53•剛腕赤毛の武勇伝(3)
2人が駆けつけた時、残りの3人は剣を手に苦戦していた。棘草の影響で殆ど無くなってしまった魔力。四方から襲ってくるラスカルジャーク。彼らはまだ14歳だ。いくらエリート騎士候補でも、筋力も体力もたかが知れている。
「なんて運が悪いんだ」
目のいいビルが苦しそうに息を吐く。
「四方からラスカルジャークはくるし」
彼にはだいぶ遠くから来る群れまで見えている。
「足止めされてるこの場所は棘草群生地の近くだったし」
今対峙している群れの他にも、何故か次々やってくるのを発見したのだ。
「地形や植物が偶然に魔法回路を作っちゃったみたいだねえ」
ぐるりと見回したフィリップ班長が落ち着いた表情で言う。言いながらも急降下してきた翼のあるラスカルジャークを切りながら飛ばしている。切り飛ばされた死体が群れを巻き込んで岩に叩きつけられる。頭上に突き出した木の枝に刺さる。
「棘草は焼いたし、木の枝もだいぶ折れて、岩の配置も変わったから、回路は切れたみたいだけどね」
既に向かっていた群れは止まることなく襲ってくる。
「最初の群れが暴れたせいで回路が繋がっちゃったんだろうね」
フィリップ班がこの場所に差し掛かった時、上空から沢山の岩が落とされた。翼あるラスカルジャークの仕業である。それをきっかけにして、運悪くラスカルジャークたちを呼び集めるなんらかのシステムが構築されてしまったのだろう。
「まあでも、それだったら、回路を壊して、来たやつを片付ければ終わりだよね」
魔力を棘草に取られたために、フィリップ班長は壁の魔法が切れている。ラスカルジャークの返り血が全身を染めている。さらには戦いで跳ね飛ぶ大量の小石や小枝、またはラスカルジャークの攻撃によって、あちこち切り傷も出来ている。
強い毒を受けた時には解毒剤を服用しながら、フィリップ班長は動き回る。班員も最悪の状況に対して果敢に立ち向かう。
「凶運なんか、腕一本でねじ伏せてみせるさ」
ところどころ血で固まった赤毛を靡かせる優しい笑顔が、スーザンには輝いて見えた。だが、のちに他の班員が語ったところによると、その穏やかさが不気味だったという。
四方をラスカルジャークに囲まれ、魔力は切れて魔法がほとんど使えない。硬いラスカルジャークの鱗や甲羅で剣が折れた。予備の小刀どころか小石や枝まで使って虚しく抵抗するしかない。3人は絶望に染まっていった。
一度は鋭かった班長の目つきが凪いだような表情を見せた時、フィリップ班の生存は決まったのだ。静かな顔つきでありながら、動きは豪壮であった。その赤毛は、さながら森を焼き尽くす炎のようであったという。
「ひいっ」
「こええ」
「狂ってる」
スーザンだけはそう思わなかったのだが。
「何言ってんの?理想の騎士じゃないの」
(ついて行きます!)
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