魔法使いを減らしてどうするつもりだね」
レイニーフィールド卿は黙っている。
「完全に操れるわけでもないようだしなあ」
増えたり突然襲来したりするラスカルジャークをどうするつもりだったのか。今のところは、流出防止機能つき魔力循環型の防壁が機能しているようではあるが。
「先史文様文化の技術で足りるなら、ラスカルジャークはとっくに絶滅しているよ」
リチャードの声は含み笑いで追い詰める。
「現代魔法技術文化が急に滅んだら、人類はラスカルジャークに呑まれるね」
「ゲートを王宮騎士団犯罪捜査部隊本部に開くから、あとはそっちで頼む」
リチャードはゴルドフォーク調査班本部に簡単な通信を入れた。憮然として黙したままのレイニーフィールド邸住人たちは、リチャードの開いたゲートを通って犯罪捜査の専門部署へと渡される。
「さて、帰るか」
「みんな、ありがとう」
スーザンやフィリップたち擲竜騎士は、飛竜を労い山へと帰す。飛竜が飛び立つ午後の空には、眩しい白雲が浮かんでいる。時折襲撃してきたラスカルジャークも既に途絶えた。上空にいたアンバーとエシーが首都スターゲインベルクへと戻っていく。スーザン、リチャード、フィリップの3人もゲートを通ってひとまず調査班本部に帰ることにした。
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