58.スーザンの出発
現地の状況を聞いたスーザンは、直ちに装備を整えた。魔法毒解毒剤を詰めた小瓶を食堂のテーブルに並べると、取寄待機の魔法をかける。
「遠征ですか?」
瓶を並べる音を聞きつけてマーサがやってきた。
「おじさんを探しに行く」
「お気をつけて」
女中頭のマーサは励ましの言葉をかけて、食堂を出る。邸内の皆に知らせに行ったのだろう。
取寄待機の魔法は、最近スーザンが開発した魔法である。取寄の魔法と一緒に使う組み合わせで発動する魔法だ。取寄待機をかけた品物ならなんでも、どこにいても、取寄で取り出せるのである。
いまのところ、器だけにかけると中身は取り出せないので、改良中である。また、一度取り出したものは戻せないのも改善すべき点であった。
非常食や他の小瓶薬もテーブルに乗せて、ひと通り取寄待機をかけておく。
「くれぐれもお気を付けて」
「リチャード様が連絡できないほどなんですから」
ナイトラン邸の皆は、心配そうに集まってきた。
「大丈夫、ちゃんと一緒に帰ってくる」
首都スターゲインブルクにあるナイトラン邸の食堂は、この2日間ストロングロッド出身騎士による首都調査予備班の臨時詰所になっていた。魔法通信の送受信に1番優れているスーザンが常駐できるからだ。
スーザンにとっては自宅なので、常駐しても負担がない。強いて言えば、料理人がやや忙しくなったくらいか。ただ、しっかりした食事を提供するわけではなく、むしろ場所の提供には規定に従って謝礼金が支払われた。癒着を極端に嫌うレジェンダリー王国王宮騎士団らしい明朗会計である。
「帰ってきたら、うんとご馳走つくりますよ」
「ありがとう」
料理人の言葉に笑顔で礼を言うと、スーザンは魔法通信用の小型デバイスを取り出す。ナイトラン邸の皆は心得ていて、さっと食堂を出てゆく。騎士団の調査に関わる通信が行われるのだ。当然、部外者は聞くわけにいかない。
本部を通して状況を確認し、スーザンはゴルドフォーク入りを申し出た。初めは渋った調査本部メンバーだったが、結局は許可が出た。
「先行しているナイトラン大臣とフィリップ殿下、スーザンまで首都をはなれるのか」
「3人じゃ足りないっす」
「はあ?1人でも過剰戦力な面子だろうが」
「今回そうもいかないっす」
スーザンは、剛腕卿事件を思い出していた。
「ちっ、仕方ない。許可するか」
「されなきゃ困るすよ」
「人界の最大勢力を3名投入するんだ。必ず短時間で帰還しろ」
「無茶言わないで欲しいっす」
魔法通信で共有されている音声が、スーザンと本部の会話を全調査員へと流す。途端に、全ての現場が静まり返った。
スーザンは、本来無茶しかしないナイトランの養子であり、無茶が日常になっているフィリップ班の班員である。そのスーザンが無茶だと言った。状況の深刻さが浮き彫りになり、皆の額に冷や汗が流れる。
「スーザン、俺、ナイトラン邸に待機する」
エシーが通信係の引継ぎを申し出る。するとミルドレッドも名乗りを上げた。
「あたしは魔法技兵部隊本部研究所から参加するよ!」
途端に空気が重くなる。
「おい、ミルドレッド・フェニックスライドか」
「そうですよー」
「参加って、何するつもりだ」
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