59•マドモアゼル・コシェ
街道経由班が陸路でゴルドフォーク地方へ向かう時、フィリップ班は飛竜に乗って空から護衛した。道々ラスカルジャークに出くわすことはあったが、それほど苦にはならなかった。
アンバーとモンティは首都スターゲインブルクへと急ぎ引き返す。計測技術者やフィリップ班から託されたサンプルを、魔法技術部隊の本部研究所へ持ち帰る為である。
小規模調査団では間に合わない事態になっている。調査班の皆がそう感じていた。
「それじゃあ、頼みます」
「はい」
「先ずは結果を出さないと」
今まで計測出来なかった調査結果を、きちんと数値化して提出するのが先決だ。そうすれば、目に見えて異常だと解るので、ゴーストタウン化した村や町を本格的に調査できる。
「ウチにはフェニックスライドがいますから」
モンティが請け合う。
ウチとはストロングロッド騎士のことである。
「はは、爆弾乙女か」
「ああ見えて成分分析が専門ですよ?」
「分析しては余計な組み合わせを試して、実験と称して変な環境で勝手に放置するだろ!」
「そこはなんとか魔技の部隊長に見張ってて貰えば」
「不安すぎるだろ」
モンティは、採取した土壌やブルートパーズの残り、廃屋の木材や壁石などを最新の保存容器に入れてもらう。これを最速で損なうことなく運搬出来るのはアンバー・"馭者台の魔女" ・ハリケーンライドだけ。
これについては皆が納得し、信頼とともにサンプルを託された。分析担当者に関して揉めている時間が惜しい。
1人で全部を担当するわけではないのだ。処理の速さと正確さから、大半はミルドレッドが行うだろうけれど。誰が見張るのかは魔技の問題なので、今は考えなくてよい。
「じゃあ、戻りますね」
アンバーとモンティは通信デバイスをハンズフリーに切り替えて出発する。
婚約中の歳の差カップルが行きは何事もなかった街道を、軽快な魔法装置回転音を響かせてひた走る。乗り物に並んで座るモンティとアンバーは、同時に険しい顔を作った。
羊も牛もいない、牧草が伸び放題な丘陵に、何が忽然と立ち現れたのだ。ひとつ、ふたつ。何かの影が増えてゆく。
「ラスカルジャーク」
2人の呟きが揃う。
「大したもんは積んでないけど」
「私はこういうの、役に立ちませんよ!」
「わかってるって、ダーリン」
モンティも騎士なので、一応剣は使える。しかし、高速で動く物に乗って飛び道具を使うのは無理だ。彼は諜報が得意な情報通信部隊の騎士である。
一方のアンバーは、馭者台の魔女の異名に恥じず、自分で改造した自慢の最新車両で応戦する。
「とりあえずは、殺魔剤噴霧」
言いながら親指で運転パネルの一箇所に触れる。車体の右側から噴出された薬剤が霧となり、風に乗ってラスカルジャークに吹き付けられた。
「いつもながら鮮やかだね」
モンティは恋人を称賛する。
「片付けは頼みますよ!」
アンバーは、騎士団本部に街道の清掃を依頼して、再びスターゲインブルクを目指す。ラスカルジャークは牧草と街道とに横たわる。
モンティはちょっと身体を捻って、もうすぐ妻となる馭者台の魔女の頬っぺたにキスをした。
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