61•毒麦畑に響く笛
スーザンは、ミルドレッドに言われなくともリチャードやフィリップへの通信を試みている。
「特に変わらな」
言いかけてぎょっとする。
「え」
通信の向こうにいる人々がざわめきだした。
「銀爪渓流瀑」
フィリップ班の3人が呟く。
毒霧の壁付近で待機していたフィリップ班の通信デバイスを通して、スーザンがフィリップに渡した竜寄せの笛の音が響き渡ったのだ。
「壁の向こうから聞こえる!」
リサが驚いて叫んだ。
「今まで音も聞こえないし、何も見えないし、匂いも流れてきてないのに」
ビルの目でも毒霧の壁の向こうは、何一つ見えない。この笛には、特別な力があったようだ。
「この光」
リサが息を呑む様子が、魔法通信に乗って聞いている各班へと伝わる。
「銀爪渓流瀑の光だ」
3人はその笛を見せて貰っていた。1日目に泊まった山頂で、フィリップ班長が開けた革の小袋から溢れ出した銀青の柔らかな光はよく覚えている。それが今、分厚い霧の向こうから漏れ出してきたのだ。
「けどなんでワイバンコールを吹いたんだろ?」
ビルが首を捻る。
「ワイバーンに乗って壁の中へ入ったよな?」
ティムが不思議そうに言う。
「ラスカルジャークの大群がいるんだ」
スーザンが見解を述べ、気を引き締める。
「ナイトランのおじさんに飛竜一匹とフィル班長じゃなんともならないほど」
スーザンは深呼吸すると、キッパリと言った。
「行ってきます」
次の瞬間、スーザンはゴルドフォークの青色麦畑に立っていた。
「スー?何してるの!」
フィル班長がムーンライトフルームフォールを口から離して怒る。
「助太刀に来たっす!」
スーザンは、殺気だけでラスカルジャークと戦うリチャードをチラリと見やる。
「まずは、上っす!」
スーザンは風の魔法を身に纏い、飛竜の到着を待たずに飛翔する。
「スー!」
「あいつら殲滅したら、リチャードおじさんが動けるっす!」
スーザンが狙うのは、毒々しいオレンジ色の翼を持ち、急降下してきてはまた天高く去る一群だ。鋭く曲がる嘴と、金色の鱗に覆われた2本の脚。爪は尖って青黒く光る。
「1人で行っちゃダメだよ!」
リチャードは叫ぶと、毒麦畑の中でラスカルジャークと戦う飛竜を残して飛び上がる。
毒霧の壁の向こうでは、ワイバンコールの音波がミルドレッドの装置で拡散された。それに伴う魔法波を拾いだし、幾重にも共鳴させて国中に響かせる。こうして、レジェンダリー王国の隅々からワイバーンの群れを呼ぶ。
「飛竜達が来る」
ビルは、最初の数匹が壁を目指して飛んでくるのを見つけた。
お読みいただきありがとうございます
続きもよろしくお願いします




