63•攻勢
魔力を吸い出す霧で作られた壁の側で待機していたフィリップ班は、すでに魔法を使う魔力が残っていない。皆は飛竜の上で長剣を振るう。
アンバーは、飛行能力をもつ種類のラスカルジャークを撹乱する。数種類入り乱れる飛行種の中を、高く低く円盤型のフライトモビルで飛び回る。
勿論、ただ飛び回るだけではない。機体からはラスカルジャークに効く薬品を散布する。人間や飛竜に害はないので安心な薬剤だ。
「旦那ぁ、畑に引火しますよ!」
アンバーが上空から許可を求める。
「消火も忘れるなよ?」
「ミルドレッドじゃあるまいし!」
アンバーの円盤が一旦右方向を下げて傾き、やや旋回してから急降下する。畑スレスレを円盤が飛ぶ。通り過ぎた後は、焦げた青色麦が畑だった場所に散らばっていた。
やがて無数の飛竜が飛来する。地上に降り立ったフィリップ班長とスーザンは、残り少ない魔力を温存した。
「おじさん!」
取寄で体力回復剤を取り出すと、スーザンはリチャードに渡す。
「ありがとう」
リチャードが回復剤の効くまで静かに待つ。フィリップ班長は、やってきた飛竜を豪快に投げながら街道を走り出す。
しばらくして動きを取り戻したリチャードは、鮮やかな体捌きでラスカルジャークの群れを薙ぎ倒して進む。ゴルドフォークの中心地を目指すのだ。
「ゲートを開くぞ」
「えっ?大丈夫?」
「なに、戻った魔力で足りるさ!」
この辺りの毒霧は晴れ、リチャードの魔力も再び溜まり始めていた。他のストロングロッド騎士達も雑草魂を輝かせ、踏まれた首をまっすぐ起こしていたのであった。
「トム、着いたら畑を焼くの手伝え」
「了解。夜には着きますぜ」
広大なゴルドフォーク地方一面に広がる青色麦畑を焼くのは、それなりに時間がかかる。遅れて到着するトーマス班だが、十分役に立てる見込みだ。
「エシー、いつ来られる」
「1時間ってとこですかね」
エシーの乗りこなす浮遊板は、人体保護のシールドがついていて、飛竜より速く飛んでも不都合がない。ただ、高速移動器具のため、操縦が難しい。現地で戦力になる乗り手は、現在エシーだけ。
「よしみんな、1時間頑張れ!」
「へっ、エシー!早く来いよ!」
スーザンが子供に返ったような悪ガキの顔つきをした。2人が揃えば、出来ないことはないのだ。
エシーもストロングロッド出身者だ。一般のレジェンダリー王国民に比べれば魔法のレベルは高い。確かにスーザン達のような強大な魔法は使えない。だが、魔法道具の天才技師である。地中から現れるラスカルジャークや、ひっきりなしに出現する飛来種を一網打尽にできそうだ。
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