6•ポテトを巡る攻防
エシーはなおも疑わしそうに2人を見ながら酒を啜る。2人はと言えば、すっかり落ち着きを取り戻している。フィリップ班長は話題を戻す。
「それで、デイヴィスってやつ、君たちとおんなじ故郷じゃないよねえ」
「違います」
エシーが答える。スーザンもポテトをもぐもぐしながら頷く。
「共通の知人は?」
「居ねぇと思います」
スーザンがこくこくと首を縦に振る。フィリップ班長は無言でスーザンの皿からポテトを奪った。
「班長!金持ちのくせに!」
「あ、ごめん、美味しそうでつい」
スーザンの皿は一品料理である。エシーとフィリップ班長の定食にはポテトがついていない。
「単品で頼めばいいでしょうに」
「いや、それほどでもない」
「もうあげないっすよ」
フィリップは残念そうにポテトを見た。
「親世代も接点ないの?」
班長は気を取り直して質問を続ける。
「ゴルドフォークのレイニーフィールド家なんて話題になったことねぇです」
「実家でもナイトランのおじさんちでも、聞いたことないかなあ」
「ゴルドフォークと俺らの故郷ストロングロッド地方はすっげえ離れてますぜ」
「ゴルドフォーク地方のことなんか、話さないよねえ」
「交流もねぇですし」
「特徴も特にない農業地帯っすよね」
「ゴルドフォーク地方を少し調べてみるか」
フィリップ班長の思案顔にエシーとスーザンは真面目な顔で頭を下げる。
「ぜひ」
「お願いします」
「うん。王宮に戻ったら、リチャード大魔法卿にも確認しておくね」
「じゃあ、今日帰ったらナイトランのおじさんに解ったことがあるかどうか聞くっす」
「そうだね」
フィリップはもう一度ポテトを見ると、しばらく考えるそぶりを見せた。
「あげないっすよ」
「わかってるよ」
休憩時間が終わるのか、フィリップ班長はお金を置いて席を立つ。エシーはその札を見てぎょっとする。
「殿下お釣りは!」
エシーが巨大な背中に声をかける。
「適当に使っていいよ」
「ええっ?」
「多すぎます!」
「いいって、たいした額じゃないし」
「殿下、定食は500円ですぜ?ミント水だって大でも250円だし。全部で3000円いかねぇです」
「技兵さんは細かいなあ」
「いや、フィル班長が大雑把すぎるっす」
「たまにはいいだろ」
「いや、良くないです」
「団長に叱られるんじゃ」
「プライベートってことで」
フィリップ班長が置いて行くのは10000円である。お釣りのほうが多いし、配属2年目の新米騎士にとってはたいした額である。
レジェンダリー王国王宮騎士団は、驕り禁止なのだ。ただし、個人的に仲良くなった友人や恋人同士ならば、勤務時間外に限り許可されている。何かのお祝いや慰労会をすることだってありうるからだ。
「フィル班長勤務中だし」
「休憩時間だからいいだろ」
「ダメっす!店員さん早くお釣りあげて」
「これで緑の飴でも買ってよ」
エシーとスーザンはハッとする。緑の飴とは、王宮騎士団の隠語で特殊な情報のことである。
「店員さん、やっぱあとでいいっす」
「じゃあね、スー。明日よろしく」
「はーい、こちらこそ」
「ん?見合い?」
「そ」
「スーって呼ばれてんだ?」
「ん」
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