64•熊狩り
幼年時代以来の悪ガキコンビ復活に、スーザンは楽しそうである。ストロングロッドで大人を困らせたエシーとスーザン。まだ魔法を使えなかったスーザンと、既に罠や投石道具、灯などの簡単な魔法道具を作っていたエシー。
スーザンには及ばないまでも、幼児エシーは後に独学で王宮騎士団に入団する程の逸材だ。大人顔負けに動ける子供だった。
5歳の頃、山へ遊びに行った時のこと。エシーは小石に小枝を突き刺したような物を持ってきた。
「それなに?エシー」
「遠くの音を聞く道具だよ」
「へえー」
「万が一ラスカルジャークが現れても、遠くにいるうちにわかるから避難出来るぜ」
「ラスカルジャークくるの?」
「来るかもしれないだろ」
「やだねえ」
ストロングロッド地域は、まだ人里にラスカルジャークが現れたことがなかった。リチャードが山奥に湧くラスカルジャークを殲滅していたので、人里近くまで降りてくることが皆無だったのだ。
「エシー、いま道具からガサッて聞こえた」
「うん、なんか大きい動物だな」
「確かめる?」
「だいぶ遠いぞ」
「行ってみようよ」
スーザンは好奇心丸出しである。
「そうだな」
エシーも道具の精度を確かめたいので、音源との距離を確認に行く。
「熊だね」
「口が血だらけだ」
「凶暴なやつかな」
「逃げるか」
「エシー、こないだの眠らせるやつ持ってる?」
「あるけど、この大きさには効かないよ」
「試してみようよ」
「うーん」
ひそひそと藪陰で話していると、凶暴な大熊がこちらを見た。気づかれたのだ。逃げるには熊との距離が近すぎる。エシーは咄嗟に眠らせる道具を使う。熊の動きが少しだけ鈍った。
熊は2人に近づいてくる。スーザンは小刀を取り出して付近の小枝を素早く切り取った。
「エシーも投げて!」
スーザンは切り口を斜めに切り出した小枝の束を両手に持って飛び出す。エシーは素早く横手に回り、渡された小枝を片手に手頃な木によじ登る。登りながら熊の喉元目掛けて小枝を投げる。
「スーザン、喉だ!」
スーザンは、熊の周りをぐるりと回りながら木立を生かして高く跳ぶ。跳びつつ小枝を投げる。こちらも首狙いだ。子供の力で狙える急所は、骨のない喉元しかない。
「うん!」
移動しながら正確に首だけを狙って、小枝を突き刺してゆくスーザン。投げながら新たな小枝も切り出してゆく。合間にエシーも投げる。熊が攻撃の方向を決めかねて戸惑っている。
「エシー道具は?」
「使ってる!」
熊の鋭い爪が大枝にあたり、生木の枝が皮一枚でぶら下がる。エシーは小枝をなげる傍、腰の周りに下げた魔法道具を試している。眠らせる道具や動きを止める道具を駆使して、熊の動きを鈍らせる。焔や雷と同じ現象を起こせる小型投石器も試す。
「やった!」
首周りに小枝を多数刺した大熊の眉間に、炎と雷を纏った小石がめり込んでゆく。志向性魔法を施したエシーの投石器は、現在の熊とエシーの距離なら必中である。この技術は世界初であった。
熊は断末魔の咆哮をあげる。激しく振動する木に、子供2人は振り落とされないようにしがみつく。
眼下の熊が動かなくなると、2人はそろそろと木を降りた。
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